開催日
複数のバン、という音と共に弾丸がこちらへ飛んできた。《スキル》使用時特有の、赤っぽいオーラを纏っている。下級スキル《パワーバレット》だろう。効果は弾丸の威力を増加させる。百回の発砲という習得条件のため、比較的取得しやすいスキルだ。
「そんなことはどうでもいいか。とにかく、お前ら『バングファミリー』のウチ、三人以上PKした者を殺人の罪で逮捕する」
俺は目の前の四人の主要メンバーが撃ってくる弾を避けながら、宣言した。手錠を右手と左手に一つづつ、全部で二つ装備し走り出す。相手も簡単に捕まるわけにはいかないのだろう。下がりながら応戦してくるも、俺が相手じゃ分が悪い。俺にだって七年間死地をくぐり抜けてきた経験がある。
「技術も、覚悟も、背負ってるもんの重さも、お前らとは違うんだよ」
「クソが!!俺等だって、好きで殺したわけじゃねえよ!生きるために……仕方なく!!」
生きるために殺す、か。勿論それは否定しない。実際ここじゃあ、それが正しいと言える。だが、それでも。俺は手錠を掛ける。転移、そう呟くことで俺に捕まった男は『トリカゴ』へと飛ばされた。
「理屈じゃ罷り通らないのが法なんだ。どんなに正義の意思を貫いたって、盗みは盗み、殺しは殺しだ。そこに罪人の意思は関係ねえ。わかったか?オラ」
手錠を《巨大化》させる。手錠ギミックの一つだ。三人をまとめて捕まえ、トリカゴへと送る。リーダー及び主要メンバーを失い、バングファミリーは壊滅したも同じだ。
少年、聖を拾って一週間。ゲーム開始から十日も経つと、俺だけではカバーしきれない事態も自ずと出てくる。実際、さっきの奴らを含め、既に両指の数では足りないほどの人数を、トリカゴ送りにしている。トリカゴの内部がどうなっているのかは知らないが、まぁシンのことだしそこまでひどい訳ではないだろう。
「しっかり反省してくれると良いんだがな。……とにかく帰るか」
帰ったら、また書類仕事しないとなぁ。
「っちょ!タンマ!アブなっ」
「へぇ、躱すのは上手ね。でもそれだけじゃあ訓練にならないわよ」
「……人が死地で闘ってたってのに、何やってんだ?お前ら」
俺が声を掛けると、存在に気付いたのか見向きもせず、「お疲れ様です」と誠意もなにもあったもんじゃない労いの言葉を掛けてくれた。ちなみに今の状況だが、弥生君が聖に向かって嬉々として鞭を振るっているという感じだ。つまりは、訓練という名のストレス発散だな。
「それいいとし「よくないですよ!!」……いいとして、この狭い部屋でやるな!!外でやれ!!」
「そうですね、ちょっと散らかってしまいましたし、続きは外でやりましょうか」
「嫌だあああああぁぁぁぁ」
さらばだ、少年。生還することを祈っている。ドナドナが聞こえそうだが無視。勿論助けに行くなんて選択は取らない。生きるって行為には、時には非情さも必要だと思うんだ。
「くだらん思考はやめにして、さっさと仕事を済ませるか」
俺は書類の山へ向いた。それにしても流石弥生君だ。あれだけやっていながら書類は全く散らばってない。ちなみにこの書類だが、毎日アイテムとして送られてきている。もっとも、こんなもん送るならもっと有意義なもの送れ、と言いたいが。まぁ、時々他のアイテムが一緒に送られることもあるけどな。先ほど弥生君が嬉々として振るっていた鞭とか。
「それにしても、流石としか言いようがないな」
書類を適当に片付けながら、呟いた。無論、弥生君のことだ。なにが凄いって、僅か一週間でハチャメチャな金額の金を稼いだことだ。最初は桁が一つ多いんじゃないかと思った。そんなこんなで、聖がここにいられるのも、弥生君様々だ。日頃のストレスの捌け口になっても文句は言えない……と思う。
「流石はスーパーエリートだな。さて、次の書類は……囚われたプレイヤーの肉体に付いてか。本体は全て病院で保護され、よっぽどのトラブルが無い限り少なくとも五年間は存命できる、か。俺の体も兄貴たちが病院に連れてってくれているんだろうな。基本馬鹿だが、そういうところはしっかりやるはずだ」
知る人は少ないが、銭型家は大家族だ。親こそいないものの、上は三十前半、下は十歳の男ばかり十人兄弟だ。上から三十二、三十、二十八の三つ子、二十五、二十三の俺、十五、十だ。
ちなみに俺の名前、八郎は八男だかららしい。他の兄弟もそんな感じで産まれた順番が名前の由来になっている。
書類に確認済みの判を押し、また作業を続ける。二十分ほどやっているが、ようやく五分の一といったところ。多い……。そんな風にだれていた時だった。
『メールを受信しました。システムからのメールを受信しました』
そんなこえが響き、メールの映されたホログラムが自動で出てきた。
『皆様、Black World Online 楽しんでおりますでしょうか。私共としては、皆様が楽しむことを祈るばかりです。前書きはこのくらいにして、早速本題に入ろうと思います。ズバリ、今回はイベントの開催日をお伝えしたく、このようなメールをお送りいたしました……』
俺は目を見開いた。イベントの開催日、ついに明かされるのか。俺は逸る気持ちを抑えながら、じっくり読んでいく。
『八月のイベント、開催日は五日後でございます。場所は初めの町、北にあります『魔女の館』。参加受付、ルール説明は当日とさせてもらいます。通達は以上です』
五日後。突然すぎて驚いたが、今はとにかくスキル習得を頑張るか。俺の場合はステータスがあれだが、覚えておいて損はないはずだからな。いずれは、俺と同レベルにまでレベルを上げてくる者だって出てくるかもしれないしな。
「争いを止めるには、何者をも凌駕する途轍もない力が必要だ。力なき者には、何もできない」
中途半端な力じゃ、駄目なんだ。