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むらさきひめ  作者: ハデス
第弐幕
46/49

とある後日談~序

 時間軸は、第1幕~第⒉幕の間くらいになります。書きそびれてましたが、連載時におぼろげに浮かんでいたエピソードになります。

 しきメール。

 それは、どこかで小耳に挟んだ都市伝説。

 その、方法。

 深夜の二時から三時の間に、誰もいない場所で。

 自分の携帯電話から、送信先を自身のアドレスに指定してメールを送る。

 件名『シキ』として、文面の全くない空メールを送る。

 普通だったら、当たり前のように、自分のアドレスから空メールが届くはず。

 

 けれど、特定の人間に対しては……


 送信者『紫姫』

 件名『四期』

 文面『わたしに、逢いたいの?』



「……へえ」


 都市伝説に従って、自分のスマートフォンからメールを送った俺は――


「すげえ、ただの噂話じゃなかったんだ」


 深夜二時半、誰もいない自室。

 送信されてきたそのメールを見て、思わずつぶやいていた。

 眉唾だと思っていたけれど、本当に怪奇現象が起きた。

 そうして――その事実が、


 俺に、教えてくれたんだ。


 毎日が、空っぽだ。

 生きていても空しいだけ。

 俺――加賀哲也は、高校生になったばかり。どこにでもある中流家庭で、生活に不安はない。

 共働きの両親はそこそこに稼いでいて、金には困らない。普通に学校には通わせてもらっているし、小遣いだって不自由はない。

 別に、虐待されているわけでもない。

 もっと不幸な人間は、いくらだっている。

 そんなことは、わかっている。

 だから、生きていて辛いなんて――おこがましい。そうだ。別に、大したことじゃない。

 そう、言い聞かせてきた。

 

 これまで、ずっと。

 

 出来のいい弟。

 両親の関心は、そちらだけに向いている。愛情の温度差。物心ついた頃から、ずっと感じてきた。そのことが、少しづつ。だけど、確かに、俺の心を傷付けてきた。

 真綿で首を絞めるように、まるで遅効性の毒のように。

 涙が、出るほどじゃない。

 ただ、心の底からの笑顔を忘れてしまった。

 作り笑いにも、もう飽きた。

 だから――

 知りたかったのだ。

 自分の本心を。このまま、生きていたのか、それとも――


「……そうか」


 まるで他人事みたいに、俺の口を突いて出た。


「俺は――死にたかったのか」


 これであと三回。合計で四回メールを行えば、『死姫』という名の死神がやってくる。そうして、苦しまずにあちら側に連れていってくれる。噂の通りならば、そうなるはずだった。


「…………」


 俺は少し考えて、ためらう。

 二回目のメールは、すぐに送らなかった。

 死にたい。

 自分の本心が分かって、それだけで、少し安心してしまった。

 その日は、そのまま眠りについた。


        ◇


「……んあ」


 俺は、目を覚ました。

 自分のベッドの上。

 どうやら、夢を見ていたようだ。

 三年前、俺がまだ高校生だった頃。

『しきメール』という都市伝説を試した記憶。

 あれから、三度メールを送った。

 けれど、俺は死ぬことはなかった。


 そりゃ、そうだ。


 死んでいたら、俺はこうやって生きていない。

 噂は、眉唾だったわけじゃない。確かに、『死姫』は――そう呼ばれるに足るだけの存在は、やってきた。

 相手は、女ではなくて、同じくらいの年齢に見える少年だった。多分、悪霊とかそんな感じ。無念を残して、成仏できなかった魂らしかった。

 それで俺が連れていかれて、終わり。

 けれど、そういう展開にはならなかったのだ。


 俺は、死ななかった。

 彼女に、助けられたのだ。


 あまり長くはなりません。次回更新は、5月2日の予定です。

 よかったら、お付き合いください。

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんばんは、御作を読みました。  懐かしいですね。  視点が変わったことで、また雰囲気が変わって……  結構、いい感じに都市伝説色が出ていて良かったです。  続くのでしょうか? 楽しみにし…
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