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3-6

『 我が息子 カーティス=ランドール


 この手紙を読んでいるということはきっと俺の日記も読んだことだろう。

そしてすべてを知ったのであろう。


 お前は俺のしたことを自分勝手だと恨むかもしれない。だが、俺はそのことに対して謝りはしない。

最後の最期までこの手紙を何度も書き直したが、やはり俺は俺のしたことを悔いてはいないからだ。


 俺にとってお前とエルはエルナから与えてもらった大切な子どもだ。

 俺にはお前たちをただ大切にしたかった。そして、強い人間に育ってほしかった。

 そして俺がいなくなった後も強く生きていけるように育て上げた。

 苦労なんてしてほしくはなかった。


 お前たちは俺の予想を超えて、何ともたくましい人間に育っていった。

 お前が一人で商談を済ませた時、もう俺がいなくとも大丈夫なのだと悟った。お前のことだから、これからもうまくやっていくことだろう。

 何と言っても俺とエルナの子どもだからな。



 ただ一つ気がかりがあるとすれば、それはルナのことだ。

 お前も知っての通り、ルナは俺とエルナ、カーティスとエル、その誰とも血のつながっていない。

 あの子は孤児だった。

 孤児だったあの子を引き取って家族にした。

 あの時の判断を今では正しかったのかどうかはわからない。だが、俺はルナを家族にしたことに対しては一切の後悔はない。

 あの子もまたお前たちと同じように大事な俺の娘だ。


 だが、それは俺の独断だ。

 今の形を、俺が作り上げた家族という形をお前たちにそれを強要するつもりはない。


 だから、選べ。

 この形を続けるか、否か。


 既にクラウンを含めた何人かの知り合いには話をつけてある。お前もルナも何も困らないように。

 お前がどのような選択をしたとしてもきっとあいつはお前を助けてくれるだろう。お前は遠慮なくあいつを頼るといい。


 だからお前はどうしたいのか、お前の意思で選択をするといい。


 俺が選んだように。次はお前が選ぶ番だ。


 何、焦る必要はない。

 考える時間はいくらでもある。気長に考えるといい。


                          グレン=ランドール』




 孤児?

 血はつながっていない?


 この髪は、この目は、お母様のものではなかったというのか。


 ルナの中で、ずっと信じ続けていたものが全て崩れ落ちた。



 お姉様の代替品にもなれず、ランドール家のつながりさえない私は何があるというの?――答えは簡単だ。 何もない。



 家族だと思っていた人とは血がつながっていなかった。

 そして、お兄様はそのことを知っていた。

 知っていて、何も言わなかったのだ。



 あんなにボロボロになるまで何度も読み直した手紙――それはきっとお兄様の気持ちを表しているのだろう。



 お兄様は、カーティス様は、私を家族だとは思っていないのだろう。

 あの優しそうな顔もしぐさもすべて嘘で、宰相の嫁であることだけに利用価値を見出しているのであれば……。


 私にできるのは何だろう。

 捨てないでほしいとすがる? いや、そんなことはできるはずはない。

 私がお姉様、お兄様だと思っていた人達には、お父様が亡くなる前、そして亡くなった後もお世話になっている。

 例え知らなかったとしても赤の他人である私を妹として扱ってくれたのだ。


 そんな優しい人たちに、私にできることなんて限られている。彼らにとって価値のある人間であり続けること、これが最善で唯一の方法なのだろう。



 そう決めたルナはカーティスに手紙を見たことを知られないように、手紙を元あった本の間に挟み、再び本棚の空きスペースを探した。



 ルナは自分の右足の直線状の位置に空きスペースを見つけ、本棚のくぼみにピースのように本を埋め込んだ。




「ただいま」

 玄関から響くカーティスの声にルナはびくりと体を震わせる。


 先ほどまでは、あの手紙を読むまでは、心待ちにしていたカーティスの帰り。だが、今のルナにとっては恐ろしいことだった。

 手紙を勝手に読んでしまったことにカーティスが気付かないか気が気ではなかったのだ。


 もし気付かれてしまったら……。


「ルナ? ただいま」

 出迎えに来ないルナに何かあったのかと心配したカーティスは急いで玄関から書斎まで走り、ルナの元まで駆け寄り顔を覗き込んだ。


「お、おかえりなさい」

 お兄様と言いかけたルナは慌てて口をふさいで、おかえりなさいと言い直した。


 カーティスはルナの行動を少しいぶかし気に見ていたが、やがてルナの手や足を確認した。


「何もないならいいんだ」

「あの、ご心配をおかけしてしまってすみません」

「どうしたんだ、ルナ? 急にかしこまって」

「ごめんなさい」

「? まあ、いい。ルナ、ルーカスから贈り物だそうだ」

「ルーカス様からですか?」

「ああ。ルーク」

「は。ルナ様、こちらになります」


 ルナが謝ったことを不思議に思いながらも、カーティスはルークから報告のあったものをルナに渡した。

 カーティスはさぞルナが喜ぶのだろうと思い、「開けてみろ」と笑顔で言った。


ルークが差し出したものは黄色い薔薇の花束とアクセサリーケース、そして1通の手紙だった。


 花束をまとめるリボンはエルの髪の色と同じ、炎のような赤色。そこにはルナの髪の色と同じ空っぽな白い文字で『DEAR』と書かれていた。



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