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未来戦艦大和 第3章 「沖縄水上特攻作戦」(1)

 羽生は遼と亮を連れ、三人の参謀とスタスタと戦闘司令室の中央まで歩いて行くと乗組員全員に呼び掛けた。

「えぇ~…みなさんに紹介いたします」

 振り向いたクルーたちを見て、遼と亮はこれは目の錯覚ではないかとすら思った。

 女性が…それも若い女性が異様に多いのだ。4分の1…いや、3分の1が女性乗組員だと言った方がいいだろう。

(なぜこんなにも女性兵士が多いのだろうか?自分達の世界では、今でも戦争は男の仕事になっている。ましてや、戦艦大和の時代に至っては、女性兵士など一人もいなかったはずだ?)

 遼は不可解にすら思った。後に、羽生からその已むに已まれぬ事情を聞いた二人は、日本の置かれた驚愕の現実を知る事になる。


「こちらは海軍特務機関の雨雲少佐。その隣が陣内大尉です。お二人は沖縄に潜入して敵の機密情報を探り、帰還されたばかりです」

 羽生が遼と亮を乗組員に紹介すると、まるで、英雄を迎えたかのような歓声が戦闘司令室に沸き起こった。

「すでに、お二人から敵がどう撃って出て来るかをお聞きいたしました。今後も本作戦についてのご助言をいただく事になりましたので、みなさんもそのつもりでお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いいたします。みなさんとご一緒できる事を光栄に思います」

 万雷の拍手に戸惑いながらも、遼はとっさに取って付けたような挨拶をした。


 それから羽生は三人の参謀と一緒に、戦艦大和の主だった乗組員を遼と亮に紹介して行った。

「こちらが本艦の艦長、有馬大佐です。お隣が副長の能本中佐になります」

「よろしくお願いします」

 遼と亮が敬礼をすると、口髭を生やした恰幅のいい有馬艦長は、相好を崩しながら言った。

「いやァ、こちらこそ…海軍特務機関の方に来ていただいて幸いです。孫氏曰く「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」ですからなァ…敵の情報を持って来ていただいたのは大変ありがたい」

「どのくらいの数の敵が待ち構えているんでしょうか?」

 実務家らしい頭のキレそうな副長は、挨拶もそこそこに、早速、遼と亮にそう尋ねて来た。

「えぇ~っと…エセックス級の正規空母が9隻。後は~……」

 遼は、去年取材した記事を何とか思い出そうとしたが、口ごもってしまった。

 遼がちょっと困っているのを見て、すかさず羽生が助け舟を出した。

「詳しい事は、後ほど資料をお渡ししますよ。能本副長…それより艦長、お願いしたい事があるんですが」

「何でしょうか?司令長官」

「一時的に無線封鎖を解除させていただきますが、よろしいでしょうか?」

「本艦隊の位置が敵に知られてしまうのでは?」

「それも考えましたが、326名の人命には替えられませんので」

「と、言いますと?」

「来島参謀長。6時57分に駆逐艦の朝霜から機関の故障で遅れる…と言う連絡が入りましたよね」

「はァ、現在、後方から我が艦隊の後を追って来ているものと思われますが…」

「まもなく坊の岬を過ぎて洋上に出ます。もし、単艦でいる所を敵の艦載機に狙われたらどうなるか?」

「水雷戦を主目的に建造された駆逐艦には、充分な防空戦闘能力はありませんね」

「そう言う事です…よろしいですね。艦長」

「はっ!承知いたしました。司令長官」

 羽生は有馬艦長の了解を得ると、さっそく通信士の傍らに行って命じた。

「君、次の電文を駆逐艦の朝霜に打ってくれないか」

「はっ!了解いたしました。司令長官」

「<宛:第21駆逐司令 小滝大佐> ただちに本艦隊への追尾を中止して佐世保に帰到せよ <附:連合艦隊司令長官 羽生大二郎>」

 通信士はすぐに羽生に言われた通りの電文を打ち出した。だが、その送信方法は何とモールス信号だった。

(これほどのすごいテクノロジーを持ちながら、なぜモールス信号なんか使うのだろうか?データ通信はできないのか?この世界の仕組みがよく分からない)

 遼は不思議に思った。彼が抱いた素朴な疑問は、後にこの世界の通信事情を羽生から聞いて解ける事になった。

 ともあれ、羽生の取った行動は、遼と亮にとって彼を信頼のおけるよい指揮官だと思わせるに充分だった。

 羽生は、遼が見せた資料を生かして人命を救おうとしているのだ。二人は人の命を大事にする彼にいたく好感を感じた。


 無事に通信文を送った羽生は、遼と亮を成海航海長に紹介した。

「ご紹介します。成海中佐…海軍特務機関の雨雲少佐と陣内大尉です」

「よろしくお願いします」

 遼と亮が敬礼すると、成海航海長は耳に着けていたレシーバーを外し、屈託なく手を差し出して握手を求めて来た。

「やァ、こちらこそよろしく。少し、海がシケてるので乗り心地はよくないかもしれませんが…戦艦は初めてですか?」

「えぇ、空母…かな?には乗った事がありますが、こんなに大きな戦艦に乗るのは初めてです」

「あァ、空母か~…あれの戦闘司令室は狭っ苦しいからな~、ここは広いでしょう」

「えぇ、随分…それにここはすごい機器が揃ってますね~」

 確かに、遼と亮が取材で乗ったDDH護衛艦「いずも」のCICとは比べものにならないくらい大和のCICは広かった。

 それに、ずらりと並んだ未知の機器は、どれもこれもまるで未来の宇宙船が備えている設備のように見える。

「あァ、全部量子システムで構成されてますからね。演算速度は速いです。でも、それを扱うのが人間ですからね。神経の方が追っつかない」

「へぇ~…やっぱり勝負を決めるのは人次第って事ですか?」

 亮がいかにもカメラマンらしい事を言った。どんなにカメラが進歩しても、いい写真が撮れるか?撮れないか?は人の腕次第だからだ。

「こればっかりはね~…今も昔も、最後に決めるのは人間だって事ですよ」

 遼と亮は、何だか成海航海長の言葉に妙に納得した。どんなに科学が進歩しても、最終的には人間なのだ。

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