涙子と手牌の違和感
「あー……まずは確認させてくださいね。この麻雀荘『銀ノ河』にいた天王子実って男が、麻雀の対局中に突然苦しみ出し、その後死亡した。一緒に麻雀していたのは……知り合いの海野渉さん、ここでアルバイトをしている大学生の太田陽介さん、そして……」
「ははは、ご無沙汰しております。春日井警部」
心なしか、涙子さんの口から出た台詞は嫌味のように聞こえた。
「はぁ……。月島涙子、太田さんと同じ大学の生徒。んで、またお前か?」
涙子さんの嫌味っぽい台詞がかわいく思えるほど、嫌味と煽りを込められた言葉だった。
「その節はどうも」
「今日はあの女の付き添いか? やっぱり知り合いだったのかよ、お前ら」
そういえば、公共プールの事件の時に涙子さんは警部に電話を入れて、僕の推理が止められるのを防いでくれたんだっけ。それで警部は僕と涙子さんがそれ以前からの知り合いだったと思っているようだけど、涙子さんと顔を合わせてから一週間くらいしか経ってないんだよね。
僕らは今、麻雀を行っていた卓から少し離れた卓。そこに僕達は集められた。
先ほどまでに涙子さん達が麻雀を楽しんでいた卓は、天王子さんの椅子が倒れ、周辺にはコップのガラス片が散乱している。
「警部。亡くなった天王子と言う男の身元なんですが」
春日井警部の傍に駆け寄ってきた若い刑事が警察手帳を縦に持ちながらそう告げる。
「どうだった?」
「被害者の天王子実さんは元会社員で、最近この辺りに引っ越して来たようです。家族はおらず、近所付き合いはほとんどなかったようですよ」
「元構会社員ねぇ。するってーと、今は?」
「日雇いの仕事を月に何度かしていたようです。定職についている様子はありません」
「どこから引っ越してきたのか、わかるか?」
「かなり住まいを転々としていたようですね。新潟、埼玉、東京、大阪、それ以前にも何度か」
「警部。一ついいかな?」
涙子さんだ。
「なんですかねぇ、探偵さん? 申し訳ないけど、うちらはまだ職務中でして」
「その男は、かなりナマりの強い下関弁を使っていた。山口方面や九州地方の出身者である事は確かだと思うのだが」
「はぁ、そうですか。さすがに耳はよろしいようで」
「ああ。だが出身地が九州であっても、そこの会社員であったかどうかはわからないがな」
「それはこれから調べるさ。海野さん、あんた被害者と知り合いなんだよな?」
「え、ええ……」
「彼はどんな人でした? いつからの知り合いで?」
「あの人とは、その……昔同じ会社で働いていた頃からの仲だったんで」
「ほう? その会社ってのは?」
「もう倒産した会社ッスよ。一年前くらい前に買収されて、その時にやめたんで」
一年前、と言うと……。
「名前が思い出せんが、金田源次郎と言う男に買収された企業か?」
「そ、そうだよ。涙子ちゃん、よく知ってるね」
「……あんたの祖父か。んで、あんたら無職は昼間っから学生と麻雀かよ」
「いやいやいや、今日の夕方に新しい職場を紹介してくれるって人と待ち合わせていたんッスよ。天王子さんと一緒に。その暇潰しに、肩慣らしに打とうかって話になって」
と、海野さんは両の掌を見せて刑事達にそう説明していた。
「あの、涙子さん」
「ん、どうした?」
「海野さんの事なんですけど、夕方からの待ち合わせって……」
「賭博相手だと思ったんだが、案外そうでもないのかもな、と信じるのは簡単だ。問題は、どこか本当で、どこが嘘かだ」
「死因は毒殺って言う話ですけど、いつ毒を……」
「対局中、天王子に近づいた者はいたか?」
「いえ、誰もいませんでした。それどころか、この店には僕達とオーナー以外、誰も……」
そういえば、オーナーはどこに?
「オーナーなら、奥の部屋で寝てやがるよ」
「うわっ、春日井警部!?」
「うわっ、とはなんだ」
「春日井警部。オーナーは昼時、麻雀荘こそ開けているものの寝ていることが多い。アルバイトの太田君がいたから、大丈夫だと思ったんだろう」
「揺さぶっても起きやしねぇんだよ、あのクソじじい……。お前達の証言も聴きたいから、とっとと話して大人しく端っ子で大人しくしてろ」
僕達が無関係なら絶対に追いだしてやるのに、ともう目が語っている。それほど威圧的な態度で、警部がメモを開き、質問をしてきた。
「月島涙子、お前はどこに座っていた?」
「死亡した天王子さんの左隣だ。正面に海野さん、右に太田君だ」
「高校生、お前は?」
僕には名前ないんですね。
「僕は涙子さんの後ろの椅子で、麻雀を眺めていました。四人が休憩に入った時以外は、席を立っていません」
「はいよ」
「ところで警部」
「あ?」
「死因は毒物による心臓発作なんだろう?」
「まーた捜査に口出しですか。探偵さん」
「毒がついていたのはどこだ? 散らばっているガラス片か? それとも麻雀牌か? 恐らく口から入ったのだと思うんだが」
「だぁーッ! なんでお前にそんな事教えにゃならねェんだ! シッ! シッ!」
春日警部は『あっち行け』と、手で空を払っていた。涙子さんには見えてないと思うけど。
警部はそのまま若い刑事と鑑識と合流し、何やら何か話し始めた。
「うむ、仕方ないな」
「諦めますか?」
「そんなはずないだろう」
「ですよねー」
さすが涙子さんだ。まるで小説の主人公のように事件に首を突っ込みたがる、この図々しさは真似できるものじゃない。
問題はこれからどうするか、だけど。涙子さんに警察に任せると言う選択肢はないらしい。
「まずは使われた毒についてだな」
「どこに毒が付着していたのか、そもそも何の毒なのか……」
「我々全員の服には、毒物が付着していなかった、と言う会話は聞こえたんだがな。薫君、すまないが、刑事達の方を向いていてくれ」
「はい」
涙子さんに言われた通り、春日井警部達のいる方を見る。刑事達と違う服を着ているのは、鑑識の人達だろうか。
「………………『どこにも』……」
ん?
「あ、こ、に、ち、ん……なるほどな」
「あの、涙子さん?」
「薫君、もういいよ」
「はい。何か、わかったんですか?」
僕が見る事で涙子さんが見る、と言う事だろう。
涙子さんの『視界共有』能力。
僕からしたら春日井警部と名前も知らない刑事二人、そして鑑識の人間が遠くで喋っているだけの光景。声も捜査情報を漏らしたくない為か、刑事達の会話は小声で聞こえなかった。
「毒物はアコニチンだろう」
「アコニチン? え、なんて言っているは聞こえたんですか?」
「いや、あそこまで小声で喋られては、さすがに聞こえないよ。口の動きに注目しただけさ」
「目が見えないのに、読唇術を?」
「昔、身に着けていたのが役に立った。久しぶりだったので自信はないが、単語程度なら読み取れる。わりと手に入りやすい毒物だからな」
なるほど。
「アコニチンは植物のトリカブトから取れる毒でな。イメージの湧きやすい毒キノコなどよりも、遥かに強い毒性を持っている。致死量は〇・二ミリグラム……だいたい耳かき一、二杯分か」
「植物から取れるなら、一般の人でも?」
「器具はいるだろうがな。それを誰がやったか、なんだが……」
僕はふと、離れている二人を一瞥した。
太田さんと海野さんだ。
天王子さんを毒殺したのだとすれば、この二人しかいない。
「あの二人のどちらにも犯行は可能ですよね」
「警察がどう思っているのかはわからないが、毒物は恐らく、天王子さんが爪を噛んだ時に口へ入ったのだろう。警部は惚けていたが」
「天王子さんは心臓を悪くしていたんですよね。偶然、心臓発作で亡くなった可能性はないんでしょうか?」
「ありそうだが、彼が抑えていたのは喉なのだろう? 心臓発作ならば、普通は胸を抑える。アコニチンは呼吸困難も引き起こすから、とっさに喉を抑えても不思議ではない。そうでなかったのなら、胸よりも喉の痛みが強かったのだろう。とっさに取った行動なら、より痛い方、苦しい方に手が伸びるはずだ。よほど苦しんだ事だろう……」
「た、確かに……って、いつの間に見たんですか?」
「君が刑事達の会話を眺めていたついでにな。君の視界は広くて、なかなか効率的で助かるよ」
褒められているのだろうか。どう反応していいのかわからず、頭を掻いていると、太田さんがこっちに歩み寄ってきた。
「先輩」
「なんだ太田君。何か用かな」
「あの、もしかして俺って疑われているんですかね?」
「刑事達がどう思っているかは知らないが、あの卓に着いていた我々三人が怪しまれるだろう」
「涙子さん、自分を入れる事はないんじゃ?」
「いやいや。盲目でも、毒殺は可能だよ。やったのが私で、どう実行するかは別としてな。太田君、君は天王子さんに個人的な恨みは?」
「あ、ありませんよ! 悪い冗談はよしてくださいよ月島先輩!」
「……太田君、そう怒鳴らないでくれ。君を信じてはいるが、な?」
「でも、あの人がここを賭博の現場に使用していたなら、間接的に迷惑はしていた事になると思います」
「今回の依頼、彼の殺人が偶然であったと……君があんな理由で私に声をかけると言うのも、少し疑問だったのだ」
確かに賭博の問題なら、警察に一度は相談してもいいはずだ。それで相手にされなかったら、涙子さん、いや警察とコネのある親の京助さんに話が行く。そうしなかった理由って……。
「君が私と付き添いの薫君を証人にした、と見られても不思議はないぞ?」
「…………本気、じゃないですよね?」
「すまないな。信用している人間でも、疑うのは探偵の基本だ。だが、君が本当していないと言うのであれば」
目を瞑りながら、涙子さんは顔を逸らして周りの気配を伺っていた。
海野渉さん、彼は太田さんの後方十メートルに立ち、刑事達の様子を伺っている。
「推理モノとしては二流と言っていいな。消去法で辿りついてしまった」
天王子さんを毒殺したのが太田さんでないとすれば、犯人は海野さんと言う事になる。僕はもちろん、涙子さんも容疑者から外れる。
オーナーは未だに寝ているし、この麻雀荘には他の客はいなかった。
太田さんが「月島先輩」と呼んでいて、僕が盲目の涙子さんの付き添いだった。さらに加えて海野さんと天王子さんが知り合いだった事。つまり、自分で自分の顔見知りを殺害し、尚且つ周りは別の知り合いグループが出来上がっていた。
こんな状況で殺人を実行する理由がわからない。
「涙子さん。でも、太田さんへの疑いは晴れないかと……まだ五分五分と言う感じです」
「警察からはそう見えるか。私達が太田君の依頼でここに来た事を明かせば、彼が天王子達に少なからず恨みを持っていた事には見える」
「まずは警察に、麻雀中の詳しい状況を伝えないといけませんね」
うむ、と頷いた涙子さんは、間髪入れず、ザッと衣服が鳴るほどの勢いで右手を上げて、
「春日井警部、ちょっと来てくれないか!」
と叫んだ。
「……なんだ?」
渋々と駆け寄ってきた警部、機嫌は良くないようだ。
「麻雀中の詳しい状況を話そうと思ったのだが、いけなかったか? さっき話したのは天王子さんが死亡した前後の事だけだからな」
そういう呼び出しか、と呟いた後で警部はメモを開き、ペン先を僕らに向けてぶっきらぼうに言い放った。
「じゃあ、記憶が鮮明な内に頼む。っと、その前にお前らの服とか、いろいろ調べさせろ」
◆
全員分の衣服を調べられ、手荷物はすべて空いていた麻雀卓に置かれていった。
「太田さんの荷物は……財布とハンカチ、のみですか」
「ええ、家が近いので。ここでアルバイトもしていますし」
「ほーう。で、海野さんはここの常連だったな」
「そ、そうッスよ」
「あんたの荷物はカバン、財布とペットボトル、ティッシュか。あんたも随分軽い手荷物だな」
「あのバイトと同じで、俺も家近いんスよ」
「被害者の天王子さんも近かったんですか?」
「ええ。近所らしいッスよ」
「そっすか」
春日井警部がペンを持った手で自分のこめかみを軽く突き、一つ溜息をついた。
「おい」
と、一言だけ放ち、僕を手招く春日井警部。
「は、はい」
手招きに応じ、警部の元に歩み寄る。
「あの女に捜査の邪魔されたくねーんだ。絶対告げ口はするなよ」
「え?」
「これを見ろ」
差し出したのは、警察手帳。そのメモに「飲み物を汲んだのは誰だ」とだけ書かれていた。
「あの」
「答えろ。後であの女以外に確認を取る」
春日井警部は、涙子さんに明らかに嫌悪を抱いているようだった。警察として、部外者に捜査の邪魔をされるのが気に食わないのだろう。
「太田さんです。自分のも含めて、五人分」
「確かなのか? おかわりは?」
「ありませんでした。全員一杯目で、飲み干したのは天王子さんだけだったんですけど」
「ほう。その直後に亡くなったんだな」
「で、でも、天王子さんが飲み干した時点では何も……」
「お前にそういう事は聞いてないの。下がっていいぞー」
手の甲を向けられ、またも立ち退きを余儀なくされた。
仕方なく涙子さんの元に戻ると「おかえり」とだけ言って、顎に指を当てて考え出す。
「……あの、涙子さん?」
涙子さんの顔を覗きこんで見るが、考え事をしているのか僕には一切見向きもしない。
「太田さん、海野さん。ちょっとよろしいですか?」
春日井警部は、先ほどの僕と同じように二人を呼び付けた。
「まずいな」
「え?」
「全員分の飲み物を汲んだ太田君が疑われている。早急に疑いを晴らさねばならない」
「見たんですか?」
「すまないな。だが君は「告げ口はするな」としか言われていないだろう?」
……そうか。春日井警部は涙子さんの能力については知らないんだ。盲目の涙子さんの事だから、耳がいいのだろうと勘繰り、僕にメモを見せた。それが仇になったらしい。
「でも、天王子さんがお茶を飲み干した時点では何もありませんでしたよね」
「それに天王子さんが頼んだのは、君と海野さんが一緒に頼んだウーロン茶だ。これに毒を入れるのであれば、三分の一の確率で天王子さんの元に渡さなければならない。あらかじめ毒を入れておけば話は別だが、もし渡す前に別のコップ、または君か海野さんに取られてしまったら、飲み物に毒物を混ぜる犯行は行えない」
「お茶を飲み干してから、爪を噛んで、最後の一打を打とうとした……」
「そこで突然苦しみ出し、倒れた。ん……待てよ。彼は私のダブリーを回避しようとしていたのだから……」
「どうしました?」
「卓を見に行くぞ。バレないように」
人差し指を顔の横で立て、やや小声でそんな事を言い出した。なんかデジャヴを感じるな。公共プールで飛び込み台の上を調べようと言ったあの時だろうか。
「どこを見るんですか?」
「私の向かい側、海野さんの席だ」
それならここでも見えるかな。
涙子さんの肩を叩いて合図し、先ほどまで四人がいた卓を眺める。近づいてしまうとまた春日井警部に難癖を付けられそうだし、捜査を邪魔をすれば早々にこの麻雀荘から立ち退かなければならないだろう。
「見えましたか?」
「ああ」
ここから七メートルほど離れているのだが、涙子さんには牌の一つ一つが見えるらしい。涙子さんが言ったように視力検査でもすれば、僕よりいい結果が出るかもしれない。
「西が一枚、一筒が二枚、二筒が二枚、三筒が二枚、七萬が三枚、九萬が二枚、中が一枚……」
よし、覚えた、と小声で呟いて、また涙子さんは顎に指を当てて考え込んでしまった。
「やはり、おかしいな」
「おかしい? え、何がですか?」
「君は麻雀があまりわからないんだったか」
「え、ええ」
「だったら、そこは後で教えるとして……最後の天王子さんと海野さんの会話と捨て牌を覚えているか?」
え、えっと……。
「確か、予定が空いているかどうかって話だったかと……捨て牌は、えっと」
涙子さん以外のメンバーは、全員口頭で捨て牌を宣言していた。
「涙子さんは声を出していなかったので、わかりませんけど。海野さんが『中』を捨てたんですよね」
「ああ。そこで天王子さんが鳴きを入れ、海野さんの牌を受け取った。あの『中』は三枚持っていると一つ点数の段階が上がる特殊な牌でな。他人から鳴いて三枚揃えても有効だ。あの場面で鳴いたのは何の違和感もなく、むしろ私のダブルリーチを交わす為に速攻をしかけた……ように見える」
「ように見える?」
「ああ。だが、違和感は天王子さんの鳴きではなく、海野さんの手牌にあるんだ」
「知識がない僕には、よくわかりませんけど……」
「うむ。そこの説明は私が後でしよう。さて、警部殿に助け船を出してやろう」
「助け船どころか、警察以外は寄せ付けない鎖国状態なんですけど……」
「彼はそういう所があるが、いざ話し始めるとまともな意見は聴いてくれるぞ。私が能力を開花させるより前に初めて殺人現場に居合わせ、親と警察の目を出し抜きつつ犯人を指名した時も、葵が高校生探偵として私の前に立ってくれた時もな」
「えっ。じゃあ、葵さんも以前警部に自分の推理を?」
「今では上司と部下だが、昔は口論ばかりしていたよ。葵が就職してしまい、下手に逆らえなくなって、私の出る幕がなくなってきたのだが……やはり、この舞台には未練がある」
「舞台……?」
その言葉に、どれほどの意味が込められているのかはわからないけど、涙子さんの口調はひどく儚げだった。
「探偵。それは裏で働く地味な役割でしかない。世間一般ではそうだ。だが、父さんは違った。私以上の好条件で使えるこの力と推理力で、表立って警察との共同捜査を行ってきたのだ。まるで小説や漫画の世界だろう?」
「涙子さんは、お父さんの背中を追い掛けているんですか?」
「見えない背中は追う事はできない。私は盲目なのだ。本来なら暗闇でもがいているだけだろうが、人の目、腕と口を貸りて、他人に事件を解決させている。先月君と解決したあの事件のようにな」
電話越しではあるものの、僕は葵さんと同じ道を辿っていたのだ。涙子さんが使う能力の要となり、彼女の推理を手助けし、僕がそれを口にする。
それが月島涙子と言う探偵の今であり、すべてだ。
「君があの警部に尻込みするようなら、私は自分の口で伝えよう。麻雀牌の並びは、君の口から聞いたと言う事にしておいてくれ」
「いえ、その必要はありません。僕に推理させてください。……あなたの目として」
「いいだろう。だが、問題はどうやって天王子さんの毒を口元に運んだかだ」
「それはもうわかっているんですか?」
「もちろん。まずは方法からだが……」
数分の間、今回の事件の始まりから終わりまでを話し終え、僕はそれをまとめていった。
「どうだ、覚えてくれたか?」
「麻雀の事については、涙子さんに説明していただけると助かります。ド素人の僕が言っても、説得力がないと思うので」
「ふむ。それもそうだな。では、やるとするか」
麻雀を行っていた時よりも明るい笑顔を見せ、涙子さんは再び手を上げる。
「春日井警部はどこにいる?」
その大きな声には遠慮と言う概念が存在しないようにも思えたが、それは気にしないようにしよう。
この時、春日井警部は僕に背を向け、他の刑事達とメモを囲んで話しこんでいたようだった。
それを邪魔された時の表情と言えば、今まで見たこともない迷惑そうな表情だが「またかよ、今度はなんだ」と今にも声に出そうな口は「チッ」と舌打ちのみに留まった。
無言で歩み寄ってきた春日井警部は僕ら二人の前で立ち止まり、すぐにでも言いたかったであろう台詞を口にした。
「はい、なんでしょうか。何か気になることでも?」
口調こそ丁寧なものの、唇が震えている。怒らせているようにしか見えないが、その睨みを効かせた表情は涙子さんには視認できない。
「彼から話があるそうだ」
「なっ!」
その瞬間、警部の睨みが僕に向いた。
「る、涙子さん!」
「まずは君から言うといい」
「もう……」