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女の皮膚  作者: 堀 稲子
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第一回

昭和30年 7月24日

なんとまあ、大した掌返しだこと。


麻の市松模様のワンピース姿の女は思う。戦時中はあんなにも「鬼畜米英鬼畜米英、敵性言語」だなんて言っていたくせして今では外人相手に体を売るパンパン、闇市の商品は在中米軍から流れてきたものばかり。おまけに日本人より外人のほうが商売になると猫も杓子もそっちにばかり気を使うのだから、これ程都合よく生きるのは敗戦国ならではの生きる術なのであろうが。


 もはや戦後ではない、なんて嘘ばっかりじゃない。

そう毒づいて足早に書店へ向かう最中、時折物乞いを見かける。口を開くのさえ億劫なのか空き缶を差し出すだけだ。

 そうよ、これは偽善なのよ、だってみんな思うじゃない、「自分じゃなくてよかった」って。

小銭を一枚、かんからかんに落とすと名前通りに「カランカラン」と寂しい音を出す。酷く自分が惨めに、滑稽に感じたのは物乞いではなく女のほうだった。

書店にはそれなりの本がところせましと並べられていた。坂口安吾の堕落論は文学に傾倒する若者を中心に大変議論されてるが彼女はあまり興味を示さなかった。「東大生が読めばいいのよ」と皮肉めいてさえいるのだ。

「いらっしゃい、市松のお嬢さん」

白髪交じりの店主は四十代に見えるがまだ三十前半の体格のいい男である。激戦区の南方で出兵し奇跡的に無傷で帰ってきたと当時この界隈で話題になったものだ。その代償としてなのか実年齢よりも随分老けて見え、時折虚ろな目をする。

市松のお嬢さんと呼ばれた市松模様の服の女は二十歳の女盛りで、ちょうど十歳の時に茹だるような暑い日に玉音放送を聴いた。すすり泣く両親達は照りつける暑さの中、皇居に向かって必死に額を地面に擦り付けていた。一番上の兄は海軍に入隊希望だったと聞いていたのでそれこそ行き場のない熱はどこに放出していいのか分からずじまいだったに違いないだろう。

幸いなことに大きな農家に生まれた彼女は食物には困らなかったし田舎だった為大きな空襲もなかった。いや一度、本当に大きな空襲がこの辺りを襲ったが、祖父母も両親もあまり口に出さない。

大空襲だった、とたった六文字なのだ。叫んだ、喚いた、泣いた、死んだ、壊れた、失った。

最も恐ろしかったのは防空壕に逃げ込んだ人々が、安全地帯のはずの防空壕の中で焼死したことだろう、確か街に嫁いだ従妹も亡くなったらしい。

この商店街一帯も立ち直っている最中なのだが傷痍軍人、物乞いなど暗い部分は残っている。


お嬢はふらふらと市松模様を揺らしながら店内を闊歩する。

だから、目に飛び込んできたビー玉に気付かなかった。

女のより大きな、澄んだ瞳だった、なにより片目だったのがより一層不気味で、綺麗に見せた。

自分と同じアジア系の深い深い焦げ茶にも関わらずそれは光って見えた。

狭い店内で、男がこちらへ向かってくるので慌てて道を譲った。足を引きずっているように感じたので恐らく戦時中に負傷したのだろう。そんな人間はここいらでも大勢いた。

片腕が無い、口がきけない、失明、下半身不随……。

多くは戦場に駆り出された徴収兵だった。伯父にあたる青年は嫁を貰う前に志願兵で海軍になり、太平洋のどこかの海に十年間眠っている、と紙切れ一枚と一緒に母から聞いた。

本当はいい人がいたらしいがよくある話の様に自分が帰ってこられなかったと思うとどうしても祝言を挙げる気にならなかったらしい。

そしてよくある話のように青年は散って行った。

そしてよくある話のように女性は悲願した。


少し、肩が触れた、それだけだった。白いシャツは日焼けした肌を際立たせている。

自分にはないもの。治世子は何故だかどうしようもなく惹かれ、また目頭が熱くなるのを感じた。

初めまして、堀稲子です。果たしてどんな反応が返ってくるのか疑問です。

小説書くのは慣れていないので「ヘタクソ!」と思われるでしょうが耐えてください。


こんな小説ですが少しでも楽しんでいただけたら幸いです。よかったら最後までお付き合いください。

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