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むらさきひめ  作者: ハデス
第壱幕
2/49

かたりはじめ

 それは、とある少女の物語。

 これは、彼岸の果てに語られる物語。

 いくつもの欠片を拾い集めて、色成す物語。



 見上げる空は、一面の灰色でした。

 あの分厚い雲の向こうには、いつか見た青い空が広がっているのでしょうか?

 まわりは、鉛色の石が敷き詰める川原でした。

 こうやって、拾い集めた小石を積み上げていけば、いつかは空にも届くのでしょうか?


 突き立った真っ白い風車達は、まるで無数の墓標でした。

 冷たい風を受けて、回っています。

 くる、くる、くる……と。物寂しく回ります。

 囁くように、物哀しく回ります。

 

 ふと。

 轟、と一際強く。

 風が、吹き抜けました。

 肩までかかるわたしの黒髪が、大きく舞って、ほんの一瞬だけ視界を遮りました。

 ああ……また、ひとつ。

 声が、届きました。

 いつものように。

 いつかのように。

 

 ――誰かの声が、わたしに届きました。

 

       ◇


「…………」


 わたしは、上着のポケットをまさぐります。

 それは、色彩の死んだこの世界では、あまりにも場違いでした。

 まるで、灰色の中の一点の染みのように。

 薄紫色の、古びた携帯電話でした。


「また、呼び出しかよ」


 不意に、声が耳を打ちます。

 突然現れたわけではありません。

 ずっと、わたしのそばにいて、飽きることなくだんまりの彼でした。

 時代錯誤の、はかま姿の青年。


 その腰に刀でも帯びていれば、時代劇の武士といった感じでしょうか。わたしよりも頭二つは高い長身。

 精悍な顔立ちに、皮肉そうな……それでいてどこか優しげな表情を浮かべています。

 そんな青年と向かい合うのは、セーラー服姿のわたし。

 その不釣合いを奇妙に思う誰かは、この場にはいません。


「……そうみたいだね」


 わたしは携帯電話の画面を開いて、着信を確認します。

 見知らぬ名前。

 見知らぬ誰か。

 それも、いつものことです。


「で、また行くのかい? 主殿」


「仕方ないよ」

 

 もう一度、空を見上げました。

 

 そこには、頭上を旋回する一匹の鳥の姿がありました。

 視線に気が付いて、降り立ってくる真っ白い小鳥は、わたしの肩に器用に止まります。


「行こうか?」


 その首をそっと撫でると、了解したとでも、くちばしを傾けました。

 歩き出すわたしの後ろで、「やれやれ」と。聞こえよがしに溜め息をつくのが聞こえました。それでも構わず、わたしは歩いてきます。

 やっぱり何時もの通り、その気配がついてきました。


 いつものことです。

 乗り気ではなさそうなことを言いながらも、わたしの行動に呆れながらも、少しだけ皮肉を乗せつつも……彼はそうして付き添ってくれるのです。

 出会った時から、彼が……わたしのそばにいることを望んでくれた日から。

 彼は、彼らは、ずっと。

 わたしのそばにいてくれます。

 


 轟、と。

 今一度。

 大きく、風が吹き抜けました。

 そうして、わたしの姿はそこから消えています。


 わたし達がいなくなったその場所で、相も変わらず、風車は回り続けます。

 くる、くる、くる。

 来る、繰る、繰る……と。

 

 静かに、哀しく、寂しく、回り続けるのです。

 

 

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