第1章 1の2 部下もいろいろ大変だよ、ねえ?
さて、成田ちゃんサイドからのB面から始まりましたが。そうじゃなくても今やバレ・・・以下略なんて思いますがどーでしょうか?(^^;
成田千歳は (なりた ちとせ)、こちらはこちらでカロリーメイトを頬張りながら、困惑していた。
先程、市ヶ谷課長の手に治癒呪文をかけた時のことである。
手をとった瞬間、ぶわっと彼女の中にイメージが浮かんだ。
『なんでこーなったかわからないけど、もっと話したい・・・etc・・・好・き・・・』
なんだろ、今の??
もしや、・・・課長の感情が伝わって??!
いや、まさか???だって上司だよ?しかもけっこー年下の??
あ・り・え・な・い・・・・・あ の か ち ょ う だ よ ? ?
冷静かつ無口だけどフォローする時は正確無比なあの人が??私を?
理 由 が わ か ら な い・・・・・・。
「まさか、ね・・・」
カロリーメイトをこぼした粉をはたきながら、成田は頭をかいた。
その時、否定したものの、のちに目いっぱいの反応を食らう羽目になるわけだけど。
彼女は元々、そういうエンパス体質なところはあったのだが、ここへ来て異世界へ来てしまったことで、余計体質が強くなっているようだ。
それだけに、現実世界でも人と距離を取るところも多かったのだが、これからどうなるかは彼女すらもわからないものではあった。
(作者注;エンパス;共感能力とのこと。この作品中ではテレパシーのような能力、としておきましょうか)
会社勤めとしては、不器用すぎる彼女は、こちらの世界ではどうなのか―――・・・?
ちょっと遠くを眺めてぼんやりして見える、成田へ市ヶ谷が話しかける。
「ごちそうさま。そろそろ動こうか?あっちの方に森が見えるよね。村か何か、あるかもしれない」
彼方の方向を指さした。
「けっこう、距離がありそうですね?」
「そうだね。じゃあその前にちょっと試しておきたいことがあって」
会議中だったから持っていたのか、指示棒をすっと取り出すと、
「氷撃、レベル6・・・!氷の刃!!」
足元に一気に雪煙が舞うと同時に、氷の刃が文字通り繰り出される。
数十メートル先まで音を唸らせながら吹き抜けた。
・・・見えるか見えないかの距離の先で、何かの悲鳴のような音が響いて、手元にチャリン、と金貨がいくつか落ちてきた。
ふうっと市ヶ谷は息を整えると、
「・・・向こうに魔物が居たのかな、経験値と金貨が増えた。成田君もちょっと試してみてくれるかな?治癒以外でどんなのができるか見てみたい」
成田は、(うう・・・このひと、やっぱ上司だ・・・)と思いつつ、
「連弾、衝撃波!!」
適当にそれっぽいことをつぶやいて、素手を振り下ろす。
すると、連弾かどうかは不明なものの、土煙を巻き起こして向こうの方角に飛んでいった。
飛んでいった先から、なにか聞こえて、さきほどより少ない金貨と経験値が増えた。
「うーん、少し練習しながら行こうか、金貨はきっと行った先で必要になるだろうし。レベル上げってとこかな」
そう言う市ヶ谷の後ろから、何か気配がした。
「武器、召喚!!」
ゴゴゴゴ・・・とかいいそうなほどの気配、これが魔力ってやつか?!と市ヶ谷は身構えた。
が、成田の手に現れたのは掃除用のモップ、というかデッキブラシだった。
「あれ、これ会社の備品?!」
とか言いつつ、成田は、
「デッキブラシ・ブレードぉ~~!!!」
と勢いよくブン回した。
すると、さっきよりも遥かに大きい旋風が一直線に荒野を飛んでいく。
はるか向こうの丘が音を立てて、ガラガラと崩れて、土煙とともに、経験値が増えた音と、金貨がジャリジャリと落ちた。
市ヶ谷は無言で何か手元に書き込んだ。
メモ帳か何かは持っていたようだ。
「成田君、攻撃は魔法剣士のほうが良さそうだね。じゃあ、武器ね、今度買おう。メモったからあとで書類作って、経理に領収書回して・・・」
「かちょ~。あの、ここ多分私らしか居ないデス・・・」
「あ、まあ。そうだよね・・・。でもまあ入り用なもの書いておいて、あとで町で何か買おう。俺は魔法用の杖かな・・・」
市ヶ谷、ちょっとトホホな顔である。
「あ、あと私、使える呪文の守備範囲がそこそこ広いみたいで、解毒に解呪、死んでも3回に1回くらいなら蘇生できる呪文が使えるっぽいです、あと召喚とか。」
「出来たら、蘇生は使わずに済みたい・・・」
「大丈夫ですよ、パーティーのリーダーたる課長は私が守りますから。お任せください、主殿!」
なんて、成田が口にした時の、市ヶ谷の表情たるや・・・。
「あ、あるじどの・・・って、ああ、そーだよね、パーティーの、だよね!」
不意打ち食らって、顔真っ赤で、もうこれは言わずとも、エンパス体質じゃなくても。
(こりゃ確定だ・・・!)
と成田が今度は苦笑するしかなかったが、今の所二人のパーティーの冒険は始まったばかりである。
あとがきにね、キャラ紹介とかちょっと書くの面白いかなとか思ったんですけど、どうでしょう?
じゃあ、課長から(^^;。
市ヶ谷 信繁 ・いちがや のぶしげ
あ、ちゃんと下の名前もあった!って物語にも出てくるのでご安心を(^^;。若くして30そこそこで課長。頭は切れるタイプですが結構中間管理職は大変・・・を地でいく気苦労。見た目はとっつきにくいけど意外と面倒見はいいほう。
そのせいか、うっかり何故か結構年上の部下が気になって仕方がない。仕方がないどころか、多分恋。変、かも(苦笑)。