第3話
俺は大学進学と同時に目黒にある伯父さんの家に下宿し始めた。同居人は伯父さん夫婦の他に、俺とは1つ下の従姉妹である智花と智代の4人だ。俺は1人部屋だが、智花と智代は相部屋。そして俺の部屋にはテレビがあるが、2人の部屋にはテレビがない。あと、俺の部屋は元々、伯父さんの書斎だったそうだ。
「直哉くん、まだ寝てるの?智花と智代はもう大学行ったわよ」
俺は伯母さんの声で目が覚めた。今日の講義は2限からだから油断してた。そして時計を見ると朝の9時半だ。時間がない。昨日も深夜まで起きてたからな・・・そんな訳で俺は大慌てで朝食を食べるとすぐ、家を出た。ちなみに智花と智代というのはさっきも言ったけど、俺と1つ違いで、この春から俺と同じ大学に通う双子の姉妹であり、俺の従姉妹でもある。ただし俺は法学部で2人は経済学部だから、大学内で会うことはあまりないけど。講義で使う棟も違うし。
下宿先からキャンパスまでは電車で20分ほど。俺は大急ぎでキャンパスに向かった。何とか2限には間に合った。そして講義が終了し、大学近くのファーストフード店で昼食を食べる際、俺はと智花と智代にでく会わした。どうやら2人だけだ。せっかくなので、俺は2人と同じテーブルに移動した。
「直にぃ、今日寝坊したんでしょ?」
こう俺に話すのは、双子の姉である柳智花。俺は「夜中まで起きてたからな」と智花に言った。すると双子の妹である柳智代が、
「どうせいつものごとく深夜のテレビ番組とか見てたんでしょ?」
と言ってきた。そうだよ。しかしこの双子、一卵性ということもあってか、身長・体・髪型・声・性格まで何もかもが一緒だ。俺ですらたまに間違えることがある。大学進学の際、智花は眼鏡をかけるようになって、智代は髪をロングからショートにしたのでやっと区別がつくようになったけど。
そして食事が終わると、2人とは別れた。お互い午後からまた講義だ。
◇ ◇ ◇
夕方、講義が終わると、俺はそのままバイト先のコンビニへと向かった。俺がバイトをしているコンビニは下宿先から割と近く、なおかつ駅前にあるため、夜はかなり混む。仕事帰りのサラリーマンやOLが主な客層だが、俺はこれから夜の10時までの5時間、みっちりバイトをするのだ。
午後9時30分頃、どばちゃんがやって来た。この日は変装もせず、素顔を出している。つーか、最近はいつもそんな感じだ。帽子もメガネもマスクもせず、顔を露わにして買い物をしている。しかし、どばちゃんも最近はメディアでの露出が増えているから、そのうちそのままの格好でコンビニに買い物をしたら大騒ぎになるぞ。そしてこの日、どばちゃんが買った品は漫画雑誌だった。あとペットボトルのコーラ。飲むのか。
そして午後10時すぎ、俺はバイトを終えた。俺は着替えを済ませた後、店員用の出入口に向かう。そして俺が出入り口を出た時、どばちゃんが入り口の前で待ち構えていた。
「今何時だと思ってるんだ。補導されるぞ」
「大丈夫。私近くに住んでるから。電車で20分あれば家に着く」
「全然近くないぞ!」
「それにお父さん、警察官だから」
「ダメなものはダメ!」
「宮本くんはどこに住んでるの?」
「ここから10分くらい歩いたとこ」
「じゃあ、LINE交換して!」
「なんでそうなるんだ!お前のアイドル人生、どうなっても知らんぞ」
「大丈夫よ。関係は秘密にするから」
「今度は俺がダメになる!俺、もう20歳になったから仮に逮捕されたら名前が乗るぞ!」
「親に許可貰えば大丈夫だって!それにあなたの伯父さん、国会議員なんでしょ?」
「お前どこからその情報を仕入れた!?つーか俺の伯父さんにそんな力はない!」
・・・まあ、結果から言おう。結局、俺とどばちゃんはLINEを交換した。大好きなアイドルの連絡先を知れたから本来なら興奮してもおかしくない状況だが、正直言うと、罪悪感の方が大きく感じた。超えてはいけない一線を超えてしまった気がするのだ。
で、バイトを終えた俺は駅まで行ってどばちゃんを送った後、すぐさま下宿先に戻ることにした。
◇ ◇ ◇
俺がその後、どばちゃんから聞くことができた個人情報について少し紹介しておく。
どばちゃんの実家は、世田谷区の瀬田。二子玉川駅の近くだとか。そして家族構成は両親と3つ上の兄と2つ下の妹の5人家族。子役として芸能活動をしていたせいか、学校ではかなり浮いてて、あまり友達はいなく、1人でいることが多かったと言っていた。
以上が、俺の知ることができたどばちゃんの個人情報である。