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未来戦艦大和 第2章 「若き連合艦隊司令長官」(1)

「捕虜を旗艦まで移送する。水上滑空艇を出してくれ」兵曹長は、ホバークラフトの操縦士らしい水兵に告げた。

「はっ!了解いたしました。憲兵兵曹長殿」

 操縦士は、水上滑空艇の前の操縦席に座ってエンジンを掛けた。それは奇妙なエンジン音だった。

 普通ならブルルルッ…と言うピストンの動く音がするはずなのに、シュー、シューと言う空気の抜けるような音がしていた。

「さァ、さっさと乗れっ!」遼と亮は、二人の憲兵に小突かれて水上滑空艇に押し込まれた。

 そうして、憲兵隊兵曹長と二人の憲兵、捕虜にされてしまった遼と亮を乗せた水上滑空艇は、海面に滑り出して行った。

 外に出てみると、海には薄いモヤが掛かっていて、やはり水面は赤みを帯びた不気味な色をしていた。

 上を見上げると、空にはオレンジ色がかった雲が垂れ込めていて、気温は低いのに、遼と亮は妙に蒸し暑くさえ感じた。


 駆逐艦「雪風」を離れた水上滑空艇は、エンジン音もなく、海の上を滑るように走り出した。

 遼と亮がふっと後ろを振り返ると、そこには、見た事もない異様な姿の船が浮かんでいた。

 銀の鱗に覆われて膨らんだ船体は、まるで海上自衛隊の涙滴型潜水艦のようにも見える。

 その上に太平洋戦争当時の駆逐艦の艦橋があり、丸みを帯びた砲塔が前に二つ、後ろに一つ、艦尾には大きな垂直尾翼が付いている。

(何だ?この軍艦は…これが駆逐艦「雪風」か?まるで水上軍艦と潜水艦を無理矢理くっ付けたような形じゃァないか)

 不思議に思って、目を凝らして見ようとした遼はふいにめまいに襲われた。頭がぼ~っとして、息をするのが苦しくなった。

 横を見ると、亮も虚ろな目をしてハァ…ハァ…と息をしていた。緊張続きだったので、ドッと疲れが出たのだろうか?

 いつしか身体から力が抜けて、遼も亮も目を開けて座っているのがやっとの状態になってしまった。

「こら~っ!貴様ら、こんなところで寝るなっ!」

 バシッ!と憲兵の平手打ちが飛んで来た。仕方なく二人は目を開けたままで我慢する事にした。

 この時に遼と亮の身体に起こった変調の原因は、ず~っと後になってから明かされる事になった。

 そして二人は、駆逐艦「雪風」よりもさらに異様な船の姿を目の当たりにする事になったのだった。


 それは見た事もない巨大な船だった。

 水上滑空艇が進むにつれ、モヤが掛かっていた海が急に開けて、前方に巨大な影が浮かび上がった。

 アメリカの原子力潜水艦の二倍ほどもある横に膨らんだ丸い船体は、びっしりと銀色に光る鱗で覆われていた。

 その上に艦橋が乗っていて、前に三門の巨大な砲の付いた丸みを帯びた砲塔が二つ、すぐ後ろに三門の副砲を備えた砲塔が一つ。

 その後ろに、まるでお城の天守閣を思わせるような特徴のある司令塔があり、何と船首には、鮮やかな菊の紋章が付いていた。

「大和だっ!…戦艦大和じゃァないか!?」

 亮は思わず大きな声を上げながら、手錠を掛けられている事も忘れて、カメラのファインダーをのぞく仕草をした。

 カメラマンの本能からだろううか?シャッターチャンスを見逃せなかったのだろう。

「こら~っ!静かにせんかっ!」たちまち憲兵の叱り付ける声が飛んで来た。

「まァ、いいじゃないか。ゆっくり拝ませてやれ…アメリカ人にゃァ、こんな見事な戦艦は作れんだろうからな」

 憲兵兵曹長が、興奮気味の亮を見ながら、勝ち誇ったように笑って言った。

(戦艦大和?…確かに艦橋の形は大和だ。でも、大和はとっくの昔に米空母艦載機の攻撃を受けて、鹿児島の沖に沈んだはずだ)

 遼は目の前の光景が信じられなかった(これは戦艦大和の亡霊か?やっぱり俺たちは死んでいて、死者の国にいるのかも知れん)

 ふいに遼の頭の中に、幼い我が子と妻の笑顔が浮かんだ…無性に悲しくなって来て、泣きたい気持ちになってしまった。

(もう現世には帰れないんだろうか?そりゃ、死んじまったんだから当たり前だよな…もっと優しくしときゃァ良かった)

(仕事とは言え、取材から取材へと跳び歩いて、あんまり構ってやれなかったなァ~)遼は悼たまれない後悔の念にかられた。

 水上滑空艇は発光信号を出しながら、大和の側舷に沿ってゆっくり艦尾の方に滑って行った。

(すごい戦艦だ!ゆうに250メートルは越える…それにしても、船体の銀の鱗は何なんだろう?あの世じゃみんな銀色なのか?)

(確か、極楽って金色のはずだったよな~…じゃァここは地獄か?)気を取り直した遼は、開き直ってあの世を観察する事にした。

 大和の船尾からチカチカと発光信号が送られて来て、遼と亮を乗せた水上滑空艇は大和の船尾に接舷した。

 上を見上げると、少し斜めに傾いた巨大な垂直尾翼が二枚そそり立っていた。形は米軍のジェット戦闘機の尾翼によく似ている。

 すぐに水上滑空艇が接舷した船尾の喫水線上にあるハッチが開いて、遼と亮たちは大和の中に吸い込まれて行った。


 遼と亮が憲兵に連行されて入った部屋は、やはり、海軍憲兵隊の詰め所だった。

 だが、それは駆逐艦「雪風」のものよりも遥かに大きく、鉄格子の入った獄舎も複数備え付けられていた。

 腕に赤い腕章を巻いて、肩に階級章を付けた士官らしき男が、自分のデスクから立ち上がって横柄な態度で彼らを迎えた。

 憲兵兵曹長は、さっそくデスクに歩み寄ると、士官らしき若い男に敬礼をして言った。

「墺賀憲兵大尉殿、米軍の諜報員を捕虜にしてまいりました」

「よくやってくれた。お手柄だ…そいつらがその諜報員か?」

 墺賀憲兵大尉と呼ばれた男は、遼と亮を蔑むような目で見ながら言った。

「はい、そうであります。日本人の血が混じってるくせに、鬼畜米英に加担する汚らわしいヤツらであります」

「ふんっ…売国奴めらか。焼きを入れる前に取り合えず報告を聞こう」

「はっ!かしこまりました」

 墺賀憲兵大尉と憲兵兵曹長が話をしている間に、遼と亮は大尉の四人の部下に椅子のベルトで縛り付けられた。

 それは、駆逐艦「雪風」の憲兵隊詰め所で、二人が縛られた鉄製の椅子と同じつくりのものだった。

 目の前には尋問に使う大きなテーブルが据え付けられていて、その上に遼と亮の持ち物が並べられた。

「では、本官はこれにて「雪風」に帰艦させていただきます」報告を終えた憲兵兵曹長が言った。

「うん、よくやった…兵曹長の手柄は上に報告しておく」墺賀憲兵大尉はそう言って、憲兵兵曹長をねぎらった。

「はい、光栄であります。なにとぞよしなに…」

 そう言って、憲兵兵曹長は墺賀憲兵大尉に敬礼すると、えびす顔で二人の部下を連れて部屋を出て行った。

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