逃亡3
「いい顔だぜ二階堂」
男二人に両手を掴まれ動けない二階堂さんの顎を持ち上げる郷田。
「床に倒せ」
必死に抵抗する二階堂さんだが床に無理矢理倒された。
「さて、お楽しみと「ウオオォォォーーーッ!」……羽山!?」
俺は振り向いた郷田の横っ面を拳で殴りつける。
吹っ飛ぶ郷田。更に鈴木と佐藤にケリをいれ二階堂さんを解放する。
「羽山ァ、テメエェーッ!」
起き上がった郷田はツーハンドソードを拾い俺に斬り掛かって来る。俺はダッシュで郷田の懐に飛び込んだ。狂人化した俺は恐怖心がなくなっている。
振り下ろされたツーハンドソードが俺の左肩に食い込むが鍔元の刀身の為に斬りが浅い。其れでも鎖骨は砕けたであろうが、俺の痛覚は鈍化していて、気にせず固めた拳で郷田の腹を殴る。
狂人化した俺の力は数倍にもなっていた。ボディ1発で郷田は壁まで吹き飛ぶ。追い打ちで距離を詰めるが郷田も立ち上がり突っ込んでくる。
郷田は剣を突き出し俺の腹に深々と刺さる。俺はそれに構わず、ヘッドバットで郷田の鼻を粉砕した。
堪らず郷田は剣を離して後ろへと下がった。
「な、何なんだテメエ……」
郷田は砕かれた鼻を押さえ俺を睨んでいる。俺は腹に刺さった郷田のツーハンドソードを引き抜いた。俺の腹から血がボトボトと流れ出るが、暫くして血が止まる。
狂人化した俺の体は、体に傷が増える毎にステータスが上昇して行くようだ。そして傷を治癒する能力も上がっている。初撃で郷田に引き裂かれた腹の傷は塞がりつつあった。
しかし郷田もタフだ。郷田のカードは大アルカナのストレングス。STR以外にもDEFやVITも上がっている感じだ。
突然背中に衝撃が走る。鈴木の剣と佐藤の槍が俺の背中に突き刺さっていた。俺は痛みに構わず体を回した。鈴木と佐藤は思わず武器から手を離す。
回した勢いの旋風脚で二人纏めて蹴り飛ばした。壁まで吹っ飛んだ二人はピクリともに動かない。鈴木の首は有り得ない方向に曲がっている。佐藤もだ。
「ざけんな羽山ァァァァァーーーッ!」
拳を固めて突っ込んでくる郷田。奴が手放し俺の手にあるツーハンドソードを片手で大きく振りかぶる。
一閃。
郷田の頭は体から切り離された。
「酷い事をするな羽山君」
山小屋のドアが開き白鳥が入ってきた。腰には剣をぶら下げている。
「君が友達を殺すとはね。しかもこんなにも無残に」
郷田達の死を哀れんでいるかの様に語る白鳥だが、その顔はいつもの爽やかな笑顔だ。
「まあいいか。麗華さん、迎えに来たよ」
破られたブラウスを胸元で併せて、脅え泣いている二階堂に白鳥が手を差し伸べる。しかし二階堂は首を振り其れを拒絶する。
爽やかな白鳥の笑顔が更に爽やかになった。
「また僕を拒絶するんだね」
超爽やかなイケメンスマイルとは逆にその言葉には怒気がはらんでいる。白鳥は怒りを笑顔に変える得意技があるようだ。
「気が変わったよ。僕達のメイドぐらいで許してやろうと思ったけど、麗華さんには奴隷になって貰った方が良さそうだね」
笑顔で二階堂の手を引っ張る白鳥。
「君が僕の告白を断らなければこんな事にはならなかったのにね」
「い、いや……離して……」
「僕が君に振られた事をみんなに知られて、僕はとんだピエロさ。だからさ僕は君を徹底的に貶めたい。そんな気分なんだ」
爽やかな笑顔で喋る白鳥だが、言っている事は郷田と何も変わらないコイツもクソ野郎だ。
「やめろ白鳥」
俺は二階堂の手を引っ張る白鳥の腕を掴み力を入れる。「痛ッ」と言って白鳥は二階堂の腕を離した。白鳥は俺の握った手の小指側に自分の腕を回してスルリと俺の手から逃れる。上手い。白鳥は武術の心得があり、たしか中学の時に剣道で全国大会にも行っていた筈だ。
「随分と好戦的になったね羽山君。矢鱈とワイルドだよ。チャリオットのカードでも貰ったのかな」
一歩下がる白鳥。光る銀色の剣閃。咄嗟に俺は後ろに下がって白鳥の抜刀を辛うじて交わした。
「よく交わしたね」
郷田の不意打ちを体が覚えていた。今の剣筋は、交わしていなければ郷田の様に頭と体がおさらばしていただろう。
しかし俺の傷が狂人化の治癒力向上で回復が進んでいる事で、それに伴いステータスが下がっている。
スポーツ万能で剣道も一流の白鳥相手では今の俺では勝てない……。
俺は郷田のツーハンドソードを白鳥に向かって投げた。白鳥は其れを剣で弾く。
「逃げるぞ、二階堂!」
「えっ」
俺は二階堂の腕を掴みふわっと持ち上げる。宙に浮いた二階堂は横になり、俺は両手で抱き上げる。
ガラスの無い窓に飛び込み外へと出た。
山頂の山小屋から下界に城のある街が見える。俺は二階堂を抱いたまま木々が生い茂る山を駆け降りる。
スマートな白鳥が追い掛けてくるかは分からないが、振り向く事なくひたすら走った。
「はあ、はあ、はあ、はあ……」
僕の腕には引き裂かれたブラウスを両手で掴み胸元を隠している二階堂さんがいる。しかし白く細く綺麗な生足が僕には眩しくて目のやり場に困る。………………エロい。
僕は二階堂さんをゆっくりと降ろして、僕も草叢に腰を降ろした。白鳥君は追い掛けて来ていない。狂人化が切れて理性もいつも通りの僕に戻った。郷田君達に斬られた傷も完全に治っている。
辺りは鬱蒼と茂った森と中。背の低い草、倒木は緑の苔が覆われていて、木々の隙間から差し込む日の光りが少し幻想的な世界を作っていた。
二階堂さんの方をチラッと見るも直ぐに顔を戻す。座っている二階堂さんの足の隙間からピンクのパンツが見えていた。
僕は立ち上がり、ブレザー、シャツ、ズボンを脱いだ。黒のTシャツに黒のボクサーパンツ姿になる僕。
「い、嫌……嫌よ…………あ、あなたも……」
二階堂さんは僕の行動に顔面蒼白になって泣き声をあげる……。
「血が付いているけど、これ着てよ」
僕は脱いだ衣服を二階堂さんに渡した。所々破け、乾いた血が付着しているけど、今の二階堂さんの姿は見るに絶えない。
て言うか……僕が絶えられないよ、男子高校生的に!
二階堂さんは俯きながらも僕の服を受け取ってくれた。160cmくらいの二階堂さんには180cmある僕の服ではブカブカだったけど、うん!さっきより全然いい!
「…………りがとう……」
「ん?何か言った?」
俯き首を横に振る二階堂さん。時々見える白い光りは涙?
「さて~、どうしようかな~」
僕は辺りの森の中を見渡す。何も考えずに、いや正確には白鳥君から逃げる事だけを考えてここまで降りて来た。
山で道を見失ったら山頂を目指すのがお約束なんだけど……山小屋には戻りたくない……。僕はあそこで人を殺し、二階堂さんは襲われた……今は……思い出したく無い……。
僕は折衷案でやや山を登りながら左手に進む事にした。山頂から見えた街は左手側にあった。
まず僕は二階堂さんが脱いだ破けたブラウスを腰に巻いた。布は色々と使い道があるから捨てては行けない。
「二階堂さん」
僕は二階堂さんに背中を向けてしゃがんだ。
「な、何?」
「オンブするから」
「は!?バカなのあなた!?」
「だって二階堂さん、靴が片方無いし、それじゃ山の中は歩けないよ」
「………………」
二階堂さんは「ふん」と言いながらも僕の背中に乗っかてくれた。僕は二階堂さんをオンブして歩きだす。
先ほど迄の生足抱っこは男子高校生的に厳しかったけど、オンブならやれそうだ。柔らかい双子山が背中に当たるけど……元気の元です!
僕は二階堂さんをオンブして山を歩きだす。小木がぼうぼうと生えている山では無いので少しは歩きやすい。
「ねぇ、何で山を降りないの?」
「山で道に迷ったら下に降りちゃダメなんだよ。下りには崖があったり転んだりリスクが高いからね。先ずは山道を探す事が大事だし、方角を見失わない事も大切なんだ。傾斜が無くなると方角を見失いやすいからね。
それに、もし山道が見つからなければ山頂を目指す選択肢も残しておきたいから」
「山頂?」
「山頂に山小屋があったから山道がある筈なんだけど…………山小屋には出来れば戻りたくないから……」
「……………………うん」
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※アンチ感想は削除しますので……心折れるから(^_^;