◎07話 閑話 あるフツメン生徒達の会話①
放課後のある教室に三人の男子生徒がいた。
彼らはこの学院では、稀少なフツメンだ。
そのうちの一人が、ピンクのリボンで飾られた、可愛い赤いハート柄がある袋を、ドサリとある女生徒の机の上に置く。
生徒A:「おまえ、それ……」
生徒B:「僕がリス好きなの、知ってるだろ?うちの屋敷のリス園に、他のリスより二回りほど太っている、大きなリスがいるんだ。他のリスを蹴散らしながら、頬袋いっぱいにエサを詰め込むリスドンは、本当に可愛くて僕の一番のお気に入りなんだ」
生徒C:「それが、何かその袋と関係が?」
AとCは、妙な袋を抱えて、どこかに向かうBに好奇心を刺激され、この教室までついて来ていた。
生徒B:「昨日、リスドンのような可愛い子を見かけたんだ。目を疑ったよ。リスドンが人間の女の子に化けたのかと思った。それで、リスドンの好物をその女の子にあげたくなったんだ」
生徒A:「おまえ、それは……」
生徒C:「恋だな」
生徒B:「えっ?!」
生徒C:「可愛い子を見かけ、贈り物をしたくなる。──恋だ。間違いなく恋だな」
Cの確信を持って、ドキッパリと告げられた言葉に、愕然とするB。
生徒B:「……自分では全く気づいていなかった……。そうか、そうなのか。この気持ちが恋。恋なのか。くっ、婚約者のいる身で僕は……」
苦悩し少し暗くなったBの声に、AはBの肩を励ますように叩く。
生徒A:「いいんじゃないか?俺達の婚約者は、まだ学院に来る年じゃない。特におまえの婚約者は、まだ三歳じゃないか。学院にいる間、ひっそりと可愛い子を思うくらい許されるさ」
生徒C:「ぼくもいいと思うよ。春だし……。でも、誰に贈ったものか、分かるようにしておかないと」
二人の言葉に、気を取り直したように頷づくB。ポケットからペンを取り出す。
生徒B:「アハハ……恋と自覚したからかな。名前を書く手が震えちゃうよ」
照れながら、プルプルした手で名前を書いていくBを、AとCは出来の悪い子を見る親のような目で静かに見守っていた。
──翌朝、クリスティーナは自分の机の上に、妙な袋が置いてあるのに気づいた。
「まあ!これは何かしら?」
クリスティーナの上げた驚いたような声に、アリエンナとブリジットが近づく。
じっと袋をにらむアリエンナ。
「中に入っているのは、『ドンドングリ・野生のリスが好んで食べる』ものらしいですわ。無害ですわね」
「さすがの鑑定能力ですわね。エーさん」
アリエンナの方に感心したように頷くと、ブリジットは言葉を続ける。
「ドンドングリは、主にリスの飼料として使われますけど、焼いたり、茹でたりして人間にも食べられますわ。栗のような風味でなかなか美味しいそうですわよ。好んで食べる方もいらっしゃるとか」
「いったい誰が、何のつもりでこんなものを?」
不思議そうに首を傾げたクリスティーナの脇から、ブリジットもじっと机に置かれた袋を見る。
袋には大きな字で″クリスティーナさんへ″と書かれていた。
「シーさんの名前が書いてありますけど、筆跡がばれないように左手で書いてありますわ」
「ああ、だから浮かれたように字が踊っていますのね」
納得して頷くアリエンナ。
「どうしましょうか……これ」
困惑して眉を寄せるクリスティーナに、ブリジットが提案する。
「食べればいいんじゃありません?差し入れでしょう。誰からか分からないのは気持ち悪いですけど、無害なのは、はっきりわかってますし──わたくしが調理いたしますわ」
初めての食材に、ブリジットの気持ちは浮き立っていた。
──その日の夕方、生徒Bの贈り物は無事にクリスティーナの胃に収まるのであった。
また、次のひとくぎりまで、かきためます。
生徒Bはリスドンが大好きです。リスドンに似た女の子を見かけた彼は、その女の子がどこの誰か、異常な熱意を持ってつきとめます。
彼が恋してるのは……。