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2-5

ルナside

 今日はカトラス家のご令嬢のお屋敷でお茶会が開かれる。私はそのお茶会に参加することになっている。

 カトラス家で開かれるお茶会は、私が参加することを許されている数少ないお茶会の一つ。

 私は決まったお茶会にしか参加が許されていない。

 以前はお父様に、今ではルーカス様に許可されたものだけだ。



 今まではそれがなぜだかは分からなかった。お姉さまは他のお茶会にも参加しているというのに私だけが許されないのだから。

 長女のみ参加が許されるのかと思ったこともあったがそうでないことは知っている。

 だから、ずっと疑問だった。

 なぜ私は一部のお茶会を除いて参加することが許されないのかを。



 理由なんて簡単だったのだ。

 私が気持ち悪いからあまり他人の目に触れさせたくなかったのだろう。

 カトラス家のお茶会は招待される人数が普通のお茶会に比べて少ない。

 お茶会は情報交換の場所としても用いられると聞くからある程度の人数がいることが普通なのだろう。

 しかし、カトラス家のお茶会に参加するのは私ともう一人。シーランド家のご令嬢だけだ。

 3人だけのお茶会ならば人の目にもほとんど触れることはない。


 彼女たちは私にとても好意的に接してくれる。

 それはなぜなのか、今までそんなこと疑問にも思わなかったのに。

 今は何故か気になってばかりいる。


 きっとこの前、城での話を聞いてしまったから。

 私は死に神と呼ばれているのだと知ってしまったから。

 あの時お兄様は何も言わなかった。私が死に神と言われていることを知っていたのだろう。


 きっと目の前にいる彼女たちだって知っているのだろう。私が死に神と噂されていることを。

 そう思うと、好意的な彼女たちにも裏があるのではないかと勘ぐってしまう。

 彼女たちに対してとても失礼なのは分かっている。


 でも、私自身には何も価値がないから。

 どんどん悪い方向に考えてしまうのだ。


「ルナ様、どうかなさいましたか?」


「いえ、何でもありませんわ」


「そう……ですか。ああ、そういえば知っていますか? 幸せを運ぶ花屋の噂」


「幸せを運ぶ花屋……ですか?」

 私は花を見ると幸せな気持ちになれるがそういう意味ではないのだろう。

 噂になるぐらいだから、普通の花屋とは違うのだろう。

 どういった店なのだろうか。


「ええ。DEARという名前の店なのだけど、その店は薔薇のみが売られていてその薔薇を贈られた女性は幸せになれるそうですわ」

 DEAR――初めて聞く名前の店だった。

 薔薇を贈られると幸せになれるなんて不思議な話だが、ロマンチックな話だ。


「ロマンチックですわね」


「ただ、黄色い薔薇だけは例外らしいのです」

 黄色い薔薇の花言葉といえば、友情や友愛が一般的だっただろう。

 友人などに贈るにふさわしい花だと思うのですが……。


「黄色い薔薇は別れたい相手に贈るのに用いられるそうです。この花を贈られて別れた方もいるそうですわ」


「え?」


「でも、黄色い薔薇以外を贈られれば幸せになれるとの噂ですわ」


 黄色い薔薇の花言葉--薄らぐ愛、別れよう

 あまり一般的ではないが、この意味をとってのことだろう。


「赤い薔薇、贈られてみたいですわ」


「あら、旦那様に頼んでみてはいかが?」


「そうね。頼んでみようかしら」


「ルナ様もルーカス様に頼んでみてはいかがかしら」


「いえ、私は……」

 一度はもらってみたいと思ってしまう。

 そう思う資格すらないというのに……。


 でも優しいルーカス様なら、頼めば買ってくれるのだろう。

 でも、その花にはきっと気持ちはこもっていない。

 買う。であって贈るではないのだから。

 そんなものを貰ったところでむなしくなるだけだろう。



「そうよ。ルナ様は贈られなくても十分お幸せだわ」


「そうね」

 うふふふふと優雅に笑う二人。

 二人の言う通り、私は今でも十分に幸せなのだろう。

 なのに、これ以上を望もうとするなんて。なんてはしたないのだろうか。




 お茶会がお開きになり、私は迎えに来た馬車に乗って帰った。


「町を見てから帰りたいの」


「何か必要なものがございましたら、私に申し付けていただければ……」


「なんとなく町の風景を見たいだけなのだけれど……。駄目かしら?」


「……いえ。旦那様のお帰りになられる時間に間に合えば問題ありません」


 なんとなくすぐには屋敷に帰りたくなくて、使用人にわがままをいって少し遠回りをしてもらった。

 随分考えていたようだから、私になんかそんなに時間をかけたくないだろう。

 でも、付き合ってもらおうと思う。

 私は普段屋敷からあまり出してもらえないのだからこんな時くらいしか頼めない。

 外出が許されるのはお茶会に参加するときとお姉さまに会いに行く時くらいなのだ。

 それも屋敷と屋敷、屋敷と城を往復するだけ。寄り道なんて許されないのだ。

 こんな時くらいしか町を見る機会などない。



 私の見た目なら仕方のないことなのだろうが、それでもずっと屋敷にいるのは少し息苦しい気がする。

 時間が来たら大人しく帰るから、せめて今だけは。



 そんなことを願ったのが悪かったのだろう。

 大人しく、今まで通りに帰ればよかったのだ。

 わがままなんて言わなければよかった。


 馬車の窓から見た景色。

 そこにはお姉さまが以前教えてくれたケーキ屋さん、針子屋さん――様々な店が並んでいた。

 その中には以前お姉さまが気に入っているのだと言っていた宝飾店があった。

 なんでも店主のセンスがいいのだとかで、お姉さまは自分で何度も足を運んでいるらしい。

 お姉さまがそんなにも気に入る店とはどんな店なのか気になっていた。


 外から、しかも馬車の中から見るなんて無理かもしれない。

 でも雰囲気だけでもと思い、店のほうに目を向けた。



 店の中にいるお姉様とルーカス様が目に入った。


 動く馬車から見た光景だ。

 ほんの一瞬のことだった。

 だが、私の目には焼き付いた。

 2人が幸せそうに微笑んでいる姿が。



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