未来戦艦大和 第1章 「可能性の未来へ」(2)
「プハァ~ッ!」
「ゲボッ!ゲホッ!」
気が付いた時には、二人は海の上に浮かんでいた。
(助かった~っ!…あれっ?溺れたにしちゃァ、あんまり水を飲んでないなァ)
意識を取り戻した遼は、無事に生きている自分の体を見ながら不思議に思った。
「ゴホッ!ゴホッ!…おお~ぃ、遼ちゃ~ん」
亮は少しばかり水を飲み込んだみたいだが、溺れたと言うほどでもない様子だった。
「おぉ…亮ちゃん!無事だったか~?どうやら二人とも助かったようだな」
「あァ、海上自衛隊から支給されたライフジャケットが役に立ったみたいだ」
「よかったなァ…てっきり死ぬかと思ったよ」
「ここどこだ?…ちょっと海の色が赤いけど…」
「分からない。多分、赤潮に流されたのかも…?もしかしたら赤潮のせいで渦潮が起きたのかも知れないな」
「俺たちを救助しに来てくれるのかなァ?…海上自衛隊」
「俺たちが海に落ちたのを誰かが見てたはずだ…それにいない事が分かったらすぐ救助しに来るさ」
「じゃァ、それまでの辛抱だな」
「それにしてもひどい目に遭ったなァ、だから危ない所に行くなって言ったのに~…危うく死ぬところだったぞ」
「ごめん、ごめん、遼ちゃん…でも、会社の機材は無事だったみたいだよ。防水仕様だし…」
「お前、とっさにカメラバッグ庇ってたものなァ…まァ、そう言ってる俺もだけど…」
「死ぬかも知れないって時に、何で思わずあんな事したんだろうな?」
「さァ…プロ根性ってやつじゃないのか?」
「へぇ~…生死の境によくプロ根性なんて出るもんだな」
死線を脱して少し気が楽になった遼と亮は、冗談を言いながら笑い合った。
そんな二人の目の前に、突然、ロープを着けた銀色に光る浮き輪が投げ出された。
「おいっ、捉まれっ~!」
二人が声のした方を見ると、船体を眩いばかりの銀色の鱗に覆われた船が浮かんでいた。
「何だあの船?…海上自衛隊か?」それを見た亮が怪訝そうに言った。
「海上自衛隊にあんな艦船あったっけ?」仕事柄、軍事情報に詳しい遼にも分からなかった。
「まァ、どっち道、救助に来てくれたのは間違いなさそうだな」
「待てよ!亮…もしかしたら米軍の船かも知れないぞ」
「けど、日本語で声を掛けて来たぜ」
「でも、何だか怪しいなァ~?」
遼と亮は、船の上から自分たちを見下ろしている5~6人の水兵たちをしげしげと眺めた。
「あれ見てよ、遼ちゃん…彼らの着てる服。ダイバースーツ…って言うか、まるで放射能防護服みたいだ」
「もしかしたら米軍の特務艦なのかも知れんなァ…核実験に関係してるとか?」
「けど…核実験って、とっくの昔に凍結されたはずだろ」
「分からんぞ~…米軍の事だ。極秘裏にやってるのかも…」
「だとしたらヤバくね…秘密を知った俺たちって、拘束されたりしねぇか?」
亮が案じた通り、船に引き上げられた二人は、さっそく拘束される事になった。
浮き輪に捉まって、船の上に救い上げられた遼と亮は、たちまち銃を手にした5~6人の水兵に取り囲まれた。
だが、水兵と言うには余りにも妙な格好だ。顔面以外をすべて覆った銀色のダイバースーツは、本当に放射能防護服に見える。
頭に被っているゴーグル付きの帽子は、旧海軍の戦闘帽みたいだし、背中には旧陸軍の背嚢のようなリュックを背負っている。
それを肩から腰に掛けたベルトで止めて、銀色のブーツを履き、腰からは登山用のカラビナみたいなフックをぶら下げている。
しかも、手にしている銀色の銃…一見小銃に見えるそれは、まるでSF映画に出て来るレーザーライフルのような形をしている。
でも、一番不思議なのは顔だ…鼻の低い日本人の顔立ちなのに、肌の色が白い…まるで白系アメリカ人の肌の色なのだ。
オレンジ色の夕焼け空の光に照らされてるせいなのか?でも、自分たちが海に落ちたのは、間違いなく真っ昼間のはずだった?
そんなに時間が経つほど流されたなら、とっくの昔に溺死してるはずだ…遼と亮には何がなんだか分からなかった。
「何者だ?妙な服を着ているが民間人か?」水兵たちの上官らしい男が二人に尋ねて来た。
「自分は天雲遼…軍事雑誌「旭日」の記者です。こっちはカメラマンの陣内亮。二人とも日本人です」
遼は自分たちが敵ではない事を相手に知らせようと、大真面目に答えた。
「カメラマン?なぜ日本人が敵性語を使う…それに日本人にしては肌の色が黒いなァ?」
「班長!自分は聞いた事があります。米軍には日本人と黒人の混血もいるそうです」
班長と呼ばれた男の隣にいた水兵が、彼の耳元でそう言った。
「やはり、怪しいとにらんだ通り貴様らは米軍の諜報員だなっ!」班長は威嚇するように言った。
「諜報員って?…自分らはただ、海上自衛隊の護衛艦「いずも」を取材してただけですよ」
「海上自衛隊?…大日本帝国海軍にそんな部隊は無いぞ。それに護衛艦なんて艦船は聞いた事もない」
「そんな馬鹿な~…だって、これ日本の船なんでしょ?」
「本艦は大日本帝国海軍一等駆逐艦「雪風」だ」
「大日本帝国海軍?…一等駆逐艦「雪風」?…いつの話です。それ?」
「貴様らは大日本帝国海軍を愚弄しとるのかっ!…捕虜として連行しろっ!吐かせてやる」
「ちょっ、ちょっと待って下さいよっ!吐かせるっ…て?」
遼と亮は懸命に事情を説明しようとしたが、強引にバッグや持ち物を取り上げられてしまった。
「班長さん。自分たちは正真正銘の日本人です。米軍の諜報員ではないですって…」
「やかましい!さっさと歩けっ!」