◇08話 少女は魔道具づくりに目覚める
──またたく間に季節は夏──
青々とした葉を茂らせる木々、強い光を反射してきらめく池の水面。緑の強い香りがするここは、中等学院の奥庭だ。
植樹された木々が、小さな林を造り地面に影を落としている。
池のそばには、八本の柱に支えられた八角形の屋根付きの東屋がある。
壁はなく、木の床の中心には、大きな太い木を輪切りにしたテーブルと、細い木を輪切りにした椅子が三つほど置かれている。
夏の制服──白い半袖ブラウスと薄手の素材に変わったグレーのベストとスカートを身に付けた、金髪縦ロールの少女が東屋に入っていく。
少女は年輪がくっきりと刻まれた木のテーブルの上に、白いテーブルマットを敷いて、その上に籐で編まれた朱塗りの茶托にのせたガラス製の湯呑み茶碗を三つ並べる。
続けて置かれたガラス製のピッチャーには、氷の浮かべられたグリーンティーがなみなみと入っていた。
「いつ見ても、エーさんの無限収納はいいですわね。」
後から、東屋に入ってきた黒髪の少女が、羨ましそうに声をかけた。
腕に抱えた持ち手付きの篭の蓋を開けると、中から今日のお茶請けが入った四角いケースを取り出す。
「無限収納と鑑定と異世界言語翻訳の三つは、召喚勇者にありがちなもののようですわ」
「あら、どこからの情報ですの?」
ブリジットの質問に、言ったアリエンナも首を傾げる。脳裏に白い部屋と白い何かがよぎるがすぐに霧散して消える。
「何となくですわね。でもビーさん、いつでも言ってくれれば、手荷物くらいしまいますわよ」
「ありがたいお申し出ですけど、これぐらい持っておきませんと。小物を出し入れするたびに、お願いするわけにはいきませんわ」
そう言ったブリジットは、先ほど篭から取り出したケースの蓋をあける。
「今日は、つぶ餡とうぐいす餡、それにこし餡に栗を入れた三種類の水羊羹を用意してみましたの」
そばに小皿と少し幅のある竹楊枝も添える。
軽くなった篭を足下に置くとブリジットは丸い木の椅子に腰掛けた。
強い日差しをさえぎる影があるだけでも、蒸し蒸しした暑さが和らぐ。池の水面を通って吹きこむ風が、にじんだ汗を引かせてくれる。
ホゥと息をついたところで、目の前に水色の丸型らしきポーチが差し出される。
ポーチを差し出した手の主は、満面の笑顔の茶髪の少女。
「わたくし、なんと、魔法鞄が作れるようになったんですの!まだ、犬小屋程度の大きさの物ですが、ビーさんにもと思って。もっと容量が大きな物が作れるようになったら、また差し上げますわっ」
誇らしげにそう言った、少女の制服の腰元には、桃色の歪んだハート型(?)のポーチが付けられている。
「アホウかばん?」
思わず呟いたブリジットに、「えっ?」とクリスティーナが聞き返す。
「いえ、魔法鞄を頂けるなんて、とても嬉しいですわ。ありがとう」
歪な手作り感満載のポーチを受け取って、ニッコリと慈愛の微笑みを浮かべるブリジット。
「そう言えば、シーさん。柱のところで何やらしていたようですけど……」
二人のやりとりが終わると、アリエンナは気になっていた事をクリスティーナに尋ねた。
クリスティーナの目が、よくぞ聞いてくれたと言うように輝く。
「わたくし、魔道具開発に目覚めたんですわ。手に入れたクズ魔石を使って、術式をあれこれいじって、独自の魔法陣をあみ出して、なんと、屋外のどこでも涼しく過ごせる魔道具を作ったんですの」
あづまやの四隅に、一升瓶ぐらいの灰色のカバの置物が、デンと据えられているのを見て、アリエンナは目を瞬かせる。
「まあ、それはスゴイですわね」
感嘆の声を耳にして、クリスティーナの口は滑らかに動く。
「四隅に魔道具を置き、結界を造りだし、その中に氷魔法を発動させ、冷やすようにしているのですわ。まだ試作品ですから、一時間しか持ちませんが、これから使用時間の延長や、小型化を図っていこうと思ってますの」
「すばらしいですわ」
あれはカバに見えるが、きっとカバのつもりはないのだろうと、ブリジットは優しい声で称賛し、慈愛の笑みを深める。
「携帯冷房『冷え冷えくん』試作機、発動します!」
元気よく叫んでクリスティーナもあいた椅子に腰かけた。