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エッセイ

K国での体験

作者: ロロサエ

 K国で出会った、話しの通じなかった日本人夫婦と、現地人オーナーについての思い出です。

 数年前に体験した実話です。

 騒動が7つもあり、無駄に長文です。

 海外、しかも農園という特殊な状況なので、なるべく正確に描写しようとし、冗長となりました。

 

 登場人物

 私(当時30代前半の男)

 松田夫妻(日本人)夫70代、妻60代

 オーナー(現地人)70だったか80代だったか。日本語ペラペラ

 オーナーの息子(オーナーは忙しいので農園の管理を任されている)50代

 工藤さん(日本人)、30代男

 ジョンソン夫妻(N国の出稼ぎ労働者)夫40代、妻30代で子供2人は母国にいる

 ニック(N国出稼ぎ労働者)20代男

 犬ポチ、ジョンソン夫妻の飼い犬


 私、ジョンソン夫妻、ニックは同じ宿舎で寝起きをしています。

 松田夫妻は同じ敷地内ではありますが、離れたところに居住しています。

 工藤さんは松田夫妻の屋敷の隣に住んでいます。

 オーナーとその息子さんは車で1時間くらいのところに居住です。


 話の前提として、私は南の島で農業をやって生活できればと思っていました。

 自己資金が不十分だったので、まずはコネだろうと思い、農園で働けないかと色々探していました。

 そんな中、太平洋の小さな島国Kで、観光農園をされていた日本人のご夫婦(以下松田夫妻)がいるという話を聞き、なら直接話を聞いてみよう! とその国に渡航しました。


 松田夫妻は現地人のオーナーから土地を借りて、観光農園をしていました。

 偶然にも松田夫妻の観光農園でレストランを開く予定があり、一人の日本人、工藤さんを雇うことが決まって(日本での面接済み)いました。

 だからウチで雇うことはできないが、オーナーが持っている方の農園で労働者を探しているが、どうか? ということを聞かれ、是非! とお願いしました。

 オーナーとの面談の機会を得、月給は350ドル(ジョンソン夫妻、ニックのスーパーバイザーという立場)ならと採用が決定。

 コネ作りのつもりだったので、その条件で2年間働くことにしました。

 ですので、松田夫妻には感謝の念を持っていましたし、夫妻は夫妻で、紹介した責任感もあったと思います。

 その前提の上でこれからの話を聞いて下さい。


 ①航空券問題

 労働ビザ取得のため一旦帰国し、手続きをしていました。

 何か話が通じてなくない? と最初に思ったのが航空券を購入する時でした。

 Z航空会社の1年オープン券を買うよう松田奥様に言われたのです。

 勧める理由は、帰国便をキャンセルすれば払い戻しがあるから(2,3万程)、です。

 

 しかしながら1年オープン券は当時13万円程です。

 他の航空会社の1ヶ月オープンにすれば7万円程です。

 でもこの場合、帰国便をキャンセルしても払い戻しはありません。

 契約期間は2年ですし、1年オープンを買おうが、キャンセルすることに変わりはありません。

 たとえ払い戻しが3万円あっても、他の航空会社の1ヵ月オープンの方が断然お得です。

 ですので、次の電話の機会にそう伝えました。


 「いいからZを買ってちょうだい!」


 こんな風に言い切られました。

 頭にハテナが浮かびます。

 しかし、そこまで言い切るのですから、Zの航空券でないと問題があるのか? と推測し、言われた通りZ社の1年オープンを買いました。

 問題があるのかと思ったのは、K国はビザ取得者の入国時、帰国便の航空券がないと不可とあったからです。

 2年間の労働ビザなのに、1ヶ月の航空券では問題があるのかもな、と思ったのです。


 そして渡航です。

 入国に問題はありませんでした。

 ご夫婦に日本のお土産を持って挨拶に伺いましたところ、航空券に関して全く言及がありません。

 自分としては、Zで何の問題もなかったでしょ?

 とか聞かれると思っていたのですが……。


 ちなみにオーナーの農園は約8ヘクタール(8万平方メートル、約24700坪)あり、同じ敷地内に松田夫妻の観光農園1ヘクタールがあります。

 観光農園に隣接する松田夫妻の家と我が方の宿舎は約100メートル程離れています。


 後日、松田夫妻の観光農園の方で雇われた、日本人、工藤さんと仲良くなり、話をする機会がありました。

 まあ、30代同士であるし、日本語で通じるしということでしょうか。

 その中で、工藤さんも渡航時にZを勧められていながら、別の選択をした(自分が考えたように、1ヶ月のものを買って帰りを捨てた)事を知りました。

 それで入国には何の問題もなかったようで、松田奥様の勧めは何だったのか? という話になりました。


 工藤さんの場合、違う航空券を買ったことを松田奥様に言うと、「どうして言う通りにしないの!」

 と怒られたそうです。

 それもあり、こちらにとばっちりが来たということでしょうか?

 問題なく入国できるなら安い方でいいじゃないですか。

 なぜ理解してもらえないのでしょう?




 ②オーナーの変節

 月給350ドルでは食費と年金と国保(日本の分です)で消えるな、とは思いましたが、信頼を得て土地の紹介もしくは土地を持ってる他の地主を! と考えていたので文句はありません。

 渡航後、オーナーにも挨拶に伺いました。


 よく来たね、もそこそこに、やっぱり月給は250ドル。

 スーパーバイザーとしてではなく、普通の労働者として働いてね、と言われました。

 同僚のN国人労働者は250ドルなので、彼らと同じ待遇ということです。


 もともとコネ作りと思っていたので、初めから250ドルでも文句はなかったのです。

 が、そのやり方はないだろと。

 待遇を変えるのなら渡航する前に知らせろよと。

 それでもいいなら来てね、だろと。

 どうせ行きましたし。


 私が来る直前に急に考えが変わり、知らせる時間がなかったのならまだ許せます。

 でも、同僚のジョンソン夫妻と話しているうちに、それが計画的な犯行? だと確信しました。

 なぜなら、ジョンソン夫妻もそうであったからです。

 彼らは出稼ぎに来て12年(!)になるのですが、全く同じことを経験していたのです。


 彼らの場合は、契約時が250ドルでした。

 それが来てみたら、同じような感じで150ドルです。

 その代わりに食費、衣料費はタダ、だったようです。

 だったら他の国に働きに行く! 

 と考えたそうですが、契約の途中で帰るとなるとペナルティがあり、それも出来ません。

 彼らの言葉ですと、それでも貯金ができたから結果としてはよかったそうです。


 リーマンショック辺りに契約通りの250ドルになった(食費補助はなくなった)そうですが、軒並み物価が上がったこともあって逆に苦しくなったそうです。

 その後は何故か12年も長居することになったのを自分達でも不思議がっておりましたが……。


 それはともかく、前科者です。

 そういうことをする人なのね、と心に刻むことになりました。


 契約の途中、駐日大使にご就任(病院の元院長様だったりして名士です)なされ、農園に来られることが数ヶ月に一度というようになり、労働者一同喜んだものです。




 ③ジョンソン夫妻の契約更新時の騒動

 気づかず漆科の木に鉈を振るってしまい、ひどいかぶれと高熱に1週間近く苦しめられたり、腿の付け根のリンパ腺が腫れ上がったりしながらも数ヶ月が経過し、ジョンソン夫妻の契約の更新時期(ジョンソン奥が7月、ジョンソン夫が8月)がやって来ました。


 彼らとは同じ宿舎(個室ではあります)です。

 同じ食卓で飯を食べ、それぞれのおかずをあげたりもらったりしていました。

 ジョンソン夫婦は2人で、ニックと私はそれぞれ食事を作っていたのですが、そんな関係ですので、ここに来た経緯とか、農園での過去の出来事やオーナーへの不満、それぞれの夢など毎日のように話し合っていました。


 そんな中、彼らの契約内容の一つに、2年の契約期間を無事勤め終わると、雇用主負担で一時帰国できる、というものがあることを知りました(あくまで彼らの契約内容)。

 過去何回か帰国し、お土産代まで貰ったそうです。

 今回の更新時は3ヶ月くらい長期休暇をもらい、そのまま帰ってこない可能性も含め今後のことを母国で考えたい、と言っていました。

 私がさんざん国に帰って自分の土地を耕せ、と唆したからでもあります。

 何せ彼らの親族が、使っていない広い土地を持っていると言っていましたからね。


 オーナーは日本でしたのでオーナーの息子さんに話し、了承を得ていました。

 正直、彼らが抜けた後の農園の作業を考えると憂鬱でした。

 7ヘクタール全てが畑ではありません。

 ただの草むら、林もあります。

 それでも残った2人で回すのは非常に困難です。


 農園には豚舎もあり、豚が10頭近くいました。

 その作業だけでニックは半日、時として一日潰れます。

 実質一人で農園を回すのは不可能です。

 先のことを考えると頭痛を通り越して思考停止状態でしたが、帰国が近づき、数年ぶりに会える子供達(6歳女、3歳男)のことを嬉しそうに話す彼らを見ていると、二度と帰ってこない決定をすることを望みました。

 母国に帰れば、お金に苦労する生活が待っていることは明らかでしたが……。


 帰国を数週間後に控えた8月9日、大使館の休みで帰国していたオーナーが農園にやって来ていました。

 このオーナーは一人農園を訪れ、人知れず見て周り、次の作業の指示をしていくのです。

 そんなオーナーは農園を見て回り、激怒です。

 日本に発つ前に言い残しておいた作業内容が全く実行されていない!! と。

 「Nothing show me!」だったと思います。

 そのため、言われたこともやらない、できない人間は要らない。

 長期休暇なんぞやらん。

 休みが欲しいなら更新せずにこのまま帰国しろ。

 となってしまいました。


 言い訳でも弁解でもないですが、このオーナーの指示は無茶苦茶でした。

 一日24時間、週7日働け!

 と言っているようなものだったからです。

 口癖が「日が昇る前に働き始め、日が沈んだら作業を終える」でしたので、意識がそうなのでしょうね。

 赤道に近いので日の出から日の入りまでは年間を通してあまり変化はなく、ほぼ12時間です。

 お昼休みは12時から3時まで。

 熱帯の炎天下で真昼の作業は死にます。

 

 私は自分の農園を持ちたいと思っていたのでなるべく効率を考えていましたし、さぼるようなことはポリシーに反するのでしません(あくまで自己申告です)。

 ジョンソン夫妻は日本人から見ても働き者で、毎日それこそ暗くなるまで作業していました。

 ニックに関しましては、半日は豚舎担当ということもあり、手を抜きがちではありましたが……。


 敷地全部が耕地ではないですが、仮に2ヘクタールを使っているとします。

 水田といった作目ならば4人でもこなせるでしょう。

 でも、家畜はいるわ、果樹も野菜もある様な作目の2ヘクタールでは、4人で回すのは厳しいです。

 しかも、耕地ではない敷地も、藪と化さないように定期的な草刈が欠かせません。

 

 植え付けとか畑の維持管理なんてそんなに時間もかからないのですが、収穫調整がやっかいなのです。

 植え付け面積を増やせという圧力を常に掛けてきていたオーナーは、4人でさばける収穫量のことなど考えたこともないのでしょうね。

 日本の農家でも、通常時は人を必要としていなくても、収穫時には臨時で人を雇い入れます。

 でないと対応しきれないからです。

 発展途上国であるN国の稲作農家でも、田植えと収穫時には手伝いを頼みます。

 そんなものなのです。


 オーナーが日本に赴任する前の農園訪問時は、私が時間が足りないと何度説明しても通じませんでした。

 さぼっている、頭を使っていない、やり方が悪いと繰り返すのみでした。


 農園では週に2度から3度、収穫物の出荷に行っていたのですが、出荷日の前日は一苦労です。

 収穫した野菜は水洗いしますが、野菜には大根、ショウガなど根野菜がありました。

 畑の土が粘土質であったので、収穫物は念入りに洗わないと土がとれません。

 市場への出荷ではなくホテルのレストラン、小売店への出荷なので小分け包装も必要です。

 どうしても夜までかかってしまいます。

 そんなサービス残業を週に3度もして出荷準備をしているにも関わらず、そこまでしても農園の通常作業は間に合いませんでした。

 我々が手を抜いていたわけではなかったと思います。


 さて、激怒したオーナーです。

 もう更新する必要はない、とまで言いました。

 そう言われたジョンソン夫妻も、ならば仕方ない。

 自分達に出来ることを精一杯やってそれを非難されるのなら帰ろう、となりました。

 当然ですよね?


 ようやくここで松田夫妻、特に松田奥様の登場です。

 ジョンソン夫妻が帰国することになったことをどこで聞きつけたのか、こちらの宿舎までやって来てジョンソン夫妻と話し合いました。


 「どうして帰りたいなんて言うの? お願いだからここにいて頂戴!」

 「ここにいたいのは山々だけれども……ごにょごにょ」


 英語にすれば「I want to stay here、but……」です。


 「わかったわ。私からオーナーにお願いしてあげる!」

 「え?」


 勘違いした松田奥様の暴走はオーナーへの説得となり、ジョンソン夫妻は契約を更新することができ、母国に帰らなくてもよくなりました。

 2年の契約終了後にもらえるはずの休暇を失ったまま。


 松田奥様はオーナーの決心を覆したと意気揚々、すぐに松田夫妻がジョンソン夫妻に報告に来ました。

 たまたまその場に私もいて、余計な事を口走った為に騒動発生です。


 「聞いて頂戴! あなた達は帰らなくても良くなったわよ! 私がオーナーに掛け合ってあげたから!」

 「え?」


 松田夫によるオーナーの意向の説明が始まります。

 直近3ヶ月の収支が赤字であること。

 フルーツ中心にしていき、野菜は少しでいいこと。

 もっと売り上げを増やすよう努力して欲しいこと。

 等々を一方的に伝え、帰っていきました。


 ジョンソン夫妻も作業に戻り、まだいた松田奥様に私が一言言ってしまいました。


 「彼らは帰りたいのだと思いますけど。」


 さて、松田奥様の激怒です。


 「どうしてそういうことを言うの?! 彼らがここに居たいと言ったから私がオーナーに掛け合って居ることができるようにしてあげたのに!」

 「いえ、子供達に会いたいんだと思いますけど。」

 「何を知った風なことを言ってるの! 私は彼らの本音を聞いたのよ!」

 「はあ、そうですか……。すみません(と言ったかどうかは覚えておりません)。」


 その後も怒りは治まらなかったようですが、他に言うこともないし、私は作業に戻りました。


 騒動というより私が余計なことを言っただけですね。

 彼らの本音を聞いた! という根拠は、その日の朝の1時間程度の対談だけのはずです。

 社交辞令としての、ここに居たいのは山々だけれども、を馬鹿正直に受け取り、彼らの本音を聞いたわ!

 と思ったようです。

 彼らの言ったbutを聞き逃していたのでしょうか?


 前に言いましたが、私は数ヶ月間3食を同じ食卓で食べています。

 双方母国語ではない英語で意思疎通をしています。

 私が過ごした数ヶ月の間に、ジョンソン夫妻とニック、松田夫妻が食事を共にしたことは見たことがありません。

 私が松田夫妻に何度か食事に呼ばれたことがあるのに、です。

 私が来る前には、何度か外のレストランに一緒に食べに行ったことがあると言ってましたが、少なくとも私が来てからはありませんでした。


 もし仮に、週に1度は松田夫妻が彼らと共に食事をしていたとしても、互いに近い年齢で同じ給与、同じ作業、同じ宿舎に泊まって毎日一緒に食事をしている人間がいるのですよ?

 私の方が、少なくとも松田奥様よりは彼らの本音を知っていると考えるのが、普通なのではないでしょうか。

 とはいえ、私だって彼らの本音を知っているとは言いません。

 母語でない英語で本音を語るのは、私にとっても彼らにとっても困難だからです。

 普通の会話でも、英語で何て言うのかわからない、という経験は双方にあります。

 それすらも想像できないのでしょうか?

 なぜに、彼らの本音を聞いたのよ! と言い切れるのか、その自信が不思議です。




 ④オーナーの作業指示書を巡る騒動

 オーナーの抜き打ちの視察? から端を発する農園の運営管理への問題意識は、松田夫妻に農園のマネージャーを任せることによって一応の決着をみました。

 オーナーが日本に帰って程なく、松田夫妻からミーティングを開くことを聞かされました。


 「オーナーからこの農園の管理を任された。我々の命令はオーナーの命令だと思ってくれ。」


 松田夫が宣言します。続けて、


 「昨夜オーナーから電話があり、農園に関する指示を受け取った。

(1)草抜き2時間(2)果樹の手入れ1時間(3)果樹への堆肥やり1時間を毎日全員がやれ。質問は?」


 3つの指示は合計で4時間です。

 豚舎担当のニックには明らかに無理な作業内容です。

 でも、ニックが何も言わないので、私がつい言ってしまいました。


 「ニックは豚の世話があるので無理ではないですか? ニックに適用する必要はないと思いますが……。」


 補足しておくと、生き物の世話は毎日必要です。

 私が来てすぐの頃は、日曜も変わらず世話をし、それが終わって(お昼過ぎ)から休みでした。

 それではあんまりなので、私が日曜だけ豚の世話をし、私は平日に休みをもらっていました。

 ですので、数ヶ月ではありますが、豚の世話がどんなものかはわかっています。


 さらっとその農園の豚の世話を説明します。

 まず掃除

 ・糞の片付け(堆肥用)

 ・床の清掃(ホースで洗いつつブラシがけ)

 ・豚の体の水洗い(糞の上に寝たりするので汚れている)


 エサやり

 ・エサ運び(20kgのバケツ8つを手運搬。約10m)

 ・エサやり


 エサ作り

 ・次の日のエサを準備しておく為、残飯、バナナの茎をドラム缶(2本)に入れ、煮沸消毒


 順調にドラム缶の水(3分の1くらい)を沸かすことができた場合は、ここまでで大体半日です。

 湿気の多い日、雨の日はこの煮沸がやっかいです。

 小屋とカマドの作りが悪いため、湿気が高いと薪が中々燃えません。

 順調に燃えたとしても火の番、夕方のエサやりも待っています。

 でも、それで終わりではありません。

 在庫を見てバナナの茎を切ってこなければいけません。

 また、薪が少なければ集めなければなりません。

 薪を集めるといっても、予め伐採してあった倒木をチェンソーで短くし、集めます。

 時期を見て立ち木の伐採もしないといけません。

 危険ですし、結構ハードな作業です。

 チェンソーを使った作業は彼がやってくれていましたが、薪集め自体は私もやっています。

 一輪車で農園内を歩き、輪切りにして乾かした木を集めるのです。

 重いですし、結構ハードです。


 長くなりました、すみません。

 そんな作業を日曜だけですが数ヶ月こなしてきたわけです。

 それを踏まえてニックができるわけないと判断したのです。


 そんな私の言葉に対し、


 「何を言っているんだ貴様は! オーナーの命令だ! 黙ってやればいいんだ! お前は何様のつもりだ! 黙れ!!」

 「平日は対応できても、私は日曜に豚の世話をしています。少なくとも日曜日は、私には無理です(毎日なので当然日曜も適用でしょうし)。」

 「それはお前の都合だろ!」

 「あなたはあなたのできることをやって下さい!」


 いや、だからさ、次の日のエサ作りを仮に午前中までに終わらせたってさ、夕方のエサやりがある時点で時間的に無理じゃないですか。

 薪でも集めだしたら絶対に無理。

 時間的に無理なのにさ、どうして3つともさせようとするかな。  

 どれか削ればいいだけでしょ?

 優先順位を決めればいいだけじゃないですか、と言いたかったのです。

 まるで言えてませんが。


 毎日全員が必ず実行! と言ってる端からあなたはあなたのできることをやればいい?

 とか思っていたら、私のせいでニックにとばっちりが。


 「ニック、オーナーの命令を実行できるか?」

 「Yes、sir」


 おいおいニックよ、できるわけないのは君が一番わかってるだろ?

 と思い、ミーティングが終わって速攻でニックに本当に出来ると思うのか聞いたら、出来るわけない、と答えます。

 じゃあ何でそう答えないの? と聞いたら、

 あそこで出来ないと答えたら松田夫が高血圧で倒れると思ったから、ですと。

 何かそういう症状が過去にもあったらしいです。

 いや、まあ、優しいですね。


 とはいえ、喜んだのは松田夫妻。

 鬼の首でもとって来たように、


 「ほらみろ! ニックはできると言っているじゃないか!」

 「何のつもりか知らないけれど、でしゃばったことは止めてちょうだい!」

 「ジョンソン達が帰ったら5年は来れない(国の規則。抜け道あり)ことを知っているのか! ジョンソン達が帰ったらこの農園は維持できない(それには全面的に賛成)だろうが! だからオーナーに掛け合ってここに居られるようにした(でも、それはアンタの都合)んだ! お前が何を知っているというんだ! いい加減にしろ!!」

 「ただの労働者が何を言っているの! スーパーバイザーにでもなったつもりなの?」


 こんな感じでした。


 言いたいことの10%くらいは言えましたが、正直膝は笑ってました。

 昔から、興奮している人を前にすると、恐怖なのか頭に血が上るのか、単に足が竦むのか膝がガクガクしてきます。

 まるっきりチキンハートですね。

 

 で、その騒動の顛末です。

 オーナーの指示の発表は朝一でしたが、その日のうちに無理とみんな判断しました。

 一番のネックが堆肥散布でした。

 もともとが貧弱な堆肥製造力しかない農園です。

 皆が毎日1時間堆肥散布に勤しむと、2,3日で撒ける堆肥が尽きてしまいます。


 できるわけないよね。

 草抜きと果樹の手入れって被ってない?

 オーナーが好き勝手なことを言ってくるのは昔からだから。

 好きに言わせておけばいい。

 できたか確認なんてしないから。

 等々。


 言ってることはその通りなんだろうけど、それじゃあ不幸な関係のままではないかと。

 時間的に無理な作業を命じられても「Yes,sir!」

 出来るわけないのを自分でわかっていながら、出来るのか聞かれて「Yes,sir!」

 命令した方も、出来るか聞かれて出来ると言われたら、出来るんだと思うでしょうと。

 なのに、出来ていなかったら何をやってんだ! となるのではないかと。


 それは皆よくわかっているけど、それが通じないのがこのオーナーと松田夫妻だったようです。

 そもそも労働者の意見を聞くことがない。

 ミーティングを開いても自分が喋るのみ。

 たまに意見を求めてきても、否定的なものは認めない。

 できないのは労働者の怠慢、無能なだけと思っている。


 そんな人間の下で12年も働いていたら、反論なんてしようと思わないですね。

 彼らの事情心情を想像することもないオーナーと松田夫妻が哀れです。

 松田夫はその日の午後、怒鳴って悪かったと言って来ましたが……。


 怒鳴ったことを謝られても、発言の訂正はないのですから意味はありません。

 事態は何も変わりません。


 数週間後、松田夫妻が再度ミーティングを開きました。


 「オーナーの指示を実行しているか?」


 全員していますと回答。

 最後に私の「無理です」はスルーされました。

 何が無理か、どう無理なのかを聞き、不具合を解消していくのがマネージャーじゃないんですか?


 「フルーツ・ファームにしていきたいと思っている。野菜は必要最低限でいい。パパイヤもバナナもパイナップルもどんどん増やしていってくれ。」


 だからさ、何で労働者に丸投げなんだよ。

 農園のマネージャーなんでしょ、あなたは。

 野菜は必要最低限でいいって、その最低限って何キロですか?

 植える種類は? その時期は? 面積は? 定植数は? それに合わせた施肥設計は?

 果物をどんどん増やせ?

 どんどんって何株ですか?

 数字の伴わない指示なんて、何の意味も無いんじゃないですか?

 1ヵ月に1株ずつ増やしても年12株。

 どんどんかは知らんけど増えてはいますよね?

 とか脳内で反論していたら、私だけ残るよう言われ、ミーティングは解散。


 なんだよ、なぜ無理なのか聞く気になったの? とか思っていたら大間違い。

 松田夫の言葉は、いつもいつも偉そうなことを言っているがお前が何をやったのか。

 来てから数ヶ月経ったが何も取れていないじゃないか。

 お前がやることをしっかりやっていれば今頃バナナでもパイナップルでももっと多く取れている。

 偉そうなことを言う前にやるべきことをやれ!

 でした。


 私の力不足は否定しません。

 が、やることをやっていれば今頃収穫物がたわわというのは流石にちょっと……。

 数ヶ月でたわわに果樹が実る方が恐ろしいですよね。


 それはそうと、農園の作物の生育制限要因は、肥料不足が一番だと思っていました。

 皆それをわかっていましたが、オーナーが無駄にオーガニックに拘っていたので肥料を買ってくれません。

 肥料もないのに、果樹にしろ野菜にしろ、すくすくと育つわけがないではありませんか。

 それを人のせいにしてくれて、全く勝手なものです。

 豚10頭の糞では堆肥を作っても量が少ないのです。

 原因は常に外側かよ……。

 と最早何も言う気になりませんでした。




 ⑤誕生日、お米騒動

 他にも腹の立つ個々の出来事はありましたが省きます。

 そんなこんなで年末に近づき、私の誕生日がやってきました。

 ありがた迷惑なことに松田夫妻に夕食に呼ばれ、しゃぶしゃぶをご馳走になりました。


 食事中、K国のお米の値段の話になりました。


 「ここだとお米は安い。日本は高いよな。」

 「日本のお米は高くありませんよ。それに比べてここのお米は凄く高いです」

 「はぁ?」

 「日本のお米は価格自体は高いですが、平均給与を考えれば非常に安いです。一方、ここでは私の給与250ドルではお米代がキツイです」


 その意見には珍しく松田奥様も同意し「そうねぇ」と言ってました。


 「誰もそんなこと聞いてないだろ! 日本からの年金生活者にとっての話をしてるんだ!」

 「はあ、そうですか。」


 いや、年金生活者の懐事情なんて知らんがな。

 この時に、為替のことを話せば論破できたのでしょうか?

 日本の年金で海外で生活する人は、1ドルが100円から50円になるのと、1ドルが100円が200円になるのではそれこそ天と地ほども変わります。

 ですが現地通貨で給与を貰って暮らす私には、為替の変動はあまり関係ありません。

 日本から輸入されているお米を買うなら話は変わりますが、私が買っていたのはカリフォルニア米です。

 為替で、高いか安いか感じるだけじゃないのでしょうか?


 ちなみに、当時のお米の価格は、タイ米が9kgで10ドルちょっとだったと思います。

 カリフォルニア米はもうちょっと高かった記憶があります。

 月に15kgくらいは消費していたので、15ドル程度だったとしても、250ドルの15ドルです。

 体感価格は、25万円の月給の人で、お米代が月に15000円ですよ?

 お米15kgって、日本だと普通米で3000円くらいじゃないですか?

 日本のお米は安い!

 あくまで貰う給料で考えれば。




 ⑥新年、赤飯、お犬様騒動

 畑で作業をしていると、松田奥様のニックを呼ぶ声が聞こえてきました。

 年明け早々可哀想に……。

 と思っていたら、ニックは聞こえない振りをして他の場所に移ってしまいました。

 後で聞いたら作業の邪魔をされたくなかった、と言っていたのでわざとです。

 その被害がこちらに来たのでいい迷惑です。


 「新年だから赤飯を炊いたの。日本の習慣を説明して皆で食べて頂戴。」

 「ありがとうございます。」

 「それから、ポチ(ジョンソン夫妻の飼っていた犬)のことなんだけど。」

 「はあ……」


 嫌な予感が的中しました。


 松田奥様の主張の要約

・ジョンソン達にポチを繋いで飼うよう何度も言っているが実行されない。

・アナタ(私の事)がポチのためにドッグフードを買って(週に缶詰1個程度)あげており、懐いていると聞いた。それならもうアナタの犬みたいなもの。

・アナタが責任を持って繋ぎ、散歩させろ。


 繋いで欲しい理由

・3匹のうちのワンちゃん達を散歩させている時にポチに出会うと、うちのワンちゃん達が興奮して散歩している私が引きずられてしまう。

・放し飼いだと畑に悪戯する。


 同じ様な事を、前に何度かジョンソン夫妻に言っていたのは知っていました。


 私の反論

・3匹も一度に散歩するのが間違っているのではないか。

・たとえポチを繋いだところで、野良猫、野鶏といった犬が興奮する要因はある。

・散歩しろというが日の出から日の入りまで作業があって時間がない。

・外側を柵で囲んだ8ヘクタールもの敷地の中で、そもそも繋ぐ必要性がわからない。

・畑に悪戯するような犬は放さない。ポチは悪戯をしないので問題ない。

・そもそも私の犬ではない。


 松田奥様の興奮

・せっかく赤飯を作ってあげているのにこちらのお願いも聞くことができないのか、何とか。

・繋げないというのなら宿舎の周りでだけ(畑は松田奥様の散歩道である)放せ。


 私の次善策

・散歩する時間を決めて欲しい。その時は繋ぐようにする。


 そんなことを言っていたら松田夫登場

・犬を繋ぐのは常識だ。そんなことも知らないのか。

・繋がない人間に犬を飼う資格は無い。


 私

・ジョンソン達の故郷でも、私の知っている他の2カ国(東南アジア)でも犬を繋ぐ人間はいない。

・常識云々は日本他先進国のものでは? 世界の大勢(途上国)は違う。

・この国でも政府は繋ぐよう言っているようだが国民はほとんど繋いでいない。

・私の実家でも犬は敷地と家の中を自由に走り回っている。最近は繋がないのが常識。

・農園では犬は獣害予防(野鶏、ネズミ)の面もある。だから繋がない。

・飼い犬のコントロールができない奥さんが一番の原因。飼い犬のコントロールも出来ない人間に散歩する資格はない。

・1匹ずつ散歩すればいいだけではないのか。


 「お前は変わってるな……。」

 「変わった人ね……。」


 私が変わっているのは認めますが、こんなところに10数年暮らしている松田夫妻には言われたくはなかったです。

 因みに松田夫妻は、3匹の犬を5m四方の檻に放して飼っていました。

 繋いで飼うのが常識じゃなかったんですかね?

 その檻の巨大版が8ヘクの敷地を囲う柵ではないんですか?




 ⑦ついに松田奥様を泣かせてしまい、帰国を決意

 松田奥様に言われたことをジョンソン夫妻、ニックに伝えました。

 何度も言われているし、繋ぐのは可哀想なので、松田奥様の言った妥協案として、午前中はニックが豚の世話をしつつポチを見ていることに。

 そして数日が経ち、K国滞在中の最大の山場がやってきます。


 それは畑で作業している時でした。

 以前と変わらずポチが悠々と畑の中の道を歩いているのです。

 今にして思えば、ポチは我々の仕事ぶりを見て回っていたのではないかと思います。

 丸々と太り、不健康な体をしていましたが、賢く、性格も穏やかで、とても良い子でした。

 太りすぎて走るのは苦手でしたが、人に吠え掛かるなんて事の無い、大人しい犬でした。

 こちらを見ればギャンギャン吠え立てる松田夫妻の3匹の犬達とは大違いでした。

 そんな賢いポチです。

 一人一人の作業している所にやって来ていたようですし、一箇所に留まっているのは短時間でしたし、監督をしているつもりだったのでしょう。


 「よう、ポチ!」


 私が呼びかけても一瞥するだけ。

 「作業ご苦労さん」くらいなものでしょうか?

 オーナーもマネージャーも、我々の作業の進展具合などを見て回ることがないから、代わりにやってくれていたのかもしれません。 

 それはそれとして、今日も重役出勤のポチ。

 ま、そりゃニックにも作業があるし、ずっとは見てられないなと思いました。


 とそこに、間が悪いのかタイミングばっちりなのか、松田奥様が3匹の愛犬と共にやってくるのが目の端に映ります。

 あ、まずい。どうしよう?

 と思っているうちに、向こうの3匹がポチに気づいてしまいました。


 「ポチをどこかに連れて行って!」


 松田奥様が叫びます。

 しかし、そう言うのがやっとで、3匹に引きずられこけてしまい、うち、2匹の手綱を放していました。

 ポチに走り寄る2匹!

 ポチは避妊手術を受けたメスです。

 松田夫妻の犬は、去勢されているオス3匹です。

 

 どうせ喧嘩なんてしないんじゃねーの?

 3匹はポチが羨ましいのか、メスだから興奮していただけじゃないの?

 喧嘩になるならその前(その以前から出会えば吠えるだけ)に、威嚇が入るんじゃねーの?


 と思っていたので、私は危機感ゼロでした。

 案の定、2匹はポチの匂いを嗅ごうとしているだけで、ポチはそれを嫌がる程度の状態でした。


 とはいえ、それは私の私見であり、松田奥にとってはそうではありません。

 松田奥様は残った1匹を両腕に抱きかかえ、地面に蹲っています。


 「放れた2匹を連れて来て!」

 「馴れてもいない犬なんて捕まえられません。その犬を持っているので奥さんが捕まえて下さい。」


 と松田奥様が抱えた犬に手を伸ばす私。


 「この子に触らないで!!」


 いや、別に犬に触る気はないし。手綱と首輪を持っていればそれでいいじゃないですかね?


 後日、ことのあらましを工藤さんに話すと、それはその犬が人を噛む癖があるからだと教えてくれました。

 人を噛む癖のある犬に口輪?もさせず、犬が興奮しても制御できないのに、あろう事か3匹を一緒に散歩させようとする自分の非常識は棚に上げ、ポチを敷地内に放しているだけの我々を、常識が無い呼ばわりかよ?

 とこれはさすがに怒りがわきました。


 松田奥様は蹲ったまま


 「ここに来ることができるようにしてあげたのに! 誕生日にはお祝いもしてあげたのに! こんな目に遭わせるなんて!!」


 と涙を流しながら呟いていました。


 「ポチを繋いでと言ったでしょう!」

 「繋ぐのはポチが運動できないし可哀想なので、宿舎の周りでだけ放すことにしました。」

 「ここにいるじゃない!」

 「ニックが見ることになってますが(作業があるし、完全には見れないですよね)……。」

 「なんで人のせいにしているの! 私はアナタに頼んだでしょう! アナタが責任を持ってきちんとやりなさい!」

 「ポチは私の犬ではありません。」


 というやり取りをしていると、騒ぎを聞きつけたのかニックがやって来ました。


 「ニック! ポチを連れて行って!」

 「Yes,mam」

 「ニック! この子(私のことです)がアナタの責任と言ってるけど、アナタの責任ではないわ!」

 「(すまんね、ニック)」


 ニックがポチを連れて行ったので2匹の犬も落ち着いたのか、松田奥様の下に戻っていきました。

 それで松田奥も落ち着いたのか、立ち上がり、帰っていきました。


 「何なのこの子は……。自分の責任を人のせいにして……」

 「あれだけ良くしてあげたのに、恩を仇で返すなんて……」


 自分の母より上の年齢の人間に、泥だらけで涙まで流されるとさすがに可哀想になり、以後ポチを繋ぎ、作業を30分早く切り上げ、毎日散歩に連れて行くことにしました。

 繋いでいれば何の文句もないだろうと、散歩中の松田奥様と畑でばったり!

 という、結局何が問題なのかを考えてもらう嫌がらせも考えましたが、これ以上の揉め事は勘弁だったので止めておきました。

 この騒動の後、松田夫が何か言ってくるかと身構えていたら、日本に帰国中ということで何もありませんでした。

 ちょっと拍子抜けでした。


 ここまでくるとこの農園でもう一年やっていく自信を失い、契約は2年でしたが、途中で帰国することにしました。

 そもそもコネ作りのためでしたが、このオーナーとコネがあると何かとまずいんじゃないか?

 と考えるようになり、コネも諦めました。


 オーナーの息子さんには、松田夫妻がマネージャーでは耐えられないということは伝え、守れなくてすまない、と言ってもらえました。

 オーナーも松田夫妻も頑固で、こちらの言うことを一言も聞き入れない、とこぼされていました。


 そんな感じで1年間の農園暮らしが終わりです。


 その他むかつきを覚えた出来事

 ①作物を勝手に収穫する松田夫妻

 折角育てた作物を、勝手に収穫されて何も感じない者はいません。

 マネージャーだから、好きにしていい?

 収穫だって、計画ってものがあるのです。


 ②クリスマス・イブ、元旦共々どしゃ降りの中の作業

 これはオーナーの息子さんです。

 偶々クリスマス・イブと元旦の日に、野菜の出荷が重なりました。

 土砂降りの雨の中、合羽を着て調整します。

 屋根のついた作業スペースがないのです。

 惨めな気分になりましたね。


 ③松田奥様の気ままな営業活動

 オーナーからの命題、売り上げアップ!

 その意向を真剣に受け止め、野菜の配達先を増やそうと営業活動を頑張る松田奥様。

 正直迷惑以外の何者でもありませんでした。


 ④松田夫の有害な作業指導

 ある時、松田夫にパパイヤの株周りの除草を言いつけられました。

 こうやれ、と作業の見本つきで。

 平鍬で株の周りをガツンガツン掘って草を取ります。

 それには目が点でした。

 表層付近の細根は切断されてるな、止めてくれやと思いつつその指導を眺めてました。

 普通、表面の草を削り取るくらいに留めておくべき作業のはず。

 それを、土起こしをするくらいのレベルでやってくれました。

 何を言っても聞いてはくれないと思い、黙って見ていましたが、内心はパパイヤに黙祷です。

 せっかく育ってきたパパイヤが枯れてしまうかもなぁ、可哀想に……です。


 1本で十分理解できるのに、調子付いたのか他の木もガッツンガッツンやってくれてました。

 その作業の様子を見ていた仲間も唖然です。

 大木になった木の周りなら、少々何をしようが影響はありません。

 でも、背丈も越えていないパパイヤですので、ありえないだろ? と皆も思ったそうです。


 以上、K国での奇妙な体験でした。

 言葉がわかるだけに、言葉が通じないのはもどかしいものです。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 体験話は面白いですねえ~ 南の他国という場所も日常と違い興味深い。 まあ農業で楽に生活出来ないのは国内も同じでしょうね。 油断できない日常の面白さが、とてもよろしいです。 共感度100%。…
2019/03/11 01:56 退会済み
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