※02話 三人の少女は出会う
様々な薔薇が美しく咲き誇る王家自慢の薔薇庭園。王妃主催の貴婦人を集めたお茶会が、よく催される場所だ。
だが今日は、設置された白い丸テーブルの周りに座っているのは、まだ社交界デビューもしていない十歳前後の少女達だ。
用意されたテーブルは5卓。1卓に六脚の椅子があるが、間をあけて三人ずつ少女が座っている。
白いシャツに黒のベストとズボン、モーニングのような黒の上着を身に付けた姿勢の美しい従僕に案内され、最後の招待客と思われる少女が席に着こうとしている。
少女が履いているのは、リボンの付いた光沢のある赤い靴。花模様の白レースの靴下が愛らしい。パニエでふくらんだ膝下丈の豪華な赤いドレス。
光を反射する艶やかな金の髪は、両サイドに赤いリボンが飾られ、見事な縦ロールになっている。
形良く整えられた眉。高価なサファイアを思わせる、少し目尻が上がった青い眼は長いまつ毛にふちどられている。少し高めの、筋の通った形良い鼻。笑みの形に口角を持ち上げた口元は、赤く綺麗な艶を見せている。
庭園で咲き誇る大輪の紅薔薇のような、艶やかな美貌の少女だ。
細目の眉が、少しつり上がった目尻が、つんとすましかえりそうな鼻が、皮肉げに持ち上げられた口角が、高位貴族の高慢さと傲慢さを匂わせていたが。
少女を案内してきた従僕が、スッと静かに椅子を引く。少女は着席する前にドレスの両端をつまんで持ち上げ、軽く膝を曲げる。先にこのテーブルにいた二人の少女に挨拶をした。
「わたくし、アークヤーク公爵の長女、アリエンナ・タカビージョ・アークヤークと申します。本日はよろしくお願いいたしますわね」
少女期特有の少し高めの美しい声でなされた自己紹介は、なぜか抑揚のない棒読みだった。
挨拶を受け、すぐに立ち上がろうとした右側の少女の背後に、テーブル付きの従僕が迅速に歩みより、流れるような所作で立ち上がりやすいように椅子を引く。
立ち上がったのは、透明な小さな宝石が、花の意匠に散りばめられた水色のドレスをまとった少女だ。森の奥にある湖のような、静謐な雰囲気のある清楚な美少女だった。
腰まであるまっすぐな黒髪は、綺麗に毛先を整えられ、陽光をはじきキラキラと輝いている。くっきりと描かれた眉。希少なアメジストのような深い紫色をした眼は、神秘的な光を宿している。すっきりとした鼻筋。ニコリと笑みを形造った口元は、薄紅の優しい色合いを見せ、瑞々しい。
「わたくし、トーイデー辺境伯の三女、ブリジット・ハージッコ・トーイデーと申します。お先にご挨拶をいただき、誠に恐縮でございます。本日は、こちらこそよろしくお願い申し上げますわ」
スキのない動作で、素早く挨拶を返す少女の言葉もなぜか棒読みだった。
一拍遅れて、左側にいた少女も慌てて立ち上がろうとする。
背後にすでに控えていた従僕が、優雅にソッと椅子を引く。少しよろけそうになった少女の腰を、さりげなく支えると姿勢を整え、音もなく素早く下がる。
白いレースの小花があしらわれた、薄桃色のドレスを身に付けた少女は、公園広場にいるクルミを頬袋いっぱいに詰め込んだリスのような愛らしさだ。
茶色のふわふわした巻き毛は、種々の小花で飾られ、とても柔らかそうにかすかな風にも踊っている。薄めのちょっと寄せられた眉。良質なエメラルドのような大きな丸い緑色の眼は、うるみを帯びて濡れたように光っている。少しふくらんだ小鼻。ぷるぷるとしたピンク色の唇は、微笑もうとしてヒクヒクとひきつっている。
「わ、わたくし、ドウデモー侯爵の次女、クリスティーナ・ワーキヤク・ドウデモーと申します。ご同席させていただき、とても嬉しく存じます。本日はよろしくお願いいたします」
ふるえ声でそう挨拶した少女は、なぜか泣きそうだ。
赤いドレスの少女は軽くうなづくと、ゆっくりと椅子の上に腰を下ろした。スッと近寄った従僕が、絶妙なタイミングで椅子を押す。
他の二人の少女の背後に控えた従僕も、少女達が腰を下ろすタイミングでスッと椅子を近づける妙技を見せる。
金髪縦ロールの少女、アリエンナは着席すると、フッと小さくため息をついた。各テーブルに座っているのは、いずれも高位貴族の令嬢達なのだろう。