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しんだひと

作者: すみっこ

かなり物騒な題名ですが、涙モノを意識して書きました。

感想くれると嬉しいです

12月16日。

俺は死んだ。







事故死だった。

目の前にトラックが見えて、気付いたらこうだ。

無重力空間にいるかのように体が軽く、肌の色がなんとなく薄い気がする。

これが幽霊ってやつなのだろうか。足はあるけど。


「なにが天国だよ……」


辺りを見渡しても、お迎えらしきものが来る気配も無い。

見慣れた町の景色だけは変わらず、でも何だか別の世界のようだった。

まあ、どうせ人間の迷信だ。雲の上とかふざけんなっつうの。



「何してるの?」



ふわりとした声が聞こえ横を向くと、優しそうな女性がいた。

バレッタを留めていて髪に軽くウェーブがかかっている。

足が地面に付いていない。見下ろされている感じだ。

肌もかなり透けて、向こうの空が映っていた。


「えっと……」

「あ。君もしかして今日ご臨終の人でしょ?全然薄くないもんね。」

さびれてシャッターが閉まった店の屋根に腰掛けると、足を組む。



「私はすみれ。ねえ、しんだひとの事、教えてあげようか?」




「_____へえ、じゃあ本当についさっきなんだ。」

「すみれさんは?」

「私は丁度、一週間前くらいかな。肺炎で。」

悲しんでいる様子もなく、淡々とそう言って変わらずニコニコしている。

そろそろ首が痛くなってコキコキやっていたら「ごめんね」と唐突に言われた。


「本当は隣に座ってあげたいんだけど、下りられないの。」


ひとは死んだら魂になる。

最初は飴一個分の重さになって体から離れるけど、日が経つにつれ 段々と空の方に

引っ張られて成仏する、という。


「成仏のいく先って、世に言う天国ですか?」

「さあ?輪廻の一部になる事は確かなんだけどね。………でも、」


私、本当の地獄って生きている事なんじゃないかと思う_______


ボソリとすみれさんがそう呟いた言葉を聞いて、なんとなく空を見上げた。

さっきまで太陽がてっぺんにあったのに、西に少しだけ傾いている。

成仏かぁ……死ぬのに気が囚われていて全然考えてなかった。


「生まれ変わったら、俺……何になるんですかね。」

「私はもう人間はいいや。___鳥、になって、飛んでみるとか、ありかも。」

雀たちを見ながらそう言って自嘲的な笑みを浮かべる。

確かに。

もしかしたら植物になって思考も持たずに生きるのも…あり、かもしれない。



「死ぬのは本当は恐くないんだよ。見えなくなるだけなの。私は此処にいるの。」



よいしょっと立ち上がって時計を眺めてから、何処へとも言わずに「行こう」と

手を差し出した。


    *


葬式。

喪服に身を包んだ人達がハンカチを目に押し当てて線香を添えている。

写真には、すみれさん。

棺桶の中を見て思わず肩がこわばった。



すみれさんは、今日、そらになる。



話していて気持ちが決まったらしい。

自分の死に顔なんて見たくないと思っていたらしいけど やっぱり皆と会いたいし。と

笑って辺りを見渡した。


親に、会社の同僚に、元カレに、高校の時の同級生に、幼なじみ。

「私って結構愛されてるんだなあ」と嬉しそうに言っていた。

失って大切なものだと気付くのは、両方のようだ。


すみれさんは「ごめん、さっきの撤回」と泣きそうになりながら呟く。

「やっぱり生きている事は幸せだよ。本当に。」

「……ですね。」

コクンと頭が重さに耐えきれずに下がった。

気付いても もう手遅れだけど。


「____ねえ。」

「はい?」

「もうちょっと生きたかったな、とか、思ってたりする?」

「………多少は。」

「だよね。やっぱり人生っていうには短すぎるよね。もっと走り回りたいよね。」

地面に付かない足をプラプラさせて、「私も……」と言いかけ飲み込んだ。


線香の煙がモクモクとすみれさんを包んでいく。

ほとんど透明だから どれが彼女なのか、どれが白煙なのか、全然分からなくなってしまった。


「すみれさん?」

不安になって呼んでみる。

返事は無い。

「すみれさん……ッ!」

行くな。まだ行くな。星になんかなっちゃ駄目だ。



「空の青ってね。魂たちの、涙の色なんだよ。」



頭上で優しい言葉が降り注ぐ。

最後の太陽の光が差した。




「さようなら、皆。綺麗事かもしれないけど、大好きだよ。」




___灯が沈むのと同時だった。

一つの魂が地獄のような天国を離れ、天国のような地獄に旅立った。


    *


天国って本当にあるんだよ。

ただ、見えないだけで。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 思わずウルッときました……。設定が本当にうまいです。 [一言] すみっこさん、短編何気に多いですよね。それなのにどれもクオ高いって…なんなんですか、もう!すごいですよ!
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