とある後日談~序
時間軸は、第1幕~第⒉幕の間くらいになります。書きそびれてましたが、連載時におぼろげに浮かんでいたエピソードになります。
しきメール。
それは、どこかで小耳に挟んだ都市伝説。
その、方法。
深夜の二時から三時の間に、誰もいない場所で。
自分の携帯電話から、送信先を自身のアドレスに指定してメールを送る。
件名『シキ』として、文面の全くない空メールを送る。
普通だったら、当たり前のように、自分のアドレスから空メールが届くはず。
けれど、特定の人間に対しては……
送信者『紫姫』
件名『四期』
文面『わたしに、逢いたいの?』
「……へえ」
都市伝説に従って、自分のスマートフォンからメールを送った俺は――
「すげえ、ただの噂話じゃなかったんだ」
深夜二時半、誰もいない自室。
送信されてきたそのメールを見て、思わずつぶやいていた。
眉唾だと思っていたけれど、本当に怪奇現象が起きた。
そうして――その事実が、
俺に、教えてくれたんだ。
毎日が、空っぽだ。
生きていても空しいだけ。
俺――加賀哲也は、高校生になったばかり。どこにでもある中流家庭で、生活に不安はない。
共働きの両親はそこそこに稼いでいて、金には困らない。普通に学校には通わせてもらっているし、小遣いだって不自由はない。
別に、虐待されているわけでもない。
もっと不幸な人間は、いくらだっている。
そんなことは、わかっている。
だから、生きていて辛いなんて――おこがましい。そうだ。別に、大したことじゃない。
そう、言い聞かせてきた。
これまで、ずっと。
出来のいい弟。
両親の関心は、そちらだけに向いている。愛情の温度差。物心ついた頃から、ずっと感じてきた。そのことが、少しづつ。だけど、確かに、俺の心を傷付けてきた。
真綿で首を絞めるように、まるで遅効性の毒のように。
涙が、出るほどじゃない。
ただ、心の底からの笑顔を忘れてしまった。
作り笑いにも、もう飽きた。
だから――
知りたかったのだ。
自分の本心を。このまま、生きていたのか、それとも――
「……そうか」
まるで他人事みたいに、俺の口を突いて出た。
「俺は――死にたかったのか」
これであと三回。合計で四回メールを行えば、『死姫』という名の死神がやってくる。そうして、苦しまずにあちら側に連れていってくれる。噂の通りならば、そうなるはずだった。
「…………」
俺は少し考えて、ためらう。
二回目のメールは、すぐに送らなかった。
死にたい。
自分の本心が分かって、それだけで、少し安心してしまった。
その日は、そのまま眠りについた。
◇
「……んあ」
俺は、目を覚ました。
自分のベッドの上。
どうやら、夢を見ていたようだ。
三年前、俺がまだ高校生だった頃。
『しきメール』という都市伝説を試した記憶。
あれから、三度メールを送った。
けれど、俺は死ぬことはなかった。
そりゃ、そうだ。
死んでいたら、俺はこうやって生きていない。
噂は、眉唾だったわけじゃない。確かに、『死姫』は――そう呼ばれるに足るだけの存在は、やってきた。
相手は、女ではなくて、同じくらいの年齢に見える少年だった。多分、悪霊とかそんな感じ。無念を残して、成仏できなかった魂らしかった。
それで俺が連れていかれて、終わり。
けれど、そういう展開にはならなかったのだ。
俺は、死ななかった。
彼女に、助けられたのだ。
あまり長くはなりません。次回更新は、5月2日の予定です。
よかったら、お付き合いください。