ここまで会いに来たよ?いっぱい探したんだよ?
褐色の獣人少女は追い詰められていた。
エシア「さて、なんであたしは蹴られなきゃいけなかったのか、説明してもらいましょうか?」
獣人少女「うー……」ちらっ
お兄さん(?)
なぜか涙目で僕の方を見つめる獣人の少女。
獣人少女「お前たちはご主人を襲っていたんじゃないのか?」
エシア「へ?ご主人?」
リンネ「……そういうこと」
得心した様子のリンネと、混乱するエシア。
リンネ「つまり――」
リンネ「私とそこの家畜女が彼をはさんで口論していたところを、二人がかりで彼を襲っていると勘違いした、と」
獣人少女「違うのかー?」
エシア「いやいや、んなわけないでしょ!」
エシア「むしろ襲われたいとなんでもないです」
獣人少女「……お前を蹴った事だけは、反省しなくてもいい気がしてきたぞ」
エシア「……」
リンネ「あなたは久しぶりに再会した、愛しの"ご主人"を守ろうとした、と」
獣人少女「そうだぞ!……え?」
リンネ「"あの時"の約束を果たす為?……ふぅん、なるほどね」
獣人少女「ッッーー!?」
驚きに口をあんぐり開け、固まる少女。
獣人少女「お前エスパーかッ!?」
リンネ「そうよ」
エシア「エスっ……なんて?」
獣人少女「マジかっ!テレビでしか見たことなかったけど、実在したのかー!」
目をキラキラ輝かせる獣人の少女。
エシア「てれびぃ……?」
(だめだ、会話について行けねぇ……)
獣人少女「あのさ……」
(さっきの赤いびりびりもお前がやったのか?)
リンネ「そうよ。手加減用の軽い魔法ね」
獣人少女「スゲー!本当に心が読めるのか!!」
リンネ「……聞きたいことは口で聞いてくれるかしら?心を読むのも疲れるのよ」
そう言いながら、左手に握っていた包帯を目に巻きなおすリンネ。
獣人少女「おおーごめんな!ええっと……」
お兄さん(……)
再び少女と目が合った。
獣人少女「あ、あのね、ご主人……。会いたかったよ」
お兄さん(……)
獣人少女「最後にお別れした"あの時"から、めっちゃ時間が経ったのかあっという間なのか、よくわからないよねー♪」
……。
獣人少女「ここまで来るのに苦労したよー!」
……。
獣人少女「これでまた一緒にテレビ見ながらごろごろできるね!!」
申し訳ない……。
獣人少女「なあなあご主人ー!!」
僕には、君が誰なのか、わからない……。
獣人少女「ねえご主人、なんでずっと黙ってるの?何か言ってよ。ねえってばー」
エシア「あ、それは、その……」
お兄さんの服を引っ張り、揺らす少女。
リンネ「"言葉と記憶"を失っているのよ」
獣人少女「え……?」
…
……
二人から一通りの説明を受けた獣人少女――
獣人少女「そっかー」
獣人少女「原因が分からないんじゃ仕方ないな!」
エシア「あの~。普通知り合いだったなら、もうちょい凹んだりしないんですか?」
獣人少女「ご主人元々無口だったからねー。そんなに変わんないかな」
エシア「そう、ですか」
(元々無口、ね……)
獣人少女「でもわたしの事は思い出して欲しいな……」
彼の目をまっすぐ見る獣人の少女。
レオ「ご主人、"レオ"だよっ!ここまで会いに来たよ?いっぱい探したんだよ?」
(……ごめんね)
エシア「あ……」
目を伏せてしまうお兄さん。
レオ「うぅっ、グスン……」
少女は彼に背を向け――
ダッーー!
走り去ってしまった。
エシア「あ、待って!!」
リンネ「……」
お兄さん(……)
本当に、すまない…………。