▲13話 ここは乙女ゲームの世界ですわ
「そっそう言えば、ヒロインちゃんの攻略がさらに進んで、取り巻きがずいぶん増えたとか……。生徒会も仕事が滞ってしまっているそうですわ」
しばらく死んだ目をしていたクリスティーナだが、気を取り直してそう報告し始める。
「……生徒会。王子は生徒会役員でしたかしら?」
クリスティーナから伝えられた内容に、アリエンナの視線は上を向く。
ゲームでは、王子が生徒会長で、その取り巻き達が生徒会役員をしていた。
でも、実際のところ、王族や高位貴族であるあの三人が、一般生徒のためにあくせく働くことなど考えられない。
現実では、他の人間が生徒会長だった気がする。
ゲームと現実に多少の齟齬が生じるのは、もう分かっていることだ。
「王子は名誉生徒会長をやっておりますわね」
「名誉生徒会長?」
ブリジットが告げた、初めて聞く言葉にアリエンナは首を傾げる。
「ええ、肩書きだけで、本当の生徒会とは別ですわね。
慣例として、この学院では直系王族は名誉会長職に就くそうですわ。
学院に、直系王族がいるときは、名誉生徒会と実際の執務・運営をする生徒会の二つが、存在するということですわね。
名誉生徒会は、会長と副会長の二職だけで、王子の取り巻きの数だけ、副会長がいるそうですわ。
因みに、王族が複数いる場合は、下位の方が、副会長になるそうですわ」
ブリジットの詳しい説明に、アリエンナの眉が寄る。
「有名無実というか、それは、意味があるのか、ないのか……邪魔なだけの存在のような気もしますけど」
「本来の生徒会室とは別に、『名誉生徒会室』と言う名の豪華絢爛な応接室があるそうですわ。
優秀な成績や功績をあげた生徒を招いて、労らったり、褒賞を与えたりするのだとか……。
将来の優秀な人材を確保する意味もあるようですから、あちらにとっては全く無意味と言う訳でもないようですわ」
アリエンナの訝しげな表情を見て、ブリジットは補足説明を付け加えた。
そこにクリスティーナが割って入る。
「でも、邪魔は邪魔ですわよね。
偉そうなだけで、仕事をしない役立たずは、ずっと出てこないように応接室に閉じ込めておけばいいんですわ。
例えば、あの立って歩いて喋る、頭に緑の苔が生した、悪魔化した黒い『ウジムシ』とか……」
クリスティーナの発言に、ハッとブリジットの目が見開かれる。
「そうですわね。あの中身が燃えカスになってる赤い頭のオーガ、剣を振り回すしか能のない『ゴミクズ』とかは、人の目に触れないように閉じ込めておけばいいですわね」
「──それは高ランク討伐対象になりそうですわね」
呆れたように呟いたアリエンナの言葉を耳にして、二人はビクリと身を震わせる。お互いに顔を見合わせると、水を得た魚のように元気に話し始めた。
「ハエになる前に、ギルドに依頼を出しましょうか?!」
「いい考えですわっ。あれもキングになると、知恵がついて厄介になりますからね。」
「悪しき者は殲滅すべきですわよね!」
「跡形もなく、消滅させるべきですわね!」
「クェックェックェッ」
「クフックフックフッ」
暗く目を輝かせ、狂気を帯びた奇妙な声で笑い始めた二人を見て、アリエンナはゆっくりと立ち上がった。
手を伸ばすと、すばやい動きで二人の額にピシッ、ピシッとデコピンを喰らわせる。
「戻ってきなさい」
威圧を込めた重い声が、アリエンナの口から発せられる。
「ここは乙女ゲームの世界ですわ。
王は普通の人間しかでませんわよ。魔法や魔の森があっても、悪魔や魔物はでませんの。落ち着いて下さいな」
自分の一言が引き金になったのを棚に上げ、アリエンナは静かな声で二人を諭す。
自分の額に手を当てた二人が静かになったのを確認すると、再び腰かけた。
「……申し訳ありませんでしたわ。それで今は実質的な生徒会役員の方々も、ヒロインさん目当てに応接室の方に入り浸って、生徒会が機能していない状態らしいですわね」
額をなでながら、癒しをかけたブリジットの顔は正気に戻っている。
「もうすぐ、学院祭でしたわよね?そんな状態で大丈夫なのかしら」
「ああ、その点は生徒会執行部の女生徒の方や、落ち着いた顔や味のある顔の男子生徒の方々が頑張って、なんとかなるみたいですわ」
額に赤身が残っているが、クリスティーナの声音も元に戻っていた。
ブリジットの手から淡い光が、投げかけられ、クリスティーナの額の赤身も消える。
感謝の視線を送ったあと、クリスティーナは籠に盛られた焼き芋に手を伸ばした。
アリエンナはクリスティーナの話を聞くと、小さくため息をついた。
「それは、良かったですけれど、お困りの方も多く出てそうですわね」
「ええ、ヒロインさんはその辺のことは余り考えず、大勢の取り巻きを引き連れて、学院内を闊歩しているようですわね。困ってる方も多いそうですわ」
アリエンナの懸念を受けて、ブリジットが答える。
「……ヒロインの取り巻きも、横に広がらす、廊下では縦一列に並んで歩くぐらいの、人に迷惑をかけない分別があればよろしいんですが……」
「──ええ、本当に」
アリエンナの呆れを含んだ言葉に、ブリジットの眉がわずかに動くが、ニコリと微笑んで相づちを打つと、皆のカラになった湯呑みにお茶を注ぎ始めた。
★有名無実──名ばかり(立派)で、それに伴う実質のないこと。
★ハエの王──名前の付いてる、結構有名な悪魔。
★オーガ──ハイファンタジーなどで、よく出てくる鬼のような魔物。キングに進化すると力が増大して群れを作り、厄介な存在になる。




