ゲームとぼったくり
更新遅れてすみません。
その連絡は突然だった。開催日通達のメールを受け取って三日後、明後日にはイベント当日という時だ。通話をしてきたのは糸原深夜、通称シン。『ブレインガーディアン』のハッカーであり、俺の装備を揃えたり、毎日大量の書類を送ってきやがったり、デスゲーム解放のために日夜頑張っている優秀なハッカーだ。
「何の用だ?シン。書類の数でも減らしてくれるのか?」
『あのさ、こうやって通信いれるのだけでも結構手間なんだよ?そんなくだらない事を言うためだけに、こんな面倒なことしないよ。今回はちょっと事務連絡と注意をね』
「あの書類の量は、冗談じゃすまないと思うんだがな。それよりなんだ、事務連絡と注意って」
『うん、じゃあまずは事務連絡の方から。実はね、ようやくそのゲームの映像を現実で見れるようになったんだ。結構苦労したんだからね?何十人もハッカーを集めて、五日掛けてやっと成功したんだ。これで、誰が、いつ、どんな状況で死んだのか分かるようになる。死んだことは分かっても、どんなふうに殺されたのか、その状況が分からないんじゃあ遺族も浮かばれないだろうしね』
長いので一度頭の中で整理しよう。まず、苦心の末ゲーム内の映像を現実で見ることに成功した。その利点として、プレイヤー一人一人の死因がはっきり分かるようになったと。よしOKだ。次は注意か?
『事務連絡は以上だよ。次は注意だけど、まぁ簡単さ。ゼニさんに送ったステータスを跳ね上げるベージュのコート、拳銃、それと手錠の転移機能、イベント時には使用不可に設定したから』
「は?装備不可?なんで?」
意味が解らん。俺への嫌がらせのつもりか。レベル一で出場しろというのか。
『別に嫌がらせとかじゃないからね?そもそも、ゼニさんの場合元々のポテンシャル……プレイヤースキルとでも言うのかな、それが以上なんだからさ。あんな装備付けなくても十分だって。買うことだってできるんだし。それに、今ゼニさんがいる世界は大前提として《ゲーム》なんだ。人が死ぬのを食い止めようとするのは協力するけど、せめて、今回のイベントのような皆が楽しむための行事は、一プレイヤーとして、プレイヤーゼニガタとして挑んでくれ。だって、みんなが楽しまないとその世界は《ゲーム》じゃなくなってしまう。BWOを、デスゲームじゃなく普通のゲームとして楽しんでくれ。それと最後に、言わなくても分かってると思うけど、行き過ぎた正義は悪と同じだ。ゼニさんは正しい正義であってくれ』
通信はそれを最後にノイズ音と共に途切れた。にしてもシンの奴、行き過ぎた正義は悪と同じ……か。一丁前な事を言うようになったな。『ブレインガーディアン』入隊当初は、まだ年端もいかぬガキンチョだったってのに。
「……もういつまでもガキ扱いってわけにもいかないか。話が長い、ってところが玉に瑕だが」
言いながら、掌と拳を合わせ活を入れる。時間はそこまである訳じゃあないし、今は装備を買いに行くか。所持金は一万メタ(BWOの通貨の単位。一メタは現実の一円と同じらしい)こんだけありゃあ足りるだろう。
「さて、そしてやってきました《裏商店街》。名前の通り、いろいろ怪しげな物売ってんな」
銃やナイフといった武器は当たり前、防具やスキルも買えるらしい。とりあえず、手錠を武器として装備するだけならばいいらしいので、今必要なものは防具だな。
BWOでは、NPCの店の他にも商売で生計を立てるプレイヤー、アキンドたちが営む店がある。NPCの店での利点はいつでも正当な取引が出来るという事。逆に、アキンドたちの店にはぼったくりの店もあるので注意が必要だ。
「その分、安く買えたり高く売れたりもできるが、これは高すぎやしないか?弥生君」
「性能が違うんですよ。高くてもそれに見合う武器ばかりですよ。事実、売れていますしね」
アキンドたちがいるという事は、当然弥生君もいる。当然だ、ここが一番売れやすいんだから。そして彼女が営む店なんだから、他の店とは一線を隔している。いつの間にか小さな建物と工房を建てていたのだ。
彼女がここまで成功した理由はその商業テクニックも去ることながら、やはり自分で作って売るというやり方だろう。通常、アキンドたちはプレイヤーからの売却、NPCの店、もしくは同じアキンドの店から商品を仕入れている。が、これ以外にも商品を仕入れる方法はある。それが自作するというものだ。銃を一度バラし、特別な過程を得て新しく生まれ変わらせたり、バージョンアップさせたりだ。
ただこの方法、とにかく難しいらしい。ベータテストの時も幾人ものプレイヤーが挑戦してきたが、ほとんどの者が挫折したという鬼門だ。まぁ、完璧という言葉がこれ以上ないほどあてはまる如月弥生というプレイヤーにはさほど関係なかったようだが。
「今はあの子、竜崎君も頑張っていますが、物にするにはもう少しかかると思いますよ」
「そうか……じゃあ防具を一個譲ってくれ」
「九千メタですが、良いですか?」
「金をとるのか?俺はお前の上司なんだが。少しぐらい融通してくれても良いんじゃ」
「無理なら返ってもらって結構ですが。ちなみに言っておきますが、これほどの性能を誇る装備品は通常ですと一万三千メタは下らないかと……」
しばらくにらみ合いが続いた。弥生君の言っていることも事実なのだろう。だが、ここで引いたら完全に舐められる。でも結構怖いぞ。弥生君の眼は一流の殺し屋のそれだ。
――結果、先に折れたのは俺の方で、九千メタ払うことになった。性能?滅茶苦茶高性能だったよチクショウ。
更新遅れた理由、というより言い訳はいわゆるテスト週間だったもので。来週からはもう少し早くできるかと……。