2-7
お茶会の帰りに見た二人の姿。
とても幸せそうだった。あまり笑わないルーカス様はお姉様の前ではあんなに自然に笑うのね。
結婚する前は私にも笑顔を向けてくださった。でも、結婚してからは一度も私の前でその笑顔を見せたことはない。
きっと私がお姉様の妹だから笑いかけてくれたのだ。
でも、もうお姉様は手に入らない。王子様と結婚してしまったから。
所詮、私は代替品。私には笑顔すら向けてくれないのだ。
そんなこと当たり前のことなのに。わかっていたことなのになぜこんなにも悲しいと思ってしまうのだろうか。
それでもいいと思っていたはずなのに。ああ、なんと醜い嫉妬だろうか。図々しい。
彼と一緒にいられるだけで満足だったのに……
私はなんて欲深くなってしまったのだろうか。
あの日からどんどん自分が嫌いになっていく。
お姉様もルーカス様も悪くない。
悪いのは私。
そんな醜い私が私は嫌いだ。
ある日、お兄様から一通の手紙が届いた。
お兄様が風邪をひいたらしい。お兄様は体が強いはずで、いままで全く風邪なんかひかなかったのに。
お兄様はつい4か月ほど前に風邪をひいたばかりだ。なのに、また風邪をひくなんて……。
もしかしたらどこか悪いのではないだろうか。もしくは少しオーバーワーク気味だとか……。
お兄様は私やお姉様のことは気にかけてくれるが案外自分のこととなるといい加減なのだ。
心配ね。使用人たちが看病をしてくれているのは分かっている。
それでもやはり心配なのだ。
さっそくお見舞いに行かなくては。お兄様のことだから、体調が悪くても無理をしてしまうかもしれない。
そう思うといてもたってもいられなくて、さっそくルーカス様の部屋まで行くことにした。
「あの、ルーカス様。外出許可をいただけませんか?」
珍しく休暇が取れたらしく屋敷にいたルーカス様に外出許可をとることにした。
ルーカス様は部屋に入ってきた私を初めは驚いたように目を見開いて見ていたが、すぐに手元の書類に顔を向けてしまった。
でも、めげるわけにはいかない。
ルーカス様の許可がなければお兄様のもとへ行くことはできないのだから。
外出許可をとるのは変なことらしい。これは以前カトラス家のご令嬢から聞いた話。
でも、私にとってはこれが普通のことだ。
結婚する前もお父様の許可がないと外出できなかった。
お姉様はたまに屋敷を抜け出していたようだけれど、あとからお父様にばれてこっぴどく叱られていた。
口数の少ないお父様が声を荒げていたことがとても印象的であの時のことは数年たった今でも鮮明に思い出せるほどだ。
「なぜ?」
機嫌が悪そうに私を見るルーカス様。
資料から顔をあげることなく、視線だけこちらに向けて。
「お兄様が風邪をひいたらしいのでお見舞いに行きたいのです」
「だが……」
「ダメ・・・・・でしょうか?」
私を外に、人の目にふれる場所にあまり出したくはないのかもしれない。
しばらく返答に渋っていたがようやく
「まあ、カーティスさんの見舞いなら……」
そういって渋々ながらに外出の許可をくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言う私をなんだか複雑そうに見ているルーカス様に悪いとは思いつつも、私は予定通りお兄様のお見舞いに行くことにした。
さっそく見舞いに行くための用意をしなければ……。
お兄様が好きな桃。確か庭になっていたはずだから庭師にとってもらって……。
それに、お兄様が好きなガーベラ。私が庭で庭師から場所を借りて育てている花の一つ。それもラッピングして持っていこう。
お兄様の瞳と同じ色の紅のガーベラ、お兄様は喜んでくれるだろうか。
「ルナ!」
考え事をしながら、部屋を去ろうとした私にいつもよりも強めの声でルーカス様は呼びかけた。
「はい、何でしょうか?」
「その……気をつけてな」
お兄様のもとへ行くだけなのに何を心配なさっているのだろうか。
他の人の目に触れないように?
でも、そんなに心配しなくても馬車から顔を出したりなんかしない。
じゃあ、他にどんな理由があるのだろうか?
「はい、行ってまいります」
考えてもわからなかったので、私はそれだけ告げてお兄様の元へ向かうことにした。




