未来戦艦大和 第3章 「沖縄水上特攻作戦」(2)
彼らの会話が一段落したところで、草薙作戦参謀が話を切り出した。
「さて、我が艦隊の位置を掴んだ敵は、これからどう出て来るでしょうかね」
「航海長はどう思われますか?」羽生は、わざと草薙の話を成海航海長に振った。
「多分、沿岸部を航行している間は仕掛けてこんでしょう」成海航海長はそう答えた。
「どうして分かります?」話を振られた草薙は、逆に成海航海長に尋ねた。
「敵は本艦隊に航空支援がない事を知らない。沿岸部で仕掛けると、内地から飛び立った迎撃機に襲われる危険性がある。おそらく、艦隊が洋上に出てから、自分達に有利な条件下で仕掛けて来るでしょうね」
「僕もそう思います」羽生は、成海航海長の意見に同意した。
「そうなると、洋上に出てからが危ない…と言う事になりますね」来島参謀長がそう言った。
「南下すればするほど雲が厚くなってます。防空戦はやりにくくなるかも知れませんね」春日情報参謀が心配そうに言った。
「確かに、低く垂れ込めた雲間から飛び出して来て攻撃されたら厄介な事になりそうだ」草薙も、春日の意見に同意した。
「と、言って、南下して洋上に出ない訳にはいかない…か」
「僕に少し考えがあります」羽生は、にっこりと微笑んでみんなにそう言った。
「ここが大和の戦闘を司る中枢になります」
羽生が遼と亮を案内したのは、扇形の雛壇が並んだかなり広いスペースだった。
「やァ、駒之助さん。海軍特務機関の雨雲少佐と陣内大尉をご紹介します」
「よろしくお願いいたします」遼と亮は、扇の要の中心に位置する椅子に座っている人物に敬礼した。
「あァ、さっきの英雄さんっすか」
頭に掛けていたレシーバーを外してこちらを振り向いたのは、何と女性の指揮官だった。
羽生よりずっと年上に見える女性で、決して美人ではないが、どこか可愛気のある顔をしていた。
「彼女はね…下の名で呼ばないと怒るんですよ。砲術長の壱岐駒之助少佐です」羽生が、小声で遼と亮に言った。
「何、こそこそ話してるんっすか?司令長官」
「いや、駒之助さんは大和の全火砲を統制しているすごい人だって話していたんですよ。巡洋艦「青葉」の砲術士から腕を見込まれて戦艦大和の火砲担当に抜擢された凄腕の砲術長だってね」
「何、おだててるんっすか…何も出ませんよ。それよりお二人に聞きたいんっすが、敵の全艦隊が沖縄に集結してるって本当っすか?」
「全艦隊…と言うほどではありませんが、主力部隊の大半は沖縄方面に集まってますね」遼はそう答えた。
「じゃ、そいつらをぶっ潰せばアメリカに勝てる…って事っすね」
「ははは…相変わらず駒之助さんは剛毅だな~ …そう簡単に行けば苦労はしないんだけどね」
「なぁに、思いっきり46センチ砲を喰らわせてやったら、あいつらおったまげて跳んで逃げるに決まってますよ」
「分かりました、分かりました…その意気でお願いします。頼りにしてますよ。駒之助さん」
「任せて下さいっす!司令長官」駒之助は小さな…いや、ほどんどない胸を叩いてそう言った。
「元気のいい女性ですね~」
三人の参謀を戦闘司令室に残し、遼と亮を連れて機関室に行く道すがら、亮は羽生に言った。
「いやァ、あァ見えても心はとっても乙女なんですよ」羽生は笑いながら答えた。
どの艦船も同じだが、機関室はだいたい船の後部に付いている。ところが大和の機関室は艦の中央部にあった。
しかも、機関室と言うものはエンジン音が響いているのが普通だが、この機関室に至ってはやけに静かだった。
「おいっ!四番の出力が落ちてるぞ。少し上げろ」
「はいっ!了解しました。機関長」
機関室にに入ると、さっそく部下を叱咤する機関長の声が聞こえて来た。
「剛羅機関長。お邪魔いたします」羽生が声を掛けた。
「やっ、これは司令長官。わざわざどうも」剛羅機関長は即座に羽生に敬礼をした。
いかにも職人堅気と言った白髪交じりのいかつい人物だが、やさしそうな目をしていた。
「機関の調子はどうですか?」
「う~ん…万一に備えて餌を節約しながらやってますのでね。どうも喰い足りねぇようで、すねてまさァ」
「機関長には、いつもご苦労をお掛けします」
「いやいや、それが仕事ですからね…ところで、そちらさんは?」
「海軍特務機関の雨雲少佐と陣内大尉です。沖縄の敵地から帰られたばかりです」
「おぉ…そりゃァ、そりゃァ、こっちはこれから沖縄まで艦を引っ張って行くところでさァね」
「大変そうですね。大和にお世話になる事になりましたので、よろしくお願いします」
「なぁに、わしが世話できるのは量子機関ぐらいのもんで、人の世話はできそうにないが、よかったらくつろいでってくれ」
「ありがとうございます。それにしてもすごいエンジ…いや、機関ですね~」
それは、遼と亮には目にした事もないエンジンシステムだった。
機関室の通路の両側にズラリと卵形のドームが並び、何やらプラズマ状の光を放ちながら動作しているようなのだ。
タービンでもボイラーでもない、ましてや、自動車や航空機のエンジンとも違う。二人にはまったく未知の動力機関に見えた。
「どうでしたか?剛羅機関長は、見た目には無愛想に見えますが、なかなか面倒見のいい人ですよ」
遼と亮を剛羅機関長に紹介し、機関室を後にした羽生は、微笑みながら遼と亮にそう言った。
「えぇ、大和の乗組員ってみんな個性的で面白いですね」亮は却って面白がっていた。
「あの動力機関って、どんな仕組みで動いているんでしょうか?自分達には見た事がない機関に思えましたが…」
遼は、さっき目にした機関室の不思議な光景が気になって仕方がなかった。
「あァ、量子機関ですか。そうですね~…例えば、地球上には何かの物質と結び付く事によって、高いエネルギーを発する物質がいくつかありますよね」
「えぇ、石油とか天然ガスとか石炭がそうですね」
「あァ、あなた方の世界には、まだそんな物があるんですね」