後編(最終章) 行け!アンティークアール!
「ラストアールジェネラル。」
「…ラスト、アール、ジェネラル…。」
私の知り得る限りの情報をレティングに伝えた。
ソイツのAI…頭のよさは特に優れていること。
鉄や銅という、石の強化版である鉱物資源を手に入れた場合、
自力でアンティークアールやミサイル…命中させたい所へ自動で飛ぶ石を作れること。
でも、今ならまだ手に入れてはいないだろうということ。
そして、鉄や銅を求め、鉱山のある場所にソイツは進んでいて、
いる場所はある程度推測できるということ。
おそらく、穴を掘るためのドリル…錐の強化版とかは持っていて、素手ではないだろうということ。
「駒の方は素手だったじゃんか。」
「テクギー軍は、まさか私達がアンティークアールを送り出すなんて思ってなかったのよ。
だから、対アンティークアール戦の装備は全く考えていなかった。
ラストアールジェネラルが持ってると思われるドリルだって元々、穴を掘るためのものだし…。」
「なんでお前のは、剣しか持ってないんだよ。
そのミサイルってやつを持っとけばよかったのに。」
「消耗品に時間をかける余裕がなかったのよ。
あの剣一本作るのだって、相当の時間がかかったわ。」
「…レティング、今まで本当にありがとう。」
「なんだよ、いきなり。」
「これから私は、最後の戦いをしてくるわ。…さようなら!」
「お、おい、待ってくれ!」
「…え?」
「俺に…できることってないかな?」
「気持ちはありがたいけど…過去の人間を巻き込むわけにはいかないわ。」
私は彼に背を向け、アンティークアールの元へ急ぐ。
「…そんなこと関係ねえよ!」
私は少し、驚いた。
「過去とか未来とか、今はそんなもん関係ねえよ!
俺…お前のこと、なんとなく赤の他人じゃない気がするんだ。
頼む。俺にできることがあったら言ってくれよ、なあ!」
セスナは俺に振り向いた。
彼女の頬に、涙がつたっていた。
「…一緒に…行ってくれない?」
「!…もちろんさ!」
俺は、たとえどんな結末が待っていようと、セスナと行動を共にする。
やってやる。やってやるさ!な、セスナ!
俺達はアンティークアールの小部屋に入り、彼女は平たい縄で自身の体を椅子に固定した。
「ああ、これ?シートベルトよ。」
俺は邪魔にならないよう、椅子の背もたれをつかんで後ろに立った。
そして俺達は、アイツがいると思われる場所へ向かった…。
「見て…ラストアールジェネラルよ。」
私のほぼ予想どおりの姿をしていた。
ソイツは両手で大きなドリルを一つ持ち、穴を掘っていた。
そして、予備と思われるドリルや、シャベルを背負っていた。
「すげえ…。」
俺はそう思った。
俺達のアンティークアールより、一回り大きかった。
まさに支配者のような風格が、ソイツにはあった。
「…相手も気づいたようだわ。いい?これが最後の勝負よ!」
「ああ!」
ソイツは胴体の蓋を開いて、何かを放出してきた。
「お、おい…あれって、ミサイルって奴じゃないのか!?」
「嘘でしょ!?」
俺はあんな石を初めて見た。
数個がこちらへ向かってくる!
それをセスナはなんとか避ける、上手い!
ドガーン!
「キャー!」
「ウワーー!」
一個が左腕に当たり、吹き飛んだ。
「ハア…ハア…。」
セスナの手が震えている。
俺は、彼女の右手の上にそっと両手を置いた。
「大丈夫だから!」
戸惑う私に…レティングはそう言った。
懐かしい感じがし、私は落ち着きを取り戻した。
…そう…たぶんこの人は…。
「今ので、ミサイル全部使っちまったんじゃね?」
「ええ、たぶん。」
俺達とアイツはお互い、にらみ合いながらゆっくりと近づく。
物凄く長い時間が過ぎるような気がした。
ウィーン…
敵のドリルが唸り声を上げた。
凄い…もの凄い速さで回転している。
ドシンドシン!
お互いに駆け寄る。
敵のドリルの一突き。
セスナは軽く避け、ドリルに一振り。
ジャキーン!
「よっしゃー!真っ二つ!」
すると敵は、背負っていたシャベルを両手で構える。
カチーン!
剣とシャベルの一騎打ち。
だが、俺達の人形がパワー負け。吹っ飛ぶ。
「キャー!」
「ウワーー!」
ドシン!
俺達の人形は仰向けに倒れた。
パワーでは完全に負けだ。だが、スピードなら!
「やっちまえ!」
「分かってるわよ!」
立たせ、もう一度勝負!突撃だ!
敵のシャベルの一振りを華麗に避け、アンダースロウで敵の左腕へ一振り。
ジャキーン!
「よっしゃー!またまた真っ二つ!」
シャベルが宙を舞う。
勝てる!
…そう思った矢先…!
「キャア!しまった!」
敵は即座にもう一つのドリルを右手に持ち、突いてきたのだ。
避けようとするも…俺達の人形の右指が少し当たり、破損してしまった。
剣は地面へ落ちた。もう剣は持てない。
「ダメ…もう勝てないわ!」
「落ち着けセスナ!まだ手はあるはずだ!」
「手はないわよ!パワーで負けてるし、剣も持てないし…。」
セスナの手がまた震え始めた。
「大丈夫だセスナ!後は俺に任せろ!」
「でも…!」
「絶対にお前のこと、守ってやるよ!」
俺が操作することにした。
取り合えず、スピードを生かして相手を翻弄しつつ、俺は必死に考えた。
「どうする、どうする!?」
ふと、さっきのシャベルが地面に突き刺さっているのが見えた。
…あれだ!
「やってやる!」
そのシャベルを右の脇と腕でしっかりと固定し、地面から引き抜いた。
これで突撃してやる!
「ウオオオオオオオ!
行け!アンティークアーーーール!」
全速力でラストアールジェネラルの懐へ近づいた!
敵はドリルで突いてくる!
左足がやられた。だが!
右足に全身の力を込め、ジャンプ!
ズザーーーン!
…シャベルは、敵の胴体を完全に直撃した。
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「…なあ、もう帰っちまうのか?」
「ええ、今までありがとう。」
「また、会えるよな?」
「ふふ、さあ。無暗に歴史に介入しちゃいけないから。」
私はレティングと向き合う。
「…レティング。本当にありがとう。
あなたがいなかったら私、この任務を達成することができなかったわ。」
「ははっ。こっちこそありがとな。
楽しかったぜ。」
「パン、おいしかったわ。…さようなら!」
「ああ、じゃあな!」
私はコクピットに乗り込み、時空転送機を起動させた。
そして、目をつぶって深呼吸をした。
…最後に、こう呟く。
「…ありがとう、私のご先祖様。」