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ルーカスside
「それじゃあ行ってくる」
「いってらっしゃいませ、ルーカス様」
いつものように私は家を出る。
私を見送ってくれたのは妻のルナだ。
ルナは毎日、私を起こし、私と一緒にご飯を食べ、私の出勤を見送って、帰宅した際には出迎えてくれる。
本当にできた妻である。
私たちは普通の夫婦と少し違う。
寝室は別。初夜は一緒に迎えることができなかった。
彼女を手に入れることができた。彼女が私のそばにいてくれる。それだけでも十分幸せだ。
これ以上を欲しいと思う私はなんて欲深いのだろうか。
私はもともとルナの姉のエルと結婚する予定だった。親の決めた政略結婚だった。だが、私にもエルも他に好きな人がいた。
私はルナを、エルは第4王子のことを愛していた。
私とルナの関係とは違い、エルと王子は愛し合っていた。
だから、私はエルと王子と話し合ってある計画を立てた。
私とエルが婚約破棄をして、エルと王子が幸せになれる計画を。
私はエルたちの計画を手助けする代わりに、ルナを手に入れるための計画をエルに協力してもらうことにした。
まず初めに、エルと王子が結ばれるための計画を実行した。
重役が多くいる場で、宰相である私が王子に将来の相手探しをしてみてはいかがですかと助言をし、その助言を受け入れた王子がお茶会を開くことを宣言する。
病弱でずっと相手がいなかった王子が将来の相手を探すと宣言すれば重役たちが反対しないことなど目に見えていた。
そして私は婚約者がいないご令嬢あてにお茶会の招待状を送った。
もちろん、ルナにも。
このとき、ルナは高熱を出していてお茶会に出席できないということはエルからの情報で把握していた。
ルナがお茶会に来られないと知っていてわざと招待状を送った。
王家からの招待を無下にはできないから代役が立てられるであろうことと、その代役がルナの姉であるエルであることを知っていたからだ。
お茶会の日、エルと王子は誰から見ても幸せそうだっただろう。
そしてお茶会が終わった後、王子は王様に告げた。あの少女を妻にしたいと。
エルが私の婚約者であることを知っている王様は何度も考え直すように言った。だが、王子は諦めずに何度も王様に頼み込み、やっとエルを手に入れることができた。
「遅くなってごめん」
「本当にギリギリだったわ。あと少し遅かったら、私とルーカスが結婚しちゃうところだったじゃない」
「改めて言うよ。エル、僕と結婚してください」
「よろこんで」
エルも王子もとても幸せそうだった。
「二人ともお幸せに」
「お幸せに、じゃないだろ。次はルーカス、君の番だよ」
「そうよ。ルナのこと手に入れるんでしょ?」
「そのつもりです」
そして私はルナを手に入れる計画を実行した。それは計画というほど立派なものではない。エルの結婚式の後に、エルに協力してもらってルナに会う。そのあとは全てアドリブだ。
私にとって、どの国と交渉することよりもルナを手に入れることのほうが難しいことだ。
緊張しすぎてエルの結婚式に出ることさえ忘れていた。
「あんた本当に昔からルナのことになると全然だめね」
「惚れた女の前じゃ男なんてこんなもんだよ」
「そうかしら」
「そうだよ。ルーカス、頑張ってくるんだよ」
「はい、行ってまいります」
私がルナを見かけて話しかけようとしたときルナからこちらに近寄ってきた。
「ルーカス様、姉の代わりに私と結婚してはいただけないでしょうか。長女ではありませんが、私もれっきとしたランドール家の娘。当家とのつながりならば私と結婚したとしても得られます」
何を言っているのだろうか、それではルナの思いはどうなる。
「しかし・・・」
「ルーカス様がランドール家とのつながりを得たいのと同様に当家もあなたとのつながりが欲しいのです」
家のために自分を犠牲にするというのか。
「・・・」
「お考えになっていただけないでしょうか」
ああ、彼女はランドール家のために自分を捨てるというのだ。
彼女の思いはそこにはない。
私と結婚したいのではなく、家のために私とのつながりが欲しいのだという。
「わかりました。互いの家のためにあなたと結婚しましょう」
私は彼女の考えを利用した。
彼女を手に入れるために……
そこから、半年が経って私とルナは結婚した。
私はルナと結婚することを考えて選んだタキシードを、ルナはエルがルナに似合うようにと選んでいたウエディングドレスを身にまとい結婚式を挙げた。
そして、姉の身代わりとして私の元へ来たルナは私の妻となった。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、ルーカス様」
そして私は、いつもと同じ時刻に帰宅した。
王子とエルからは結婚記念日くらい早く帰ったらどうかと言われたが私はいつも通りの時刻にしか帰宅できなかった。
ルナにとっては結婚記念日なんて関係ないことなのだから。
ルナは姉の代わりに私と結婚したにすぎないのだから。