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未来戦艦大和 第4章 「激闘!坊の岬沖海戦」(1)

 たっぷりの湿り気を含んだ風が、もやの立つ水面を吹き抜けていった。

 軽巡洋艦 矢矧を先頭に立て、戦艦大和を中心に置いて、円陣を組んだ艦隊は一路沖縄を目指した。

 南へ進めば進むほど、雲は厚さを増していき、今にも泣き出しそうな空が重くのし掛かってきていた。


「まずいな…こりゃぁ」双眼鏡を手に、前方の雲を見ながら来島参謀長が言った。

「千から千二百と言ったところでしょうか」大和の上を通り過ぎてゆく雲を見上げながら、草薙作戦参謀が言った。

「散開して雲の中から飛び出して来られたら、対空防御が困難になりますね」春日情報参謀が、少し不安げに言った。

 三人の参謀がそんな話をしていた時、気象観測員からの報告が入ってきた。

「水平線上に大規模な低い密雲を確認しました…約40キロ四方に渡って広範囲に垂れ込めています」

「ますますもってまずい…長官。迂回を進言いたします」来島参謀長は、羽生にそう言った。

「少し待って下さい。来島参謀長…能本副長。機関室に燃料の残量を確認していただけますか?」

 羽生は、来島参謀長を制してから、能本副長にそう告げた。

「了解しました。長官…剛羅機関長。遠回りした場合、燃料は持ちそうか?」

 能本副長は、直ちに機関室にいる剛羅機関長にマイクで燃料の残量を尋ねた。

「出港してからず~っと節約してきましたのでね。持たん事はねぇですが、戦闘時にどれだけ消費するか見当が付かねぇもんで…最悪、目的地までたどりつけるかどうか」

 けれども、剛羅機関長の返答はあまり芳しいものではなかった。

「お聞きの通りです。長官…後は、参謀のみなさんと協議の上、ご決断願います」

「しかし、そうは言っても、低い密雲の下での対空戦闘はこちらに圧倒的に不利だしな~」

「自分も、参謀長と同意見です…敵将は、必ず自軍に有利な条件下で攻撃してくるはずです」

「そうですね…私も目的地に着くまでに沈められたら、元も子もないと思います」

 来島参謀長と草薙作戦参謀、春日情報参謀の三人は、それを聞いてもまだ迷っていた。

「弱気だなぁ…窮地には違いないが、まだ沈められると決まった訳じゃないよ…けれど」

 羽生は平然とそう言って、一呼吸置いてから眉をしかめている参謀たちを見渡した。

「けれど…何でしょうか?」春日は、羽生に尋ね返した。

「果たして、あの雨雲は航空攻撃を仕掛ける敵側にだけ利があるのだろうか?」

「はぃ~ぃ?」春日と草薙は少しいぶかしげな顔をして羽生を見た。

「来島参謀長。矢矧に蓮見舞之助中尉が乗る偵察用の水上戦闘機を預けてましたよね」

「えぇ…大和は特攻用の『桜花』を搭載した手前、矢矧の方で預かってもらいました。確か紫電改の一つ前の型で…」

「強風…ですね。それじゃ、彼女に一仕事頼みましょう」

 謎めいた笑みを浮かべながら、羽生は来島にそう言った。


「通信士。矢矧の原田艦長に伝えてくれ 《強風に液体炭酸ガスを積めるだけ積んで、蓮見中尉に前方の密雲の上から散布するように命じてくれと…それが済んだら、一足飛んで、鹿屋と知覧から飛び立った友軍の航空攻撃隊に、敵艦隊の正確な座標を伝えるようにと…あ、くれぐれも伝えるだけでいいと念を押してくれ。あの子は情が深い分、深入りして航空隊を敵艦隊まで誘導してしまいかねないからな。攻撃隊に情報を伝えたらすぐに戻ってこい》…と打信して欲しい」

「はっ!了解いたしました。長官」

 早速、大和からの発行信号が矢矧に送られ、了解の応答が返ってきた。

 ほどなくして、矢矧の水上機カタパルトに搭載されていた強風が、海面に降ろされた。

 それは奇妙な水上戦闘機だった…一見したところ、短い首を伸ばしたカルガモのような形をしていた。

 尾翼はまるで鳥の尾羽のようだし、水上機に特有のフロートもなく、どうやって水の上に浮いているのかさえ分からない。

 首の付け根の部分に、楕円形のコクピットが付いていなければ、まさに巨大なカモそのものだった。

(まさか、水かきでも付いているんじゃないだろうな?)カメラを構える亮の横で、首をひねりながら遼は思った。


 水面を蹴立てながら、軽やかに強風が飛び立って行った。

 そして、飛び立つ時には広げていなかった翼を上空で開いた。それは本体の三倍以上もある大きな翼だった。

 いや、翼と言うには余りにも薄すぎる…蝶の羽根か、或いは蝙蝠の皮膜と言う表現の方がより正確だろう。

(これが異世界の未来の航空機なのか?)遼は呆気に取られながら、雲の中に消えていく強風を見送った

「このまま、まっすぐ進みます」羽生は居並ぶ一同に決断を告げた。

「了解しました。両舷前進!巡航速度を維持しながら敵襲を警戒っ!」有馬艦長が、成海航海長に命じた

「両舷ぜんし~ん!巡航速度を保ちま~すっ」成海航海長が即座に応じた。

 羽生の下した決断に従って、9隻の日本連合艦隊は空を黒く覆う群雲に向かって突き進んで行った。

(あの群雲の下で何が待ち受けているのか?)遼は、ふと自分たちの世界でかって起きた出来事と重ね合わせた。

 だが、よく似た出来事が進行しているとは言え、ここはまったくの別世界なのだった。


 水平線上に見えていた密雲は、段々近づいてきて辺りを暗くしていった。

 そして、ついに大和の対空レーダーが、敵機の大編隊を捉えた。

「敵らしき機影を確認っ!かなりの数の大編隊です」

「ついに来たか…距離と方位は分かるか?」副長の能本中佐が対空監視員に尋ねた。

「電離層の乱反射の為、正確には分かりませんが、距離は100キロ前後かと…なお方位は不明です」

(そうだった…この世界の電離層は不安定で、レーダーが充分に機能しないんだった)

 遼は羽生から聞いた話を思い出した。その横では亮が顔をこわばらせていた。

 カメラを持つ手が、小刻みに震えているのを見て取った遼は、小声で囁いた。


~続く~

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