6-3
「ほら出来たぞ」
皆で型抜きを選んでいる間、黙々と生地作りに勤しんでいたブルックがそう言葉をかける。すると生地は机の上いっぱいに伸ばされ、6等分の線が入ったクッキー生地が鎮座していた。
「ここ、私のところです」
「じゃあ、俺はここか」
「私はここで。コニー、あんたはここね」
「なんか俺のとこ狭くねぇか?」
「どこも均等だ」
「そうか?」
「カッツェはここでいいか?」
「あ、はい」
6つの四角のそれぞれを自分たちの場所と決めると、まずブルックが一つの型抜きを手に取った。
他の者も各々に好きな型抜きを選んだはずであるが全くそれらを手に取る様子もない。ルナは不思議に思って他の机も見てみるとやはりどの席も一人以外はずっと膝に手を乗せたままじっと待っていた。ルナも彼らに習い、じっと待つことを決めた。
「ほら、次。ヒューイだぞ」
「ん? ああ」
声をかけられ、ブルックから渡された型抜きでいくつか生地を型ぬいていく。その間、ヒューイとブルック以外はやはり何もしないままだ。
「ほれ」
そして隣の席のルーシィへその型抜きを手渡すと今度はルーシィ、ヒューイ、ブルックの三人がせっせと型を抜いていく。
どうやら先ほどから回ってくる型で型抜きをしてから各々の手元に避けた、好みの型抜きを手に取っているらしい。
「次はカッツェの番ですよ?」
「あ、うん……」
隣のルーシィから回されてきた型はトレイの上にあったどの型抜きとも違った。人のような形だが、それが何かはルナには判断はできない。
「それはですね……死に神様の型なんですよ!」
型抜きをしていたルーシィが顔をルナの目の前に出すと、エッヘンと今にも胸を押し出しそうに言った。
「死に神……様?」
死に神――それはルナにつけられた名前だった。
ランドール家ではルナ。
この屋敷ではカッツェ。
そして城の兵士は死に神と呼んだ。
思わずルナの手からは型抜きが落ちる。落ちた先は綺麗に平面になった生地だった場所。今では型抜きが中途半端に跡をつけていた。
「カッツェ?」
5人ともがルナの顔を心配そうに見つめる。
心配をかけてしまっていることはルナも十分理解している。
「すみません。手が滑ってしまって……」
型抜きに伸ばした手は震えていた。
もう大丈夫になったと思っていたと思っていた。カーティスによって励まされて、そして立ち直ったはずだったのだ。でもそれは妹に対して兄がかけた言葉だった。
私に向けてじゃない……。
震える手には人肌に触れて温くなった金属の型。手に食い込んでしまわぬように、再び落としてしまわないようにと気を付けながらも、こんなにも自分自身は弱かったのかと実感する。
「カッツェ、死に神様は凄いんです。どんなに黒く汚れていても、誰も見つけ出してくれなくても、死に神様たちだけはいっつも見つけてくれるんです。みんな見て見ぬふりをするのに、手を差し伸べてくれるんです」
一回り程小さな手がルナの手に添えられる。
ルーシィはルナの顔は見ていない。ただまっすぐに前を向けていた。正面のコニーには目もくれず、遠くにいる『死に神』に思いを馳せているようだった。
「だからカッツェのこと、ずうっと気にしているんですよ?」
重ねた手で型抜きを生地へと運んでいく。型抜きに力をかければ綺麗に『死に神』の形に抜けていく。
「まずは一人目。では二人目も作ってしまいましょう」
そういってからルーシィはゆっくりと手を放していった。今度は一人でやるようにということなのだろう。
先ほどまで手を重ねていたルーシィ、ルナの持つ死に神の型抜き待ちのコニーとミレー。そして作業の途中で手を止めたブルックとヒューイはルナの手元に視線を集めた。
クッキーはもう何度も作っていた。
その中にはもちろん、ハニークッキーもあれば、型抜きをしてから焼くこともあった。
だがここまで緊張することはなかった。
ゆっくりと金属を卵の色で染め上げられた生地へと突き立て、そして外した。
すると綺麗な死に神の形の生地が手の上に乗った。型を使ったから当然といえば当然なのだが、ルーシィに手伝ってもらったものと同じものができたことに安心した。
「これで二人。もう寂しくないですね」
ルーシィはルナの手の中にある二人の死に神に微笑んだ。




