リーダーの捜査
今回は現実での話です。
季節は既に夏真っ盛りだというのに、暑苦しいスーツに身を包み、涼しげな顔で『ブレインガーディアン』リーダー神崎茂は大手ゲーム企業『パラドックス』を見つめている。神崎は『ブレインガーディアン』創立以来、個性あふれる四人の前任メンバーをまとめる指揮官に任命された。その知能と行動力で解決に導いた事件は数知れず。そんな生きる伝説、神崎が来ている理由。それは『パラドックス』が、今世間を騒がせている『Black World Online]の発売元であり、詳しい話しを聞くためである。
「お待たせしてすみません。私、『パラドックス』代表、花巻と申します。お暑いでしょうし、どうぞ中へ入ってください」
「ああ、すみません。では、お言葉に甘えて」
決まり文句を愛想笑いと一緒に言いながら、神崎は社内のとある一室へと入って行った。冷房により冷やされた社内の八畳ほどの部屋は、中央にソファと机、後はゴミ箱程度しか置いてないことから応接室のような場所なのだろう。ソファに座り、出されたお茶を啜ると神崎は質疑を開始した。
「まず、このような事になった経緯を教えてもらってよろしいですか?」
「はぁ……と言われましても、私共も何が何だかわからないうちに乗っ取られてしまったので状況がよく分かっていないんですが」
「どのぐらいの速さでやられたか、覚えていますかね」
「三分間、恐らくその位かと……」
神崎は思わず顔をしかめた。敵の脅威が予想以上だったからだ。パラドックスには厳重なセキュリティの他に、一流ハッカーが常時三人、事件の日には六人もいた。でもありながら、僅か三分の間にそれらを押しのけ制圧したというのだ。糸原と同レベル等の話ではない。完全に各上だ。
「他に何か、気になるようなことは?」
「そうですね、あ、そうだ。神崎さん、こんなマークが残されていたんですが、見たことはありませんか?」
そう言い花巻が渡してきたのは、紅く染まりニタニタ笑う女女がプリントされた紙だった。そのマークを見た途端、神崎は声を上げかけた。持ち前のポーカーフェイスで立ち直したものの、内心ではこれ以上ないほどに焦りを募らせている。
――――馬鹿な……なぜこのマークが!!
「花巻さん。今日はこの辺で引き揚げさせてもらいます」
「え?あ、もういいんですか?」
お辞儀を一つだけしておいて、神崎は足早にその場を後にした。ブレスレット型携帯を弄り、ある者と通話する。
「私だ。すまないが、早急にパラドックスへ来てくれ」
〈了解です。五分ほどで着くかと〉
簡潔に話を済ませると、神崎は屋上へ急いだ。エレベーターを使い最上階へと昇っていく。やがてポーンという音と共に扉は開き、神崎は屋上へ出た。屋上では既に、凄まじい轟音をまき散らしながらヘリが到着していた。
「すまないね、白菊君」
「早く乗ってください。事情は中で聞きます」
神崎は自分の秘書、儚白菊に急かされすばやくヘリに乗り込んだ。ドアが閉められ、ヘリが離陸していく。
「それで、何故わざわざヘリを呼んでまで」
「話そうと思っていたところだ。白菊君、姫岸朱音を覚えているかね?」
「一世代前の、私たち初代『ブレインガーディアン』メンバーの姫岸ですか?彼女は原因不明の自殺で死んだ、と聞きましたよ。懐かしい名前ですが、彼女がどうしました?」
神崎は無言で、先程花巻に渡された紙を見せた。そこに描かれているマークは白菊もよく知っているマークだ。何故ならばそのマークは亡くなった姫岸が過去使っていた、トレードマークだからだ。
「このマークが、今回の事件でハッキングと共に残されたらしい」
「このマークが……ですか?たしかに彼女はハッカーでしたけど、既に死んでいるはず……」
動揺を隠しきれていない。重い沈黙が場を支配する。このマークがあるという事は、姫岸が生きているかもしれない、という可能性を示す。神崎はあらゆる可能性を追求し、思考を開始した。が、情報が少なすぎる。敵の規模、姫岸との関係、どれもこれも決断するには情報が少なすぎる。仕方なく思考を中断し、これからの事を言おうと、口を開いた。
「……姫岸の自殺について、もう一度詳しく調べるか。この事件、一筋縄、いや二筋縄でもすまないかもしれない。君も捜査に協力してくれ」
「そうですね。私は、『あの事件』を調べ直します。これは勘ですが、あの事件も関係しているように思えます。あの事件にはいろいろと腑に落ちないことがありますしね。もう一度漁る価値はあるはず……」
こうして二人は捜査を開始した。そこに待ち受けるのが、悲しい真実だと知らずに。
夏休み終わった……。更新速度下がるかもです。