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照れ隠し





 ゼノとの会話はそれ程盛り上がらない。

 ゼノは話さないわけでもないし、クールとは違うし、大人しいタイプでもないが、決まって朝日との会話は褒められたり、感謝されたり、目を輝かされたり、と胸の辺りをこう、ムズムズさせられる。

 嫌なわけでは無い、だからこうして世話を焼いている。


「ここは何屋さん?」


「ここはアクセサリー屋だ」


「アクセサリーも必要?」


「アクセサリーって言っても冒険用だ。回復とか魔力強化付与とか、まあ色々扱う店だ」


 お店の中は簡単に言うと雑多な感じだった。


「いらっしゃ………あぁ。ゼノか」


 店に入るなり、満面の笑みで擦り寄るように距離を詰めてきた店員は客がゼノだと気付くや否や一瞬でその表情を変える。

 直ぐに朝日の存在にも気が付き、ゼノに再び視線を戻す。


「いつの間に子供作ってたんだ。エリザか?もしかしてマーラか!いや、彼女はそんなミス犯さないか。いや!わざとと言う可能性も…」


「アイルトンじゃあるまいし、余計な心配だ」


 何となくだが、彼はワザと朝日に聞かせるためにそんな事を言っているような気がした。とても本気で言っているようには見えなかったし、ゼノもそう捉えたように対応していたからだ。


「じゃあこの子なに?」


「新人だ」


「お前こんな事するタイプだっけ?」


「…知らん」


 ゼノが置いた少しの間が更に彼に勢いを付けさせる。揶揄う彼を鬱陶しそうに無視するゼノを見て朝日は少し羨ましそうにしていた。

 彼は嬉々とした表情で朝日に視線を向ける。

 よく分からない状況に取り敢えず笑ってみせた朝日の顔をゼノは隠す。


「はぁ?お前何様?こんな可愛い子一人占めして楽しい訳?独占欲?キモ!死ね!」


「キレるとこうして語彙力が落ちる」


「うん」


「ただ、こっちの方が大人しいからお前もそうしろ。沸点も低い簡単だ」


「うん」


「何だよ!このカス野郎!何のようだ!」


 さっきまでの饒舌で早口な独り言は嘘のようになくなり、怒鳴っているが、言葉数は格段に減っている。どっちを五月蝿いかと問われれば大した差はないように感じるが、さっきのままだと中々本題に入らなかったんだろうと察した。


「ただの顔合わせだ。朝日は素材採取の依頼をメインにしてる。お前のためだったんだが、帰らせてもらう」


「いや、待て待て待て。悪かった。朝日君だっけ?ロイヤルパンサーの鉤爪取ってこれたりする?」


「あるよ」


「マジかよ、神かよ。女神かよ。愛してるよ。本当に、愛してる」


「辞めろ、気持ち悪い」


 抱き着こうとした彼を寸前の所で止めたゼノは思いっきり後ろへ押し返す。

 あれはもうキスする勢いだった。


「僕、男だけども」


「ぎゃー!男っ!尚更おっけい!俺、女嫌いだから」


「そうなの?カッコいいし、モテそうなのに」


「そう、俺は生まれた時から格好良過ぎたんだ。女はわんさか寄って来て、うざいし、臭いし、面倒くさいだろ?」


「僕、女の人としか話した事なかったからゼノさんとか冒険者の人とかと話せる方が嬉しいよ?」


「女としか話した事ないとか苦痛だな。苦痛すぎるな。俺は女はメイリーンしか愛してない!」


「メイリーンさん?」


「そう言う店の女だ」


「…そう言う店…」


 そう呟く朝日に彼は慌てて耳を塞ごうと手を伸ばすがそれすらゼノに止められている。

 それでも女の人が好きなんだ、とは言わないが、うん。


「違う!違う!そんな変な嘘を言うなよ!下品だ!下品すぎる!少年に吹聴するようなことじゃなーい!」


「こいつは16だ。成人してる」


「…嘘だね」


「アイラさんとおんなじ反応!」


「兄妹だからな。俺はジオルド、宜しく」


 朝日はそんな気がした!とゼノを見上げて楽しそうに言う。何がそんなに楽しいのかとも思ったが、考えるのも今更だ。本当に朝日は何も知らないのだとゼノは知ったのだ。

 普通武器屋や防具屋に行くとまず手持ちの中で最も優れている素材を出す。もしくは欲しい効果などを予め伝えて必要な素材を聞く。

 朝日の言う事が本当ならば彼は殆どの素材を持っていて、前者も後者も関係無く提案も注文も出来るはずだ。でもそれをしなかった。

 これまでの朝日の行動がこれで全て納得いったのだ。ギルドに登録したい割にあまり実情を知らなかったり、外食や買い物を始めてと言ったり…それくらいなら貴族の坊ちゃんの家出くらいに思っていた。貴族の買い物ならツケを使う事も多いだろうし、ギルドについて知らないのも当然だ。

 しかし流石に貴族の坊ちゃんでも防具屋や武器屋の使い方くらいは分かる。特に16歳を超えているのなら。

  まぁ、防具に関しては貴族、平民、冒険者、問わず必ず持っている。数年前のあの出来事のせいで。


 だからこれを知らないのはおかしい事なのだ。

 ゼノはそれ以上を考えるのを辞めた。

 いつか話してくれるだろう、と。




 少し冷静を取り戻した店員は小さく咳払いをしてゼノと向き合う。


「で?お前見つけたの?」


「まだだ」


「本当、何処やったんだか。折角この俺が見つけて来てやった最高級の剣なのに」


 何の話だろう、と朝日は二人を見上げる。

 ゼノの困った顔は珍しい。

 何処を探した、とか、あそこは見たか、とか二人だけの会話を朝日は見ているだけ。


「剣?」


「あぁ、コイツね?戦闘中に吹っ飛ばされてさー。そのまま剣をどっかに置いて来ちゃったんだとよ!

コイツの要望を全部!盛り込んで完璧!に答えたこの世に一つしかない素晴らしい逸品!だったのにだぞ?ありえねぇだろ?んで、今わざわざパーティーを帝都置いて一人でこっちに探しに来てるんだぜ?世話ねぇーよな」


「何処で落としたの?」


「ねぇ、そこは普通~さ?怪我してないの?とか心配することはじゃね?」


「森だ」


「どんな奴?」


「無視かーい」


「真っ黒」


 真っ黒。それが特徴になるくらい真っ黒なのか、それしか特徴がないくらい真っ黒なのか。

 しかし自身の持ってる大剣とは違うという事はよく分かった。


「代わりよこせ」


「はいはい、それが本題だった訳だ」


 確かに今ゼノが持ってる大剣はかなりガタがきているように見える。何とか鞘に収められてはいるが、はみ出した刀身はボロボロで、鞘とまるで形があっていない。

 要は元々のが見つかるまでの使い捨ての剣のよう。

 それなら、と朝日はポシェットから一つの大剣を取り出す。

 良くも悪くもない見た目。長くも短くもない刀身。可もなく不可もない、普通の大剣だ。


「使い捨てならこれでも良いかと思って」


「え、何で大剣なんて大きいもの入いるの?」


「そんなのも持ってたのか」


「うん、持ち上げられないからゼノさんがとって?」


「え?本当に無視?てか、持てないならどうやってポーチ入れたんだよ!」


「まあまあだな。コイツが出すのより良さそうだ」


 最後のゼノのその言葉が決めてとなったようで落ち込んで店の隅の方でモジモジしながら、俺アクセサリー屋だよ?武器屋でもないのに買いに来てるお前がおかしんだよ?と文句を言っていた。


 再びお礼を言う。

 しょぼくれたまま、後ろ手に手を振って振り返りもしない店員を少し気の毒に思いながらも店を後にした。



「ここって…武器屋、じゃないよね?」


「お前の武器は此処で買う」


「…僕出来るのかな?」


「多分な」


 謎の自信を持っているゼノを不審に思い、チラリと横目で見上げる。そこで思わず目が合って、その目が安心しろ、と宥めるように優しいので文句も出てこなかった。


「いるか?」


「はいはい、こんにちは。何にするかい?」


「コイツが直ぐに使えそうなものを頼む」


「…この子…が、かい?…んー、いや!こりゃ、スゴイ!魔力はそんなにだけど属性は3つも使えるようだよ」


 左目につけたモノクルをクイクイと楽しそうに踊らせながら言う何とも威厳のある年配の男性。

 格好は結構普通なのに、何故か彼には威圧される気が朝日はした。ただ怖いとかでは無く、その男性が持つ雰囲気がそう思わせているだけで彼自身はとてもニコニコと穏やかな表情をしている。


「ではでは、この2つでどうでしょう?」


「これと…これも」


「はいはい、心配性なお連れ様だ事」


 ふふふ、と笑う男性はゼノに見せていた掌サイズの紙を手に取り、朝日の手にその内の一枚を載せた。


「【フォールシールド】、そう言ってみて下さいね」


「【フォールシールド】?」


 朝日が言われるがままにそう言うと、朝日が丁度収まるくらいの円柱状に光で覆われる。触る事も出来るようだ。


「中々…だな」


「力を抜いて…はい、そして…紙を千切って下さい」


「…はい」


 少し様子のおかしい二人を見つつも、とりあえず言われた通りにやってみせる。

 紙を千切った途端にその光は消え、二人は大きく深呼吸をした。


「フォール、押さえ込むと言う意味です」


「僕は…」


「あの光の外、大体半径2メートル程までにいる相手を強制的に押さえ込む事ができます。相手の力量にも寄りますが、これなら大抵の相手には通用する事でしょう」


 それから3回同じ事を繰り返して魔法スキルを習得した。何故か彼の好意で更におまけの魔法も3つ程教えて貰った。

 ゼノもこれで少しは朝日の戦闘力や防御力について納得しただろうと朝日は思っていたが、彼は思っていた以上に過保護だったらしい。

 結局最後に魔力切れの時用に【ワープ】の巻物と魔力を少しずつ回復させる指輪も買って、朝日の指とポシェットに無理くり押し込んでいた。








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