篩いにかける
始まりの町、中心地から北へ歩くこと十五分ほど。今回のイベント開催地《魔女の館》その全貌が見えてきた。周りを森に囲まれており、その形はまるで城。それも相当でかい。古い西洋映画にでも出てきそうな容貌をしている。
城を確認したところでメニューを開いた。勿論、装備を変えるためだ。BWOではその作品傾向から基本的な装備はスーツに決められている。装備品の欄から《マフィアスーツ+7》を選ぶ。ちなみに数字はその装備のグレードを指し示し、最大で10まである。
しばらくするとコートが消え黒いスーツに切り替わった。ステータスが低下したためか、少し体が重くなった感じがするが、少し動けば慣れるだろう。
「さて、着いたな。魔女の館。全員が全員黒服ってーのもちょいと気味が悪いな」
例に漏れず俺も黒服なんだが、なかなかシュールな光景だ。想像してみてほしい。数えきれない数の人が全員黒服を着ている、何か応えるものがあるだろう。
魔女の館に入り、しばらく経った頃だ。黒服に対して考えている俺を、我に返すようにメールが来た。システムからだ。あわてて確認してみたが、内容はイベントに参加するか否かの意思確認のようだ。当然参加をタッチする。一々何かするのも面倒なのでこんな方法を取ったのだろう。
イベント開始まであと十分。何もしないのもなんなので、スキルの確認でもしておくか。適当な気に寄り掛かり取得スキルを見てみる。この五日間、スキルの習得条件を満たすことのみを考え動いてきた。その甲斐あってか五日間で八個のスキルを習得できた。
もういいだろうと、メニューを消した時だ。
『魔女の館へ集まってくれた約三十万のプレイヤー諸君に伝える。イベント開始の時間だ。……と言いたいところだが、さすがにこの人数ではきついのでな。まずは篩いにかけようと思う』
そんな放送がかかった。なんといえば良いだろうか。昔の刑事ドラマで犯人が電話を掛けてくるときのくぐもった声、あんな感じの声だ。まぁ間違いなく奴ら、《フェンリル》のメンバーが話しているんだろうが。
それよりも問題はさっきの言葉、篩いにかけるというあれだ。確かに人数を減らす必要はあるだろうがいったいどんなルールで……
「ん?なんだありゃ?……まさか、ポリスか?」
お揃いの制服を着こんだ奴らが突然現れている。あの制服は確か、プレイヤーにペナルティを与える《ポリス》と呼ばれるNPCのはず。なんでこんなとこに。
『ルールを説明しよう。出現した百のポリスたちから逃げ切ることが出来れば本戦へ出場できる。場所は森。本選に進めるのは三十人。他のプレイヤーへ攻撃して競争率を下げるもよし、ポリスと闘って生存率を上げるもよし、基本何でもアリだ。尚、イベントではHPがゼロになってしまっても現実の死には影響しない。諸君らの健闘を祈る。今から一分後に開始する。以上だ』
簡単で明快なルールだ。今回は俺も本気で殺っちゃっていいから加減は無しだ。とりあえず今は逃げることにするが。
『予選ゲーム《戦闘けいどろ》開始』
森の木々を利用し、慎重に進んでいく。ポリスに見つかっても何とか為らん事はないだろうが、見付からないならそれに越したことはない。メニューを開き、残り人数を確認する。残り約二十八万か、まだ開始から五分程度しか経っていないはずだがこんなに減っているのか。
この分なら案外すぐに終わるかもしれない。メニューを閉じながら安堵の溜息を吐く。メニューを閉じた、といっても普通に閉じた訳ではない。拳銃と手錠を装備してから、だ。
「ソニックバレット」
後方に向けて放つ。俺の声に反応して弾丸が音速の如きスピードで飛んでいく。威力は低いながらも、スピードに関してはまず避けれないほどだ。予想通り、弾は的に当たった。
――しかし、当たった弾丸はどういう訳か弾かれた。
「ばれてたか~。残念だな~。ま~い~や。とりあえず……闘うかい?」
「……伸ばし方が鼻に付くが、まぁいいか。俺の背後を取ったんだ。無事で入れると思うなよ」
手錠を出しながら構える。出てきた男は両手に何かを括り付けている。縦五十センチほどの物だがあれはなんだ?どっちにしろ、ソニックバレットを弾いた辺りそう簡単には行かないだろう。
「変わった武器を持っているようだが、関係ないか」
「変わった武器って言うなら君もだよ~。手錠なんて初めて見るね~」
軽口を叩いてはいるが、隙はない。しばらく視線だけで応酬をした後、俺と奴は動き出した。