未来戦艦大和 第2章 「若き連合艦隊司令長官」(3)
美青年はテーブルの上にある遼と亮の持ち物を興味深そうに見渡して、やおら亮の一眼レフカメラを手に取った。
「長官っ!捕虜の持ち物に触れるのは危険です」途端に後ろに立っていた男装の女性軍人が警告を発した。
「大丈夫だよ。綾乃丞…爆発したりはしないから…」彼は後ろを振り向いて、平然と笑って言った。
カメラを調べる彼の動作は、墺賀憲兵大尉と違ってよどみがなく、まるで機械を熟知しているような手付きだった。
一通り、カメラを操作した彼は、隣に置いてあるカメラバッグから、亮が航空機の撮影に使う超長尺望遠レンズを取り出した。
それがカメラのパーツである事は理解してるようだったが、どうも取り付け方が分からなくて迷っている様子だった。
「ねぇ、君…これはどうやって取り付けたらいいのかな?」青年は、ふいに顔を上げて亮に尋ねて来た。
「あ、あァ。それはまず横のボタ…いぇ、突起を押して、取り付けてあるレンズをネジって外して、それから…」
「ありがとう…ふむ、ふむ、こうすればいいんだね」
美青年は、亮が教えた通りに超長尺望遠レンズをカメラに取り付けて、ファインダーをのぞき込んだ。
それからカメラを構えて、部屋の中をあちらこちら見回し始めた。
美青年がぐるぐるカメラを回すたびに、それを向けられた者たちは、全員慌てて身体を交して避けた。
彼らには、砲身のような超長尺望遠レンズが、恐ろしい兵器にでも見えたのだろう…その様子は滑稽だった。
「ふ~ん…これはすごいな。これなら二万メートル先の艦船でも識別できそうだ」美青年は感心したように言った。
「米軍の新兵器でしょうか?」墺賀憲兵大尉が、恐る恐る青年に聞いた。
「いや、望遠鏡は兵器の内には入らないでしょう」青年はあっさりそれを否定した。
「はァ…」墺賀憲兵大尉は、キツネに抓まれたような顔をしていた。
次に美青年は、横に置いてある遼のノートパソコンを調べ始めた。
持ち上げて裏返したり、横に取り付けられたUSBポートに触れてみたり、興味深々のようだった。
そして、誰にも開けられなかったカバーを苦もなく開いて、キーボードをのぞき込み、ディスプレイに目をやった。
「へぇ~…こんなに薄い文書作成機は初めて見るなァ」
「いぇ、それは文書作成機じゃなくて、パソ…いや、電子計算機です」
遼は美青年にそう言った。英語で言うのはもう懲りていたから、あえて日本語に訳して言ったつもりだった。
「えっ!これはコンピューターなのかい?こんなに小型で薄い機械が…」
意外な事に、彼は英語を使って驚いたようにそう言った。
「はい、そうです」遼は答えた。
「S・O・N・Y…ソニーかァ?アメリカにそんなコンピューター製作所ってあったっけ?」
「長官は英語がおできになるのですか?」墺賀憲兵大尉が怪訝そうな顔をして聞いた。
「えぇ、アメリカのマサチューセッツ工科大学に留学してましたからね…でも、ソニーなんて電子会社は聞かなかったなァ」
「あの、ソニーは日本の会社ですが…」
「貴様は黙っとれっ!捕虜のくせしてなれなれしい!」墺賀憲兵大尉が遼を怒鳴り付けた。
「まァ、いいや…これは後でゆっくり見せてもらう事にしよう」そう言って、美青年は遼のノートパソコンを閉じた。
彼には墺賀憲兵大尉の横槍が不満だったのか?少し不機嫌そうな顔をして、隣に置いてあった遼のスマホを取り上げた。
「ふ~ん…これは何に使う物なのかな?ねぇ、君…」
と、遼に尋ねようとしたが、墺賀憲兵大尉が鬼のような形相をして遼と亮をにらんでいるのを見てやめた。
そうして、仕方なく自分で確かめるために、スマホのスイッチを入れた。
「ボク、ドラエモ~ン!」途端に遼のスマホが立ち上がった。
美青年は、一瞬驚いた様子だったが、すぐに興味深そうにスマホの画面をのぞき込んだ。
「はっはっはっ…これはおもしろ…」と言い掛けて、みんなが自分をじ~っと見ているのを見てやめた。
それから、テーブルの上に並べてある遼と亮の持ち物を手にとって調べながら、何かを二人に聞きたそうな顔をした。
しかし、どうも衆人監視の中では、思うようには行かないと思ったのか?急に立ち上がって彼らに言った。
「済まないが、みんな席を外してくれないか」
「いけませんっ!長官。危険ですっ!捕虜の素性も不明なのに…」
綾乃丞と呼ばれた女性の軍人が、あわててそれを止めようとした。
「心配性だなァ、綾乃丞は…頑丈な椅子に縛られたままの彼らには何もできやしないよ」
「しかし…」
「心配だったら、ドアの外に看視を立てて置くといい…それなら大丈夫だろ。剛力作戦参謀」
「はァ、私たちは別に構いませんが…」剛力作戦参と呼ばれた中年の軍人が答えた。
「じゃァ、そうしてくれ。これは命令だ」
「はっ!了解いたしました。司令長官」
美青年は人払いを済ませると、いきなり遼と亮の側に寄って来て、二人を椅子に拘束しているベルトを外した。
余りに思い掛けない彼の行動に、二人はキョトンと呆気に取られた。
「さァ、お二人とも…これで自由ですよ」美青年は、事もなげにそう言って自分の席に戻った。
「いいんですか?私たちは敵かも知れないのに…」逆に遼の方が、余りにも無防備な美青年を心配した。
「かも知れないですね…だが、少なくとも我々が戦っている敵ではない」
「と、言いますと…」
「あなた方はアメリカ人ではないと言う事です。けれど、我々の概念で言うところの日本人でもない」
「いぇ、私たちは間違いなく日本人ですが…」
「そうでしょうか?…もし、よろしければ少しばかり質問をさせていただけますか?」
「えぇ、どうぞ」
「地球の空は何色をしているでしょうか?」
「青…ですよね」亮は即座にそう答えた。
「それは、千年以上前の空の色です…現在は赤方偏移してオレンジ色になっています」
「えぇ~っ!?」
(通常、地球の空や海は、太陽光スペクトルのレイリー散乱によって青く見える。それは青い光の波長が短いからだ)
遼は考えた(けれど、自分が見た空や海は赤みを帯びていた。いったい何が起きたのだろう?どうなっているのだろう?)
『未来戦艦大和 補足説明 ~言い換え敵性語の実際~』
さて、何やら軍国時代さながらの日本に迷い込んでしまった遼と亮が随分苦労している様ですが(笑)
実際に、戦時中の大日本帝国では大本営の命令により、一切の外国語の使用が禁じられていました。
<大日本帝国大本営発令>
「本項ノ全文章及ヒ全内容ハ完全ニ正シキ事實トシテ大本營ニヨリ認可サレテヲリ全テノ臣民ノ爲ニ現人神タル天皇陛下ハ畏クモ御自ラ本項ニ御目ヲ通サレタ此ノ項目ノ内容ヲ疑フ事ハ現人神タル天皇陛下ヲ疑フト同義テアリ誤リタル思想ヲ持ツトセラルヽ場合ハ政治犯、思想犯トシテ内亂罪ノ對象ト爲ル」…となっていて、外国語を使った国民は特高警察や憲兵に逮捕された訳です。
では、実際に現代に生きる日本人が、遼と亮の様に軍国日本に迷い込んでしまったら、どの様に憲兵の追求を避けたら良いのか?
外来語の言い換えを、極一部だけご紹介します。この中には戦時中に実際に使用された語句もございます。
<食べ物編>
カレーライス=辛味入汁掛飯 何だかカレーライスが、味噌汁ぶっ掛け飯に見えて来そう(笑)
コロッケ=油揚げ肉饅頭 肉マンが油ギタギタ?そりゃ肉マン屋に対する営業妨害だろう~(笑)
ヨーグルト=白濁液状固体型細菌食品(はくだくえきじょうこけいがたさいきんしょくひん) 聞いただけでお腹を壊しそうだ(笑)
ファストフード=高脂肪性食品販売店 これは、当らずとも遠からずかな?(笑)
マクドナルド=道化師屋 うん、確かに看板はピエロになっています(笑)
ケンタッキーフライドチキン=米国式鳥唐揚屋 敵性食品を食べてはいかんだろ~!唐揚禁止(笑)
<IT関連編>
マイクロソフト=弱小社 M.Sは弱小どころか、国際的大企業なんだけどなァ~(笑)
ソフトバンク=軟弱銀行 確かに訳せば柔らかい銀行になるが、業務内容が違うだろ~(笑)
ブラウザ=猥褻画像閲覧譜 ネットユーザー全員が憲兵に逮捕されそうだな(笑)
iPod=林檎社製電蓄 林檎社製には違いないが、何処にレコード盤を乗せて回したらいいんだ?(笑)
Android=人造人間式電算機 スマホやるのに、いちいちロボットを連れて歩かにゃならんのか?(笑)
<音楽関連編>
エレキギター=電気三味線 すると、今時のギターアーティストはみんなお座敷芸者になるのかな?(笑)
トロンボーン=抜き差し曲がり金真鍮喇叭 この表現は卑猥すぐるぞ(笑)
サクソフォーン=金属製曲がり尺八 なぜそんな卑猥な表現ばかりするのか?規律を疑う(笑)
コントラバス=妖怪的四弦 紛らわしい!子供が妖怪ウォッチと間違えるだろうが(笑)
ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド=ハ・ニ・ホ・ヘ・ト・イ・ロ・ハ こんなの歌えるか~(笑)
<ゲーム、娯楽関連編>
東京ディズニーランド=東京鼠遊園地 そこはネズミ専用の遊園地なのかな?(笑)
ムーミン=芬蘭河馬顔妖精 フィンランドみたいな寒い国にカバが生息してたっけ?(笑)
カンガルー=袋鼠 ふ~ん、オーストラリアにはそんなにデカイネズミがいるんだ~(笑)
ポケットモンスター=携帯式小型怪獣 何だかポケットに手を入れたら噛まれそうな気がする(笑)
ラブプラス=廃人恋愛遊戯 恋をすると廃人になってしまうのか?まァ、少々色ボケはするが(笑)
と…まァ、極一部だけですが、どう考えても漫才にしかならないのですよ(笑)読者のみなさんはどう思われますか?