プロローグ 何度目か分からない転生。
連載版です。
アタシは悪役令嬢として、何度も死んできた。
その前世の記憶は魂に色濃く刻まれている。ある時は追放され、またある時は婚約破棄をされて。幾度となく、抗うことのできない運命に翻弄されてきた。
そんなアタシはいつしか、夢見るようになる。
次こそは、平凡な貴族に生まれて平凡に暮らしたい! ――と。
また、暗闇の中に光が見えた。
はてさて、次はどんな悪役令嬢に転生するのか。
そう思いながら、アタシは新たな自分の中に飛び込んでいくのだった。
◆
「あら、どうしたのかしら。ナタリーさん?」
「え? あ、はい? アタシのこと、ですか?」
「貴方に決まっているでしょう? 先日頼んだこと、まさかお忘れになっていたわけではありませんよね?」
「………………」
アタシは転生直後の記憶の混濁から、必死に抜け出すべく考える。
まず、こういう時は冷静になるんだ。
アタシはどこの家の娘で、いま話している相手が誰なのか。
ナタリー・シルビアナ――それが、いまのアタシの名前。
シルビアナ伯爵家の令嬢として生まれ、現在十六歳の魔法学園一年生。この学園に通うことになるまで、日々をとにかく平凡無難に過ごしてきた。
容姿にもこれといった特徴はない。
だが一点を除いて、左右の瞳の色が違うのは目立っていた。
「ナタリーさん? なにを考え込んでいますの?」
「あー、待って。もうちょっとで出てきそうだから」
「出てきそう……?」
それで、いまアタシと対話しているのがガレリア・アークライト公爵家令嬢。
悪人面で唯我独尊。自分の気に入らないことには、とにかく文句を口にする。そしてイジメの常習犯で、アタシのことを小間使いにしている女性だった。
顔立ちは整っているのに、性格が破綻しているために人気がない人物。
金髪縦ロールに蒼の瞳。今日も豪華な衣装を身にまとって、ご満悦だった。
「ん、ちょっと待って?」
そこまで考えて、アタシはふと思う。
今世におけるアタシの生い立ち。
家系と、周囲とのの人間関係。それらを複合的に考えた結果――。
「……やった!」
一つの結論に辿り着く。
そう。現在のアタシは悪役令嬢の取り巻きである以外は、平々凡々。
つまるところ、今まで望んでも手に入らなかった環境を手に入れたのだった。これまでは、すでにイジメをしている人物に転生していたけれど、今回は違う。
まだそういったイベントは発生していない。
だとすれば――。
「ガレリア様、一つよろしいでしょうか」
「……なんですの? 手短に――」
「アタシ、貴方の取り巻きを辞めさせていただきます!」
「は……!?」
「それでは、ごきげんよう~っ!」
「ま、待ちなさい! ナタリー!!」
ここはもう、逃げるが勝ち!!
アタシはそそくさと、ガレリアを放置して駆け出すのだった。
後方から怒り狂った彼女が叫ぶ声が聞こえたけれど、そんなこと知ったことではない。アタシはついに平凡なモブ令嬢に生まれたのだから!
今度こそ、平凡な暮らしをしてみせる。
そう、アタシは心に誓うのだった。
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