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4-6

 ルーカスは今日もいつもとかわらず決まった時間に仕事を終えた。帰り支度もいつも通りに、決まったことを決まった通りに過ごすルーカス。


 昼間、引きずられて行くカイトに花屋の場所を聞き忘れたルーカスは、荷物をまとめた後、カイトの配置場所に向かうことにした。昼間ならば移動してばかりでどこにいるのか全く見当もつかないカイトでも夕方を過ぎれば大抵は場内の配置場所のどこかにいる。夕方から夜にかけて、家庭を持つ者たちはルーカスのようにこの時間に帰宅するものが多い。また、夜の勤務に入る者たちはこの時間から城にやってくる。そのため入れ替わりのこの時間は他の時間よりも少し手薄になる時間だ。その時間であるちょうど今頃は、カイトは大抵その日の手薄の場所にいる。いなければ諦めるしかない。その場合、カイトはどこかの部の手伝いをしている可能性が高いから探すのに手間取るからだ。

 とりあえず心当たりのある場所を数か所回ろうと思いルーカスは宰相室のドアを開けた。

 すると、そこには1人の文官が一通の手紙をもってたたずんでいた。


「追加の仕事か?」

 ついしかめてしまった眉とこわばった声はここ数日追加の仕事を大量にこなしてきたルーカスにとっては仕方のないことだ。

 そんなルーカスの表情を文官はなんてことのように処理をして、聞かれた質問に答えた。

「いえ、これはカイト様からルーカス様への手紙です」

「手紙?」

「はい。……では、私はこれで。失礼いたします」

 ルーカスが受け取ったのを確認し、文官は下がっていった。ルーカスは今しがた出たばかりの宰相室に戻り、適当な場所にカバンを置く。そして、受け取った手紙の口を開いた。

「“Dear”なら王都の南門の近くにある」

 いかにも急いで書いたかのような簡素な文は後ろになるにつれ、インクがかすれている。きっと何かの急ぎの用事の合間にこのことを思い出して書いたのだろう。カイトに心の中で感謝をしつつ、それをコートのポケットに折り目通りに畳んで入れる。


 使用人を待たせてある馬車に入ったルーカスは席に腰かけると同時に使用人に向かって言った。

「王都の南門まで行ってくれ」

「…………かしこまりました」


 南門の近くまで行くと、自分の店を主張するため、様々な色に彩られた看板が目に痛い。このたくさんの店から目当ての花屋を見つけることを少し億劫に思いながら馬車の中から店を眺めていたルーカスの目に唯一看板も何も立てていない店がポツンとたたずんでいるのが目に入った。気を付けていなければ見落としてしまいそうなその店をよくよく見てみると隣の店に並んでいるのだと思っていた客は次々とその店に吸い込まれるように入っていった。


「すみません、赤い薔薇の花束を」

「俺は青い薔薇を」

「こっちは黄色い薔薇を」

 馬車を降りて列に近づいてみると、店の中からは次々に花を注文していく声が聞こえる。

 花屋というと女性が多くいるイメージがあったのだが、この長い列に一人たりとも女性はいない。いるのはきっとカイルが言っていた噂を信じた女性たちに頼まれたのであろう、真剣な顔をして列の前のほうを見つめる男性だけだ。

 ルーカスも列の中の男性と同じように薔薇の花を求めるために列に加わる。列が進むにつれて大きくなる、花を注文する声。赤、白、赤、桃色……、次々に様々な色の花が注文されていく。

 贈り物をあまりしたことがないルーカスは長い時間並んでいれば注文されていく花の色の傾向がつかめるかと思ったがそんなことはなく、人によって注文する色が違えば、注文される色もばらつきが大きい。花束の大きさも皆それぞれだ。それはきっと贈る女性に似合う色や好きな色を選んでいるのだろう。

 ルーカスは薔薇といえば赤い薔薇を送るのが適しているのだと思っていたので、花屋に来るまでは赤い薔薇を注文しようと思った。しかし、花屋から出てくる薔薇を持った男たちの顔を見ているとその安直な考えが間違いのように感じる。そして、ふとルーカスの頭にルナの世話をしている花が浮かんだ。



 黄色い花――ルナの身につけているイヤリングと同じ色。



「すみません、黄色い薔薇の花束を作っていただけますか」

「はい、かしこまりました」



 店にあった黄色い薔薇を使って作ってもらった花束は大きく、ルーカスの顔よりも少し小さいくらいの花束を持って帰ってきたルーカスに馬車の前でルーカスの帰りを待っていた使用人は目を丸くした。



「今、帰った」

「おかえりなさい、坊ちゃん」

 屋敷の戻るとここ数日で聞きなれた低い声が、不機嫌そうにルーカスの耳に届いた。


「シンラ、これ……ランドール家に贈ってくれないか?」

 シンラに大きな黄色い花束と今朝がたしたためた手紙、そして渡せずにずっとカバンの中で役目を待っていたルナへのプレゼントを渡した。


「坊ちゃん……。はい、今すぐにでも届けさせます」

「ああ、頼んだ」

 ルーカスから受け取ったシンラは大事そうにそれらを抱え、去っていった。


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