未来戦艦大和 第3章 「沖縄水上特攻作戦」(4)
【読者の皆様へ謝罪】しばらく入院しますので、連載を一時休止させていただきます。
羽生に案内されて遼と亮がたどり着いたのは、船尾に近い船室だった。
戦闘艦の船室だけあって、決して広い部屋ではなかったが、二段ベッドや机など一通りの調度品が整っていた。
「ここなら、いざと言う時に素早く脱出できます。水上滑空艇の発着所も近いですから」羽生はそう言った。
「お気遣いいただきありがとうございます」遼は頭を下げてお礼を言った。
「いぇいぇ、どういたしまして…それより、お二人が持参された機器を少しの間貸していただけますでしょうか?記録されている内容を作戦資料として検討したいと思いますので…その小型の電子計算機と通信機だけで結構です」
「あァ、ノートパソコンとスマホですね…お役に立つならどうぞ使って下さい」
もうすっかり羽生を信用している遼は、快く承諾したが、亮は少し困った顔になってしまった。
「おい、亮…お前、何か見られると恥ずかしいようなものでも溜めてるのか?違う世界にまで来てプライバシーもなかろうが」
「いや、別にそんなんじゃないけど…って言うか、何と言うか」
バツの悪そうな顔をしている亮をみると、遼の推測は図星だったらしい。
「困ったヤツだなァ…ま、一人もんだからアダルト物を見るのも仕方ないけどな」
「あァ、ご心配なく…通信機の方は構造を調べたいだけですから中身は詮索いたしません。お嫌なら結構ですよ」
「あ…いぇ、どうぞ使って下さい」
遼に心の中を見抜かれて観念したのか?亮はしぶしぶスマホを羽生に差し出した。
「ありがとうございます…では、しばらくの間お借りさせていただきます」
羽生は、遼と亮に丁寧に礼を言うと、二人から借りた機器を持って部屋を出た。
羽生が出て行ってまもなくしてから、一人の兵士がドアをノックして入って来た。
「初めまして、雨雲少佐と陣内大尉のお世話を仰せ付かりました内田伍長と申します」
そう言って、直立不動の姿勢を取って遼と亮に敬礼して来たのは、まだ年端もいかぬ少年だった。
「君、幾つになる?」敬礼を返した遼は思わず尋ねた。
「はいっ、自分は16になります」
「16歳か…その若さで下士官になったのか。偉いな」
「いぇ、自分は偉くはありません。父が海軍少年兵学校に入れてくれたお陰です。立派な兵隊になれと」
「ふ~ん、それで飛び級で伍長なのか~…戦場に出るのは恐くはないのかい?」
「はいっ!恐くはありません。お国のために役に立って死ねるなら本望であります」
遼には、思いっきり強がりを言うこの少年が不憫に思えてならなかった。
自分達の世界の日本でも、70数年前にそんな教育を受けた大勢の青少年が戦争に借り出されて死んだ。
この世界の日本でも、同じような歴史が繰り返されているのかも知れない…遼は暗澹たる気持ちになった。
「あの…雨雲少佐と陣内大尉の着替えを持ってまいりましたので、艦内ではこちらに着替えて下さい」
そう言って、少年は持って来た着替えを遼と亮に差し出した。
「あァ、ありがとう」遼は少年に礼を言って、着替えを受け取った。
二人が少年に手渡された着替えは、彼や乗組員たちが着ているダイバースーツのような服と同じものだった。
だが遼と亮には、どう着たらいいのか?着用の仕方が分からなかった。まごまごしている二人を見て少年は言った。
「よろしければお手伝いさせていただきます」
「あァ、頼むよ…余り着慣れてないもんでね」遼はそう言ってごまかした。
「そうですよね。特務機関の方はあんまり耐熱防護服なんて着る機会はないですもんね」
「あァ、そうだな…軍人らしくない格好ばっかりだからね」
「いぇ、そんな事はありませんよ。自分にとっては特務機関の方ってすごい尊敬する軍人さんです」
「ほう、どうして?」
「だって、真っ先に敵地に潜入して、命懸けで敵の情報を探るんでしょ…普通の兵隊にはできない仕事ですから」
「そんなカッコいいもんじゃないけどね」
「いぇ、カッコいいです。危険を冒して味方を勝利に導く任務なんて、軍人なら誰でもあこがれますよ」
「そうかね~…命懸けの仕事ってそんなにカッコいいもんかな」
「ねぇ、どこで活躍されてたんですか?ソロモン諸島ですか?それともマレー半島とかジャワ方面とかですか?」
「う~ん」少年にそう問われた遼は、さすがに困ってしまった。
「あ、申し訳ありません。つい特務機関の方に会って興奮してしまって…軍事機密を聞いちゃいけないんでしたよね」
二人の困っている様子を察した少年は、深々と頭を下げて謝った。
「いやいや、そう恐縮して謝らなくてもいいよ」
「お許し下さい。もう二度と軍規違反を犯すような事はいたしません」
そう言うと、少年は黙りこくって遼と亮の着替えを手伝い始めた。
遼は何となく自分の少年時代を思い起こした。戦闘機や軍艦や戦車などの兵器にあこがれて、よくプラモデルをこしらえた。
軍事物の漫画を見たり小説を読んでる内に、いつしか軍事に関る仕事をしたいと思うようになり、軍事雑誌の記者になった。
写真を撮るのが好きだった亮は報道カメラマンになりたかったそうだ。子供の頃は、カメラマンのカッコよさに随分あこがれた。
どうせなるなら、戦場を駆け巡るカメラマンになってピューリッツァー賞を取りたい…なんて夢を抱いていたと聞いた事もある。
だが、現実はそうは行かない…大人になってたくさんの戦場カメラマンの死を見て、さすがに亮もビビッてしまったらしい。
男の子って、世の中の現実を知らない子供の頃は、何となくカッコいいものや、勇ましいものにあこがれたりするものだ。
そうして、大人になってから夢と現実の折り合いを付ける…まァ、二人とも軍事に携われるほどほどの場所に落ち着いた訳だ。
そんな自分たちが違う世界とは言え、まさか本物の戦争に関る運命になろうとは、今日の今日まで想像だにしなかった。