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7-2

 馬に乗り、長い間逃げ続けたはずの場所へと戻されるのにそう時間はかからなかった。

 馬に乗ったヒューイが屋敷で待機していたのであろうブルックにルナを引き渡す。するとブルックは渡されたルナを丁寧に横抱きにし、そのままの状態で食堂へと運び込んだ。

 周りにはたくさんの男たちがいた。だが、彼らがルナへと向ける視線は逃走を図った人質をみるめではなかった。

 先ほどの、森の中で向けられた視線がまるで嘘のように潤んでいたのだ。


 これはどういう状態なのかルナには理解できなかった。

 だが視線をずっとこちらへ固定して、ルナが口を開くのをじっと待機しているような彼らをずっとこのまま放置しておくわけにもいかなさそうだ。


「え、っと、あの……」

 何をいうべきか迷って、それでも何か言おうと口を開くと怒鳴り声が飛んで来た。

「危ねえじゃねえか!」

 それは鼻声で、まるで怖さはなかった。


「あそこはな、カッツェみたいな女の子が一人で行っていいような場所じゃねぇんだよ!」

「行くなら声くらいかけろ!」

「怪我してんじゃねえか!」


 それどころか泣き出す彼らはルナが心配で心配でたまらないといった様子だった。


「はいはい、あんたたち退きなさい」

 ドアから入ってきたミレーは怒鳴る男を押し退けながらルナの元へとやってくる。彼女の手には救急箱が抱えられていた。


「まずは手当てしなくちゃ」

 そういってルナの足元に跪いて慣れた手つきでルナの足に刻まれた傷に処置をしていく。


 それが終わるといつの間にかキッチンへと姿を消していたブルックが置くからトレイを持って登場した。

「ほらとりあえずお茶でも飲んで、な?」

 ルナの目の前にお茶とお菓子を出すブルックはヒューイのように怒鳴りもしなければ、男たちのように鼻声になることもなかった。

 その代わりルナを優しく抱きしめた。あの怖い夢を見た日に手を握ってくれたのと同じように、何も言わずにいた。


「カッツェ~」

 男たちの中に埋もれていたルーシィはちょこちょこと間を縫ってやってくる。その顔は可愛らしい顔に似合わずぐちゃぐちゃに汚れていた。


 こんな中で怯えてなどいられなかった。

 彼らはやはりルナにとっての温かい存在に他ならなかった。


「あれほどケモノが出るから危ないと言っただろう!」

「すみません……」

「まだ痛みますか? 痛いですよね。どうしましょう?」

「ルーシィ落ち着け」

 ワタワタとルナの前を行ったり来たりと繰り返すルーシィの頭をガシッと掴んで止めると、もう片方の手で手近な椅子を引きずりそこへと座らせた。

 そしてまっすぐとルナを見据えた。


「さて本題だ。……カッツェ、なぜ逃げた」

 漆黒の瞳は嘘偽りを一切許さないだろう。そして全てを受け入れてくれる、そんな確証があった。だから正直に語らなくてはならないのだ。

 話して、そして彼らの下した決断が何であろうともそれを逃げずに受け入れなくてはいけないのだ。


「見たんです。お父様たちが写っている写真を、そこに写っていた人物を。私にそっくりな女性を。私は彼女たちの代わりにこの場所に置かれているんだって思いたくなかったの……」

「それは!」

「私が誘拐されただけの人質だってことくらいわかっているんです! それでも私はこの場所を心地よく感じてしまったんです。だから……」


「へへへ」

 ルナは真面目な話をしているつもりだった。胸の内を、人には見せたくない暗い部分を包み隠さず告白していたのに一つの笑いによってその緊迫していた雰囲気は崩された。


「ふふふ」

「ははは」


 笑いはまた一つ、二つと増えて伝播していく。


 ルナの話を嬉しそうに、幸せそうに彼らは笑った。


「なんで笑うんですか!」

「だってカッツェが逃げたのはここに居たかったからだろう? 一人で勝手に外に出て、怪我をして帰ってくるのはそりゃあまぁ心配したけどよ? でもそれを聞いたら嬉しくならねぇはずがねぇ」

 一人の男が答えた。

 いつ見ても赤ら顔のその男は今日はまだ早いせいか酒を飲んではいないらしかった。けれどやはり泣いていた。いつものように、幸せそうに笑いながら。


 そしてその男についで誰もが「そうだ」と答えた。

 嬉しいのだと、ありがとうと。

 それはルナが彼らに向けるはずの言葉なのに、彼らはいつもルナよりも早く口にしてルナの言葉を奪ってはルナに向けて投げて来てしまう。


 ああ、なんて優しくて幸せなのだろうか。



「見ちゃったのね。ったくコニーめ……ちゃんと隠しておけってあれほど言ったのに。話すわ。見たなら話さなくっちゃ。そういう約束だもの。ねぇヒューイ。少し早いけれど……でももう隠せないわ」

「……そうだな。話すぜカッツェ。これから話すのはお前にとっての大事な話だ、逃げようなんて目をそらそうなんて思うなよ。よく聞けよ」


 ルナが今から耳にするのはきっと辛い話なのだろう。

 けれどルナはまっすぐとヒューイの瞳を見つめ返した。

 優しい彼らに囲まれて、もうルナは逃げることはないのだから。



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