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6-5

 ネコの形のハニークッキーは思いの外、大盛況で結局残ったのは僅かに二枚。

 足りてよかったとルナが胸を撫でおろしたもの束の間、残りの二枚はヒューイがひょいっと攫っていった。


「これで残ってなかったら誰かからぶん取らなきゃいけねぇところだった」

 そして皿を見つめて物騒なセリフを吐いた時にはルナの背筋はゾッとした。

 声も抑揚も一緒だが周りの雰囲気だけがそれが本気であることを示していたからだ。

 そう感じたのはルナだけではなかったらしく、ヒューイよりも少し前に食堂にやって来て、早々にクッキーを食したものや大事そうに手の中に取っておいているものは一斉にヒューイの方を見た。


 だがヒューイ自身が食べるわけではないらしく、手元のビニール製のラッピング袋に一枚ずつゆっくりと、割れないように入れてからそれぞれに黄色いリボンと赤いリボンを付けた。それらを大事そうに抱えて、夕飯を食べるために席に着く。

「カッツェ、飯だ。飯。ここ空いてっから早く席に着け」

 そしてヒューイの目の前にポッカリと空いた部分を指差して早く席に着くように促した。

「え、あの、まだみなさんお揃いではないようですが……」

 ルナが今まで座っていた椅子は、使っていた机は、クッキー作りの時には確かに使われていたものだ。そのはずなのだがその机はおろか、その周りのいくつかの机は誰にも使われてはいなかった。それどころか食堂の半分より少しドア側の、ヒューイが今まさに座っている場所こそが一番端の皿の乗った机だった。

 数えてみれば一番ドアに近い五つの机には、皿が置かれていなければその机の椅子には誰も腰掛けてはいなかった。


「ん? ああ。あいつらなら仕事に行ったから今晩は帰ってこねぇよ?」

「お仕事……ですか?」

「ああ。結構大事な……な」

 ヒューイの言葉に引っかかりを感じたルナであったが「今までだって何人かいないことあっただろ?」と言われるとそうだったような気がすると思わざるを得なかった。

 今回は机五つ分の人が一気に居なくなったから気づいたもののこれが数人だったら、この屋敷の住人たちを全員把握しては居ないルナはきっと気づかないからだ。


 それからいつも通り、皿にたくさんのオカズを乗せられていった。ここ数日でルナの食べられる量を把握したらしい男たちはルナの皿に山を築き上げることは止め、いろんな種類のオカズを少しずつ乗せるようになっていた。

 その中でも他よりも少しだけ量が多いものはどれも美味い美味いと言って食べる男たちがとりわけ気に入っているものだった。


 ルナは今日もプレートのように種類ごとに区切って乗せられた皿を完食することに勤しんだ。

 男たちが山盛りに乗せるだけあって、ここのご飯は美味しい。

 ランドール家、そしてクロード家のシェフに引けを取らない腕前の持ち主が作っているのだろうと感心して尋ねてみると、基本的にはブルックが作っているのだと半分ほど予想のできていた答えが返って来た。

 彼らいわくブルックはこの屋敷のキッチンの番人らしく、よほどのことがない限り皿一つ取るのでさえもキッチンには足を踏み入れさせないのだと男たちは笑っていた。

「あいつがいるから俺たちは今でも元気でいられんだ……」

 そう一人がボソリとつぶやくと、他の男たちもその言葉に何も言わずただ頷いていた。


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