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未来戦艦大和 第1章 「可能性の未来へ」(1)

海上自衛隊が誇る最新鋭護衛艦「いずも」に乗船取材していた軍事雑誌記者の天雲遼と、カメラマンの陣内敦。

かって海軍鎮守府のあった呉港を出港した「いずも」は、訓練航海の為、太平洋戦争の激戦地だった沖縄を目指していた。

ところが、日向灘を航行中、突如発生した起こるはずのない巨大な渦潮に巻き込まれ、二人は海に投げ出されてしまう。

巨大な渦に飲み込まれて死んだと思った二人は、しばらくして、少しばかり奇妙な色をした海の上で意識を取り戻す。

そんな二人の目の前には、船体を銀色の鱗に包まれ、九門の巨砲と六門の副砲を備えた巨大な戦艦が浮かんでいた。

しかもその巨大戦艦は、日本にかって存在していたある有名な戦艦の姿ととてもよく似た形状をしていたのだった。

この世界はいったいどんな世界なのか?この世界でこれから何が起ころうとしているのか?


「未来戦艦大和出撃っ!おも舵いっぱ~ぃ!よぅ~そろ~…」

「敵艦隊発見っ!方位、ひと、ふた、まる…本艦に向かって来ますっ!」

「46センチ砲、照準合わせ~っ!発射準備よ~いっ!」

「撃て~ぇっ!!」

あの世界の事をどうやって説明したらいいのだろうか?

きっと、誰に話しても本気にはしてくれまい…だって、あの世界は誰の目にも見えず、誰にも観測できない世界だからだ。

でも私…軍事雑誌「旭日」の記者、天雲遼と、カメラマンの陣内亮は、確かにあの世界にいて、あの世界の出来事を見て帰って来た。

亮は、あの世界でたくさんの写真と動画を撮ったはずなのだが、それらはこの世界に帰って見ようとしたらすべて失われていた。

私が書いたパソコンの記録も全部消えていた…それは、不可逆な時の流れを逆行したからなのか?それとも時空の構造によるものなのか?

あの世界を調べる手段すらないので、原因は分からない…だから、今手元に残っているのは、私が書いた手書きのメモしかない。

それと二人の記憶…それだけを頼りに、あの世界で起こっていた出来事をみなさんにお話したいと思っています。

信じる?信じない?は個人の自由なので、敢て強制はいたしません。まァ、私の妄想だと思って読んでいただいても構いません。


その世界は、私たちの世界ととてもよく似ていました…ただ、似ていると言う事は、随分異なったところもあると言う意味です。

空や海の色、空気の香りにもズレがあり、何よりも時間の流れが違っていた…その世界は、私達の世界より千年も時が進んでいました。

ただ、それが未来なのか?…と問われると迷います。もしかしたら、我々が過去に置き去りにした「可能性の世界」だったかも知れない。

そこでは、私たちの世界で何十年か前に起きた事ととてもよく似た出来事が、まったく違った形で進行しつつありました。

私=天雲遼と陣内亮は、その世界で偶然ある船に乗る事になりました。九門の大きな主砲と、六門の副砲を持つ巨大戦艦。

それは、みなさんがよくご存知の「艦名」を持ち、形状のよく似た…しかし、まったく異なった機能を備えた戦艦でした。

そこで、私たち二人はある一人の青年と出会い、彼のお陰でその世界を見て回る事ができました。

彼は軍人でありながら、戦いよりも平和を模索していました。彼のような青年は、なかなか我々の世界にもいないだろうと思います。

だから、これからするお話は、我々の世界への彼からのメッセージだと思って読んでいただいても構いません。


「では、これで…後は飛行甲板の方はご自由に取材なさって下さい」

 海上自衛隊の最新鋭DDH護衛艦「いずも」の広報担当官、青木一尉は笑みを浮かべながらそう言った。

「ご案内ありがとうございました。お陰で助かりました」天雲遼はお辞儀をしながらお礼を言った。

「いぇいぇ…これも、国民の皆様に海上自衛隊を知っていただく為の私の任務ですから…」

「いや~…こちらこそ大事な訓練航海中にお手間を取らせて申し訳ありません」

「まァ、沖縄の那覇軍港までですから…わずか一日の行程ですよ。着いたら降りていただく事になりますが…」

「沖縄までわずか一日!…随分早いんですね~」

「今回の航海は、高速度航行テストも兼ねてますからね」

「どのくらいのスピードが出るんですか?」

「公式発表では30ノットになってますが、エンジンをフルに回せば33ノットくらいは出るんではないでしょうか」

「33ノット!…こんな大きい船なのに凄く早いんですね~」

「基準排水量は19500トンです…海上自衛隊では一番大きな船になりますね」

「今、どの辺りを走ってるんでしょうか?」

「ちょうど宮崎県沖の日向灘くらいではないでしょうか」

「呉の基地を出港してからもうそんな所まで…さすがに海上自衛隊の最新鋭艦だなァ」

「いぇいぇ…随伴してるイージス艦も最新鋭艦ですよ~…そちらの方もお忘れなく」

「はい、しっかり海上自衛隊のいい所を取材させていただきます」

「お願いしますよ~…では、これで失礼させていただきます」

 青木一尉はそう言うと、二人に一礼して去って行った。


 軍事雑誌「旭日」の記者天雲遼と、カメラマンの陣内亮は、取材のため、海上自衛隊の最新鋭護衛艦「いずも」に乗船していた。

 日本が誇るDDH護衛艦「いずも」は、広い飛行甲板を備えた海上自衛隊の空母型最新鋭護衛艦だ。

 だが、その飛行甲板には戦闘機の姿はない。これは対潜水艦用の護衛艦で、搭載しているのはSH-60Kなどの対潜ヘリコプターだからだ。

 それでも、全長248メートルの巨大な船体は、かって日本海軍の象徴であったあの戦艦大和にも匹敵する大きさになる。

 面白い事に、戦艦大和が64000トンだったのに対して、同じ大きさでも「いずも」は19500トンと随分軽量に作られている。

 それもそのはず、戦艦大和は41センチの鋼鉄の装甲を施していたが「いずも」には鋼鉄の装甲はない。それどころか、至る所に軽量合金が使われている。

 1945年4月7日の天一号特攻作戦で、米軍は戦艦大和を撃沈するのに12本もの魚雷を使った。だが、今ならミサイル一発で撃沈できる。

 兵器の命中精度や破壊力が格段に進歩した現代戦では、鋼鉄の装甲は船が重くなるだけで、まったく意味をなさないのだ。

 ちなみに、戦艦大和の46センチ砲に使われる九一式徹甲弾は、1.46トンの爆弾に相当し、その射程距離は42キロに達する。

 だが、米軍のトマホーク巡航ミサイルは、核爆弾も搭載出来て、2500キロの射程距離を持のだから、比較にすらならない。

 兵器の進歩と言うのは凄いものだ。第二次大戦からわずか70年足らずで、人類は世界を20回以上破壊できる力を手にしてしまった。

 戦艦大和は、誕生してからわずか四年で、鹿児島県坊の岬の南方、北緯30度22分、東経128度04分にその短い生涯を終えた。

 神話の国の名を冠した「いずも」にはいつまでも洋上に優美な姿を浮かべていて欲しい…天雲遼はそう願わずにはいられなかった。

 今日はあいにく雲が低く垂れ込めて、風は湿り気を帯びている…そう言えば、大和が沈んだ日もこんな空模様だったと聞いた。


「お~い、遼ちゃん。こっち来なよ~…ここからだとよく見えるよ~、海」

「いずも」の飛行甲板の先端に立って、カメラを構えながら亮は遼を呼んだ。

「おい、おい…そんな甲板の先に立ってたら危ないぞ~!亮ちゃん」

「平気、平気って…このアングルからだと迫力ある写真も撮れそうだし…」

「も~ぅ…海に落ちても知らないぞ~!」

 遼は、そう言って笑いながら亮の側に行った。確かに舳先に立つと、船のスピード感をもの凄く感じる。

 切り立った船首が、白波を蹴立てながら海を切り裂いて、風がビュンビュン後ろに流れて行く。

「あれっ?前方の海…何だか光ってないか?」カメラのファインダーを覗いていた亮が、ふいにそう言った。

「そう言やァ、何か光ってるな?…何だろう?真っ昼間に海蛍なんて聞いた事もないし…」遼も不可解に思った。

 よく見ると、波を蹴立てて前進する「いずも」の前方の海面が、ぼんやりとした光を放っている。

 遼と亮が呆気に取られて見ていると、海面が一気に盛り上がって来て、うねりながら渦を巻き始めた。

「見て見て、遼ちゃん。渦潮だよっ!」亮が、珍しいものを見つけた子供の様にはしゃいだ。

「あっ?ホントだ!」遼も思わず身を乗り出した。

「凄いなァ、どんどんデカくなって行くっ!」

「あァ…でも日向灘って、こんな大きな渦潮が発生する海流の潮目ってあったっけ?」

 遼が考えている間もなく、巨大化した渦潮は、まるで「いずも」を飲み込むかのように急速に近づいて来た。

 途端に「いずも」は、難を避けるために大きく舵を切った。

「あっ!」

「ああ~っ!」


 それは一瞬の出来事だった。

 ハッ!と気が付いた時には、遼と亮の二人の体は「いずも」の飛行甲板から放り出されていた。

 ドボンッ!…と、海の中に落ちた二人は、体制を立て直す暇もなく渦の中に引き込まれて行った。

 泳ごうとしても体がぐるぐる回ってしまって、遼も亮も、ただもがくばかりでどうする事もできない。

「おいっ!亮ちゃ~ん…」遼は声にならない声をあげた。

 横に目をやると、すぐ側に体を丸めて懸命にカメラバッグを抱えている亮がいた。

(何やってんだ?アイツ…こんな時に)

 そういう自分も、いつの間にか取材用のノートパソコンの入ったバッグを抱えている事に気がついた。

(あァ、防水仕様でよかった~)そんな思いがふっと遼の頭をかすめた。

(…って、何考えてんだ~俺もっ!死ぬかも知れないって時に~!)

 人は死がさし迫って来ると何を考えるのだろうか?何とかして死と言う現実から目をそらそうとするだろう。

(人は死ぬ前には頭がおかしくなるのかなァ…まァ、そりゃ死ぬ訳だし…)

 遼がそんな事を考えている間もなく、二人は渦潮の真っ只中にどんどん飲み込まれて行った。

(あァ、とうとう俺たちは死ぬんだ…何でだよ~!)

 あきらめようにも、あきらめ切れない思いが胸をよぎった…幼い子供と妻の顔が遼の脳裏に浮かんだ。

(アイツ、俺がいなくなったらどうするんだろうな?)

 しかし、意識が遠のくにつれて、もうそんな事はどうでもよくなった。

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