表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

未来戦艦大和 第4章 「激闘!坊の岬沖海戦」(2)

「何だ、お前恐いのか?」

「そりゃぁ恐いに決まってるよ。だって、俺たちこれから敵機の攻撃の的にされるんだろ…遼ちゃんは恐くないのか?」

「まぁ、恐くないと言えば嘘になるな…俺たちの世界の歴史から言えば、この戦いで戦艦大和は撃沈される事になるんだから」

「じゃぁ、俺たちも一緒に死ぬって事じゃないか…こんな訳の分からない異世界で誰にも知られずに死ぬのは嫌だよ」

「死ぬって決まった訳じゃないよ…確かに起きている事はよく似てるけど、俺たちのいた世界とは何かが違っている。それに、あの羽生が何の策もなしに無謀な戦いをするとも思えんしな…彼を信じるしかなかろう」

(そうだ…羽生は液体炭酸ガスを雲の上から撒けと命じていた。もし、俺の予測が当たっていたら面白い事になるかも知れん)

 そう考えた遼は一人でほくそ笑んだが、亮はまだオドオドと不安げにしていた。

「しっかりしろよ。正体がバレてしまうぞ」そう言って、遼は相棒のお尻を軽く叩いた。

「あぁ…うん」亮は精一杯のやせ我慢をして見せた。


「どうやら、天一号作戦の初期段階としては、成功したようですな…あんまり、ありがたくはないが」

 敵機の大編隊が接近しつつあると言う報を聞いて、来島参謀長はつぶやいた。

「えぇ、これで敵艦隊上空の護衛はだいぶん手薄になるでしょう…けれど、今度はこっちが大変です」

 それを聞いた草薙作戦参謀が、ぼやき気味に答えた。

「本艦隊は作戦の初期段階では、鹿屋と知覧から出撃する友軍の航空攻撃隊のための囮でもありますからね」

 けれども、羽生は予定通りだとでも言うように平然としていた。

「どのくらい来ますかな~?」来島が、敵機の数を気にして言った。

「雨雲少佐と陣内大尉の情報から推測すると、約400機が2波に分かれてやって来るものと思われます」

 遼のノートパソコンから、あらかじめ別世界で起きた戦闘の情報を得ていた羽生は、そう答えた。

「敵空母、約5隻分ですね…資料にある敵空母が7隻だから、敵艦隊上空の防空支援は、60機から80機ほどになりますか?」

「その通りだよ。綾之丞…対して我が方の航空攻撃隊は197機。数の上では敵を上回る事になる」

 即座に、戦力比を分析した春日情報参謀の問いに、羽生は答えた。

「友軍の攻撃隊の戦果は期待できますが、400もの敵機を引き受けるこっちは圧倒的に不利になりますね~」

「しかも、天候条件が悪すぎる。せめてもう少し雲が高かったら」

「空に文句を言っても仕方がないと思いますよ…現状でどうにかするしかないでしょう」

 羽生は、少し悲観的になっている草薙と来島をそう言ってなだめた。

「今は、友軍が敵艦隊を攻撃している間、できるだけ敵を引き付けて時間を稼ぎながら、かつ、こちらの損害を軽微に留める事に努力しましょう」

「そうですな…友軍の攻撃隊のための時間稼ぎをしながら、敵機の攻撃を交わす事が我々の任務ですからな」

「取りあえず、そのための手は打っておきました…後は、駒之助さんがどれだけ持ちこたえてくれるかに懸ってます」

 気を取り直した来島にそう答えた羽生は、砲術長を務める駒之助を見てニッコリと笑った。

「えっ?!あたしっすか?」砲術長の壱岐少佐が、自分を指差しながら言った。

「えぇ、そうです…頼りにしていますよ。駒之助さん」羽生は、再び微笑みながらそう言った。

「任せて下さいっす…いざとなったら女の子は頼りになりますから」

 駒之助は小さな…いや、ほとんどない胸を叩きながら羽生に答えた。

「えっ?それは男の言うセリフじゃないのか?」成海航海長がちょっぴり意地悪そうにからかった。

「いや~…女のセリフっすよ。女はどんなに苦しくってもちゃんと産むっしょ。赤ちゃん」

「まぁ、そう言われりゃそうだな~…確かにいざとなったら、男は産室の前でオロオロしてるだけだわな」

「でしょ…最後に決めるのは女っしょ!」駒之助は小さな胸を張って言った

「こりゃぁ、一本取られたな~」成海もさすがに苦笑いを浮かべた

 二人のやりとりを聞いていた乗組員たちが、全員クスクス笑い出した

 それまでは、何となく暗く沈んでいた戦闘司令室の雰囲気は、一挙に明るさを取り戻した

 羽生大二郎と言う青年は、どんな状況にあっても機転を効かせて周りを明るくしてしまう。

 遼は、この若い連合艦隊司令長官が持っているリーダーとしてのたぐい稀な資質の一端を見たような気がした。


 大和以下の9隻の艦隊が密雲に近づくにつれて、辺りには小雨がパラつき始めた。

 空を覆う雲の中心部では、時折稲光が見える…それはやがて激しいスコールになる事を予感させた。

「こりゃぁ、もっけの幸いだな~…お陰で多少は敵の攻撃が弱まる」

「けれど、あんまり視界が悪くなってしまうと、こっちも撃ちにくいです」

 来島参謀長と草薙作戦参謀の状況分析は、互いに食い違っていた

 けれど羽生は、そんな二人に構わずに連合艦隊に号令を発した。

「全艦速度上げ~!各艦は対空警戒態勢を取りながら雲の中心に向かって進め」

「両舷全速前進~っ!」羽生の指示を受けた有馬艦長は、成海航海長に命じた。

「了解!全速前進しま~すっ」成海が即座に応じた。

 羽生は、雲の上から液体炭酸ガスを撒かせて雨を降らせ、敵に有利なはずの状況を逆手に取ったのだ。

(俺の予想通りだったな…やはり、羽生と言う指揮官は凡庸な将ではない)遼はそう思った。


「長官。扇の陣形を進言します。円陣では思うように速度が出ません」草薙が羽生に言った。

「そうだな…各艦、円陣を解いて矢矧を先頭に扇の陣形!大和が扇の要に付く」羽生の指令が飛んだ。

「待って下さい、長官…大和がしんがりでは敵の標的になってしまいます」春日は、羽生に意義を唱えた。

「綾之丞。この艦隊の中で最も対空戦闘能力の高い艦はどれだ?」羽生は春日を諭すように問うた。

「それはもちろんこの大和です。重巡洋艦の三倍以上の対空戦闘能力を持ってますから」

「じゃぁ、それが一番合理的な選択肢だろ」

「はぁ…」羽生にそう言われた春日は、すごすごと引き下がった。


~続く~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ