▽21話 少女は告白する
再びの春編です。
20話など、何箇所か修正しましたが、話に影響はないです。
──またたく間に、再び春──
青く澄みわたる空、瑞々しい緑に色づく木々。種々の蕾は花開き、爽やかに吹き渡る風が春の来訪を告げていた。
中等学院学舎の裏庭に、顔を付き合わせてしゃがみこむ三人の少女達がいた。
「明日は、いよいよ卒業パーティーですわね」
茶髪の少女が、神妙な顔つきで他の二人の顔を窺い見る。
「わたくし、明日のことを考えると何だか落ち着きませんわ。そう言えばエーさん、ご衣装の方は大丈夫?特別なものになるとか……」
黒髪の少女が、心配そうに金髪縦ロールの少女に視線を投げかけた。
「ええ、間に合いましたわ。後のことを考えて、少しばかり大きな物にしたせいか、少々時間が掛かってしまいましたけど……」
「大きな物?」
アリエンナの答えに、ブリジットが首を傾げる。
「髪飾りですわ。金にルビーが散りばめられていますの」
アリエンナが両手を前に出し、この位というように手を形づくる。
「金にルビーはステキだと思いますけど……結構、大きいですわよね?」
ブリジットは目を瞬かせ、再び不思議そうに首を傾げた。
「『花ラブ』の卒業パーティーの断罪場面で、わたくしは特別な衣装を身につけて登場するんですわ。ゲーム通りですし、少しばかり大きくなっても問題ありませんわよ。ねぇ、シーさん?」
急に話を振られ、大きく目を見開いてアリエンナの形づくった手を見つめていたクリスティーナの肩が、ビクリと跳ねる。
「えっ?ええ……ええ、何の問題もありませんわっ」
クリスティーナの上ずった声の返事を聞いて、アリエンナは満足そうに頷いた。
「乙女ゲームの登場人物に生まれ変わったと知った時は『この世界、どうしてくれようか』とか思いましたけど、明日で終わると思うと、あっという間だった気もしますわ」
視線を遠くにやったアリエンナは、大きな木の枝に止まるカラスと目が合う。
艶々とした羽の真っ黒なカラスにギロリとメンチを切られた気がしたが、きっと気のせいである。そっと視線をそらす。
「まあ、そう言われれば、何とも感慨深いものがありますわね」
遠くへ思いを馳せるように顔を上げたブリジットの目に、他の二人の背後をゆっくりと横切っていく黒猫の姿が映る。
チラリとこちらを向いた猫が、目を細めてニヤリと笑ったような気がしたのは、きっと幻覚である。そっと顔をそらす。
「明日で終わりですのね……」
二人の言葉にクリスティーナも染々とした面持ちで頷くが、何かを決意したように表情を引き締めて顔を上げる。
「ええと……今まで黙っていましたけれど、実はわたくし、平民出身なんですの。幼い頃はただの庶民として、母と二人で町中で暮らしておりました」
クリスティーナの突然始まった告白に、他の二人の目は驚いたように大きく見開かれる。
「母は侯爵家で働いていたメイドで、当主のお手つきになってしまい、奥方に屋敷を追い出されたそうですわ。
その時は、わたくしができていると分かってなかったようですが、五歳の頃母が亡くなって、どこからか、わたくしの事を聞きつけた父がわたくしを引き取りに来たんですの」
「まっまあ、そうでしたの」
驚いた声で相づちを打ちながらも、アリエンナの記憶に何かが引っ掛かる。
「侯爵家に引き取られても、父はわたくしには無関心で、継母や異母兄や異母姉に、生みの母が平民なのを散々馬鹿にされて、見下されてきたものですから、お二人が前世持ちであの人達と同じ様に馬鹿にされることはないと思いつつも、今世ではお二人とも生粋の高位貴族令嬢としてお育ちでしょう?万が一、同じ様に見下されたらと思うと、今まで言えなかったんですわ」
早口で語られた身の上に、ブリジットは仄かな笑みを浮かべる。
「あらあら、それは本当に杞憂でしたわねぇ。高位貴族令嬢として育っても、根の価値観が全く違いますもの。
特に我が家など、一般的な貴族とは異なりますし……。平民出身だからと馬鹿にすることは絶対ないと誓えますわよ?」
そう言いながらも、目の前のふわふわした茶色の巻毛が何かの記憶を刺激する。
「わたくしも平民だからと見下す事はないと言い切れますわよ。前世では生粋の庶民のOLですし……。」
ブリジットに続いて、そう口にしたアリエンナは唐突に思い出す。
小学生の従妹が、新しいゲームが出たと自分の所に見せに来たときの事が脳裏に浮かんだ。
パッケージにはたくさんの美青年に囲まれた、明るく笑う茶髪の少女が描かれていた。
『今度はね、ヒロインのせいで婚約を無しにされた同級生の女の子が別の国に行って幸せになるお話なの。前のより難しくなって、考えなくちゃ出来ないんだって』
脳が溶けそうなゲームのせいで、色々記憶が怪しくなっていたが、なぜか舌足らずな従妹の子猫のような高い声が鮮明に蘇る。
一緒にやろうと誘ってくるのを、ちょうど通りかかった高校生の弟──いたな、弟──に小遣いを握らせ、目力で黙らせて、『お姉ちゃんご用あるから、お兄ちゃんが代わりにやってくれるって』と弟を従妹の生け贄に捧げたところまでを思い出した。
ん?これは……。この作品を応援して下さったということでしょうか。くっ……こんな作品で本当に心苦しいですが、励ましや応援をしていただいて有難うございます。




