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101号室 坂泉誠の場合

作者: 水辺ほとり

 坂泉誠26歳は途方に暮れていた。時間は星も囁く深夜。両手にはいっぱいのスーパーの袋。スタスタと振り払うように歩く足下を、踏まれないように器用に子猫がじゃれついてきていた。俺は今、猫なんて飼ってられないのに。


 坂泉誠、通称マコ。普段は黒野探偵社という事務所に所属して、探偵とルポライターをやっている。今回は、とある飲食バイトの潜入捜査だ。本社から、目に余る残業を巧妙に隠している支店があるので、調べて欲しいと依頼が来たのだ。

 そんなわけで、探偵社の寮からは遠い潜入業務のために、部屋を借りた。三階建て木造のアパートだ。セキュリティも甘々だが、この辺は住宅街で治安がいい。何故かこの辺にはレオパレスがないし、治安が良ければ家賃は高い。それを経費で後払いすると言うのである。報酬は相当弾んでもらえるはずなのに……。なんとか自分の財布を痛めずに済む、すぐに借りられるアパートを探した結果、ここが見つかった。大家さんが優しいのが救いだった。


 足元の毛玉を振り払うように歩いたが、子猫はじゃれつきながら一階の部屋の前まで着いてきてしまった。

 出て行けよとばかりに扉を開いた。子猫は、お邪魔しますね、とばかりに図々しく俺の脚にしがみついた。

 深い深いため息をついて、俺は玄関に買い物袋を下ろし、子猫を抱き上げた。こんな自分の世話もままならない過酷なバイトをしている最中に、子猫なんか飼えない。でも、こんなにちっこいし警戒心がないのだ。残酷な子どもに乱暴されたり、カラスに怪我を負わされたりしないか気が気ではない。

 幸い明日は休みだ。周りの住民に掛け合って、飼ってもらえないか聞いて回ってみよう。

 そのためにも、まずは泥だらけの体を洗ってやらねば、と俺は風呂場に直行した。お湯が苦手な実家猫を思い出して苦い顔になったのは秘密だ。


○○


 子猫は意外にも素直にお湯に浸かった。泥が落ちると、ところどころ茶色いブチのついた三毛猫であることがわかった。メスだった。ぬる湯が気持ち良かったのか、うとうととし始めたため、そのまま体を拭いて乾かして、タオルケットにくるんで寝かし付けた。


 鬼のいぬまに洗濯ならぬ、猫の寝る間に夕餉の支度だ。

 玄関に置きっぱなしだった買い物袋を広げ、冷蔵庫へ片付けていく。

 買い物をしたのは久しぶりだった。いつも同寮の翔悟に任せきりだからな。隣の部屋のルネの料理が恋しい。俺が教えた後はあっという間に俺を超えて料理上手になった。細いところが雑な俺に比べて、ルネは丁寧だからか、料理の味わいも繊細だし、口当たりもいい。


 以前の生活を懐かしんでいると、アイスがドロドロに溶けているのを発見し、声にならない悲鳴を上げる羽目になった。

うちの子の中でも、泥臭くてタフで、トンチキな目に合いがちな、高学歴と世話焼きしか取り柄のないマコちゃんを連れてきました。

ファザコン気質なので、お父さんぽい人がいたらよろしくお願いします(?)

猫の飼い主探しに奔走するので、みなさまご協力のほど、お願いしまーす。

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