第1話
『バイト君』
俺、宮本直哉はそう呼ばれている。まぁ、毎日のようにコンビニのバイトを入れているのだから、そう言われても仕方ないのだろう。だが、コンビニのバイトと言うのは面倒くさい。俺はいつもレジの担当をしているのだが、駅前にあるコンビニなので、厄介な客が多いこと多いこと。時給が1000円じゃなかったらさっさと辞めていただろう。そして俺には特に嫌いな客がいる。午後9時。その客は今日も俺の勤務時間を推測したのか、コンビニにやって来た。
「いらっしゃいませー」
明るい声を意識して言うが、負の感情がそれを邪魔しているようだ。どうにもこいつが来る時はイライラが収まらない。その客は腰のあたりまである長い黒髪に、マスク・眼鏡・帽子という完全武装で来ている。背丈は俺と比べるとかなり小さく、声や肌の艶で女性だとわかる。そして、その容姿からおそらく中学生か高校生だろう。大学生の俺からすれば年下。そのはずなのに、この女は何故か上から目線で物を言う。その女は買い物を済ませると、レジに向かい俺の所にやって来た。
「何よ、『いらっしゃいませー』って。語尾は伸ばさないでよ。気持ち悪い」
「も、申し訳ありません・・・」
レジに来た早々、何が気持ち悪いだ。俺にとってはお前の方がキモいわ。何芸能人気取っているんですか。キモい、気持ち悪いよ。謝罪の言葉を言いながら、内ではこんな事を思っているなんて、このガキは思いもしないだろうな。
「以上で、お会計が334円になります」
俺は憤りを募らせながら商品をスキャンし、メガネ女が金を取り出すのを待つ。しかしそのお金は、一向に現れない。出たよ、こいつの嫌いなところその1。
『異常に金を出すのが遅い』
後ろ、つっかえてるから早くしろ。そうしてようやく出てきたと思ったら、それは1万円札だった。これがこいつの嫌いなところその2。
『金を出すのが遅い上に、出すのはいつも小銭。時には1円玉ばかり出す』
なんでいっつも小銭ばっか出すんだよ。こっちはいちいち計算するのが面倒なんだよ!お前、頭おかしいよ・・・と俺は思ったものの、口からその気持ちを出すのをこらえ、10円玉34枚を受け取る。レジスターに数字を打ち込み、お釣りは6円と出た。お釣りの5円玉と1円玉を取り出そうとすると、
「ちょっと、早くしてよ。私、急いでるの」
苛立ちげに口にするガキ。また出た、こいつの嫌いなところその3。
『自分は金出すのにめっちゃ時間かけるくせに、お釣り貰う時はやけに高圧的な振る舞いをし、店員を急かす』
もう、お前何様なんだよ!こちとら数字打ち込んだばっかりだわ!
「しょ、少々お待ち下さい・・・」
そう言って素早く手を動かる。
「お待たせ致しました。こちら、6円のお返しです。レシートはいりますか」
俺は彼女にそう言い、お釣りを渡した。マニュアルではお釣りを渡せば、レジの接客は終わるのだが、何故か彼女はその場から動かない。早くどっか行け!後ろつっかえてんだよ!お前迷惑になってんの!
「あの、お客様。他のお客様がお待ちですので・・・」
「何言ってんの?フランクフルト買い忘れたからフランクフルト1本追加」
はぁぁぁぁ!?コイツ何言ってんの、馬鹿かコイツ?
「あの、後ろのお客様を待たせることになりますので、もう一度お並び直しください・・・」
「あらそう。使えないわね」
そう吐き捨てて、列の最後尾に向かう彼女。相変わらずうぜぇなこのガキ。クソっ、イライラが収まらねー。
「フランクフルト1本ですね。お会計は154円になります」
俺は苛立ちを隠しながら営業スマイルを作る。そうしてあのガキは例のごとく10円玉15枚と1円玉4枚をチンタラと取り出す。
「154円ちょうどお預かり致します。レシートはいりますか」
俺は彼女にそう言うと、あのガキはお釣りとレシートを素早く受け取って店を去った。ちっ、マジでもう来んな。なんであいつ、俺のいる時にしか来ないんだよ。俺はそう考えているとますます怒りがこみ上げてきた。
そして10分後、レジから客がいなくなると俺はコンビニの出入り口の方を見る。あのガキはまだ入り口の前にいた。どうやらスマホを触っている。そして、俺が知らない内に帽子を取り、マスクも眼鏡も外したようだ。
俺はふと彼女の素顔を見る。その素顔は誰が見ても美少女だと言うほどのルックスだった。そして、どこかで見覚えのある顔だと気づくまで、そう時間はかからなかった。