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第八話



『お困りのようだねえ』


「あ? ああ……あ!」




 背後から話し掛けてきた太陽王子に生返事を返したミクロンはそういえばコイツがいたよ! と思い出したのだ。

 もう既に居ないけれども、別に彗星野郎などに頼み込まなくてもこの太陽王子なる人物に頼めば家に帰れるではないか! という考えに至ったのである。




「おう! 太陽王子!!」


『何だい?』


「アンタも当然、宇宙船ってやつを持っているんだろう?」


『持ってるね』


「そいつでちょいとウチまで送ってくんねえかな? ほら、彗星野郎がどっかに行っちまって困ってんだよ」


『それは出来ないね』


「おうおう! そいつは道理が合わないんじゃねーか? 太陽の旦那よう!!」


『何の事かな?』


「お前さんはババアを仕留める為に、このミクロン様を囮にしたって言いやがったよなあ?」


『ああ、言ったね』


「だったらもう俺様に用はないじゃねーか! 別に見返りを要求している訳じゃねーんだからウチまでちょちょいと送ってくれたっていいだろう!!」


『駄目だね』


「ばっ、馬鹿野郎!!! それが巻き込んだ奴の言い草か!!! ふてえ野郎だ!!!」


『妹がね』


「あん?」


『妹が君に惚れたらしいんだよね』


「ほわっつ?」


『私の妹が、心優しいミクロン君を見て一目惚れしたらしいんだよ』


「ほわっつ?」


『だからね、ミクロン君にはウチの可愛い王女様の婿になって欲しいんだよ』


「ほわい!!! 何故デス!!!」


『何が?』


「俺はそんな事一ミリたりとも望んではいないのに!!! ほわーい!!!」


『まさか嫌とは言わないよねえ?』


「そんな訳分からん女との結婚なんて嫌に決まってんだろ!!! ほわーい!!!」


『私の妹が訳分からんだと?』


「はうっ!?」




 天を仰ぎ「ほわいほわい」と雄叫びを上げていたミクロンは太陽王子からただならぬプレッシャーを感じとり理解する。


 この太陽野郎は重度のシスコンであると。



 であるならば逆らってはいけない。ミクロンは確かに家に帰りたくて仕方がなかった。

 だが、目の前のシスコン野郎はミクロンが手も足も出なかったダークネスの婆さんを絶命させる実力を持った圧倒的強者である。

 逆らって命が無事だとは到底思えなかった。


 そうと決まればミクロンに残された選択肢は一つしかなかった。



「冗談っすよ兄ぃ!」


『ん? そうかそうか!! はっはっはっ!!!』



 ゴマスリ。これこそがミクロンに残された最後の選択肢であった。生きていればいつか家に帰れるかもしれないという希望的観測がミクロンにゴマスリをさせたのである。



「さあ兄ぃ! 行きやしょうぜ!」


『はっはっはっ! お前もすっかり私の弟だな! こいつは妹“達”も喜ぶぞ!!!』


「へっ?」


『はっはっはっ! この女ったらしめが! まさか知らない訳じゃないだろう? 太陽王家の十二姉妹を?』


「あっ、あったり前じゃないですか兄ぃ!!」


『いやあ、まさか十二人全員が同じ男に一目惚れなんて最初は驚いたけどミクロンならば大丈夫だろう。こんな可愛い弟が出来て、お兄ちゃん嬉しいぞ!!!』


「あっしも嬉しいでやんす! 幸せでやんす!」




 ここにきて、ミクロンは家に帰る事を諦めた。

 時期を見て宇宙船を奪取し、家に帰るのだと決心していたミクロンだったが嫁さんが十二人もいたのでは逃げ出す事が絶望視されるからである。


 月面から飛び立つ前に地球を見たミクロンは泣いた。

 家族との永遠の別れであるから泣かずにはいられなかったのだ。


 ひとしきり涙を出し尽くした所で、ミクロンは何かを呟き太陽王子の宇宙船に乗り飛び立った。

 船内にて『何で泣いているのだ?』と問われ「嬉し泣きしてしまいました」と嘘をついたミクロンが月面で最後に呟いた言葉は





「母ちゃん……ごめんな……」





 であった。ミクロンも人の子、今生の別れとなって頭に浮かんだのは母の顔であったのだ。






 その後……ミクロンは十二人の姉妹と重婚させられるも心労がたたり結婚式から僅か五年で帰らぬ人となった。

 まだ十代であったミクロンの早過ぎる死に十二姉妹は大変悲しんだという。






 さてさて、ミクロンは死に際に一つだけ悟った事があった。それは





「余計な事に足を突っ込むとロクでもない事にしかならなかったな。不用意に人助けなんてしなきゃあよかった」





 である。






 ◆おしまい◆







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