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未来戦艦大和 第3章 「沖縄水上特攻作戦」(5)

坊の岬に吹く風は ただひゅうひゅうと泣いて吹く

坊の岬に降る雨は 流れ落ちる悲しい涙の味がする

坊の岬に寄せる波は 失われた男たちの魂を運んでくる

お国のために死んでくれ と告げられた多くの者たちの

無念の思いと未練が 坊の岬にはただよっている 


「戦闘司令室においで下さい。面白いものが見られますよ」

 羽生からの突然の連絡を受けて、遼と亮は船室を出た。

 二人の世話係を命じられた内田伍長と言う少年兵が着せてくれた、耐熱防護服なるスーツは驚くほど快適だった。

 外は蒸せるほど湿気が多く、身体に密着したスーツは汗をかくのではないか?と思っていたが意外に汗をかかないのだ。

 どんな繊維でできているのか?どんな構造になっているのか?なぜ耐熱防護服なのか?二人にはさっぱり分からなかった。

 頭に、階級章が付いている戦闘帽を被ったが、その帽子には、なぜかサングラスの様な色の濃いゴーグルが付いていた。

 二人は内田伍長に付けてもらった腰のフックをぶら下げ、腕に特務機関を表す腕章を巻いて、戦闘司令室に向かった。

 すると、船内の通路を歩く道すがら、遼と亮の姿を見た乗組員たちが…それも、上級将校までが、直立して敬礼をして来た。

 軽く敬礼を返し、乗組員たちの様子を見ながら遼は思った(あの少年の言う通り、我々はかなり尊敬されているらしい)

 確かに、敵地に潜入して情報を探り、破壊工作をする特務機関は、どの軍にあっても階級を越えて尊敬される立場ではある。

 しかも、味方の陣内のどこでも出入りの自由が許される。羽生は、遼と亮が取材に困らないように取り計らったのだった。

 だが遼には、羽生の粋な取り計らいが何となく重く感じられた。特務機関員らしく振舞うのは、なかなか難しそうな気がした。


 戦艦大和の戦闘司令室は、ピリピリと緊張した空気が漂っていた。

「まもなく坊の岬の合流地点に差し掛かります」

 フォログラフに映し出された海図を見ながら、成海航海長が言った。

「了解しました。ゆっくり速度を落として下さい」それを聞いた羽生は、有馬艦長に告げた。

「両舷微速。ようそろ~…周囲を警戒しろ」有馬艦長が命じた。

 大和以下の艦隊は、徐々に速度を落としながら、何かを待つように洋上に停止した。

「信号を確認っ!友軍です」しばらくの緊張の後に通信士が艦長に告げた。

「そうか…予定通り来たか」有馬艦長がつぶやくように言った。

「お二人とも海上をごらん下さい」

 羽生が大和の横の海面を指差しながら、遼と亮にささやくように言った。


 二人が海上に目をやると、ざわめき立つ海面を割って、ゆっくりと巨大な影が現れた。

 一隻、二隻…次々と浮かび上がって来た真っ黒い影は、全部で九隻…しかもそれぞれに大きさが違っていた。

(もしや潜水艦?…あれは潜水艦なのか?けれども、我々の世界の歴史では、天一号作戦に潜水艦が…それも、こんなにたくさん参戦した記録はどこにもない。やはり、我々の世界とこの世界では、何かが少し違っているのだろうか?…それに羽生は、今は3016年だと言っていた。なぜ、そんな未来に潜水艦と言う旧時代の兵器が存在しているのだろうか?)

 遼は不思議に思いながら、海上に目を凝らした。


 それは、遼と亮がいた世界の潜水艦とは少しばかり形状が異っていた。

 大和以下の水上艦隊の船体が銀色なのは、いかにも未来的だったが、この潜水艦の船体は遼と亮の世界と同様に漆黒だった。

 その点では確かに潜水艦らしい…だが、水面に出ている船首は尖がっていて、船体全体が大和と同じ様にズングリしている。

 一番大きな潜水艦は、重巡洋艦ほどの大きさがあり、戦車の砲塔のような司令塔からは、二門の大きな砲が突き出していた。

 司令塔の前後にも砲塔があり、甲板には、魚雷を思わせるような小型の潜水艇を四隻搭載し、最後部には尾ひれが付いていた。

 駆逐艦よりも一回り大きな潜水艦もあり、戦車砲のような砲を付けた司令塔と、二隻の魚雷型潜水艇を積んでいるのが見えた。

 フリゲート艦クラスの小さな潜水艦からは、カヌーの様な腕が横に二本伸びていて、同じ魚雷型潜水艇が取り付けられていた。

 遼と亮には、その潜水艦隊がまるで武装した巨大なシャチの群れのように見えた。そう…群れで獲物を襲うシャチのような。

 だが、普通の潜水艦は単独で隠密行動を取り、獲物を見つけては狙って仕留める。それが潜水艦の常識的な戦法のはずなのだ。

 遼と亮がいた世界では、潜水艦が艦隊を組むなどと言う事はほとんどあり得ない。やはり、その点でもこの世界は違っていた。

 後に二人は、潜水艦に艦隊行動を取らせる戦法は、実は羽生自身がある目的のために考案したものである事を知る事になる。

 羽生は、潜水艦を集めてそれぞれの役割を与え、この戦いで水中における一種の機動部隊として運用しようとしていたのだ。

 追い詰められた日本に現れた若き連合艦隊司令長官、羽生大二郎…その天才ぶりを、遼と亮はまもなく目の当りにする事になるのだった。


 イ-58と書かれた大きな潜水艦の司令塔に数人の男たちが現れた。

 司令官らしい小柄な人物が、部下に命じて探照灯を大和に向けさせ、何か発光信号を送り始めた。


「橋本中佐から信号です。本艦隊を追跡していた敵潜水艦を沈めたと…」通信士がそう報告した。

「それはありがたい。金魚の糞みたいにくっ付かれて、一々艦隊の位置を敵に報告されてはたまらんからな」

「えぇ、まずは邪魔者を排除できて一安心ではありますが…敵はすでに我々の行動を察知してますからね」

「そうですね…敵の偵察機が何度も様子をうかがいに来てますし、進路を偽装するのも限界かと」

 来島参謀長と草薙作戦参謀、それに春日情報参謀のやりとりを聞いていた羽生は言った。

「そうだな。橋本中佐との作戦打ち合わせを終えたら洋上に出る事にしよう」

 三人の参謀にそう答えた羽生の顔には決意がみなぎっていた。


~続く~

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