休暇が消え、デスゲームは始まった
『欲望渦巻くこの世界で、君が手に入れるのは金か?それとも権力か?』
それが、新作VRMMO『Black World Online』のキャッチコピーだ。VRシステムが生み出され、数多のゲームが誕生し始めた。オーソドックスな剣と魔法のファンタジー、育成やシュミレーションといったほのぼの系など、数えきれない数のゲームがクリエイターたちにより生み出されてきた。
そんな中、ある一つのゲーム会社が、今まで暗黙の了解で作られなかったジャンルを開拓した。それは裏社会をモデルにした、モンスターなし魔法なしのマフィアの生活をモチーフにしたゲーム。つまり、PK推薦どころかPKオンリーのゲームだ。今まで、非人道的だという理由で閉ざされたままだったそれに、ついにメスが入るという事で、俺を含む一部のゲーマーは熱狂した。
批判があったものの、BWOはベータテストを無事終了させ、今日この日に発売された。発売されたのだが。
「俺は久しぶりに取れた大型休暇を使い、BWOをプレイしたはずなんだが……どうしてこんなことに」
あろうことか、どこぞのハッカー集団にシステムを乗っ取られマフィア生活シュミレーションがデスゲームになるという笑えない展開に陥っている。ハッカー集団の名前は『フェンリル』なかなかあれな名前だが、名前負けはしてないようだ。いつもならウチのハッカーが早急に鎮圧するのだが、まだ出来てないという事はやつらが相当な腕を持っていることが窺える。
と、今の状況と敵の考察を終えようとした時だった。外部からの通信が入った。こんな状況で通信を掛けてくるというのは、恐らくあれだ。休暇返上で仕事しろってことだろう。
「こちら銭型。ゲームの中に囚われた模様。そっちはどうしてんだ、リーダー」
『銭型か。今シンがハッキングを仕掛けているようだが、難航しているっぽいぞ』
「どのぐらいで終わりそうだ?」
『未定だ。敵はかなりの手練れとみていいだろう。それより、そちらの状況はどうなっている』
状況か。まぁ最悪だな。たしか、生きて帰れるのは一つのファミリー、百人までだったし、期限は三年間。タイムリミットを過ぎればジ・エンド。そのことを伝えると、リーダーは数秒ほど考えたのだろう。結論を出した。
『ひとまず、解放への努力はやめにして君のアシストに徹する。一旦シンに代わるぞ』
物音が少し聞こえ、『ブレインガーディアン』メンバー、ハッカーの糸原深夜の声が聞こえてきた。
『あー聞こえてるよね?まぁ、そういう前提で話すけど。ゼニさん、認めたくはないけど相手はボクと同等の腕を持っている。つー訳だから、俺はシステムに出来る限り介入してゼニさんの装備やら、ちょっとした施設やらいろいろ創ることにするよ。三日間はかかるかも知れないから、それまで生き延びてよ』
一方的にそう言うと、通信は切れた。シンがあそこまで言うってことは、今のところ外部からの解放は無いと言っていいだろう。つまり、このままでは本当に最後の百人のなるまで殺し合いをしなければいけないという事。
「ま、そんなこと俺がさせねぇが」
これから忙しくなりそうだし、首謀者とっちめて休暇返上の借りを返したら、一ヶ月ぐらいの休暇をもらうことにしよう。
時はさかのぼり、デスゲーム開始より数分前。薄暗い小さな個室に十人ほどの人が集まっていた。
「さて、いよいよだな。これより《終末のウイルス》をまき散らすわけだが」
「あそこには、《暴君》がいるらしいけど、大丈夫なのかい」
リーダーらしき男が言葉を発すると、見た目十歳ほどの少年がすぐさま反論を返した。
「何の問題もない。何故ならば我らの真のリーダー『姫』が直々に出向いているからだ。あの方ならば、《暴君》だろうがなんだろうが問題ない。そもそも、それは元より計算されたことだ」
男の発した『姫』という言葉に、全員が戸惑いを覚えた。それほどまでに彼らにとっては絶対的な存在なのだろう。全員を見渡したリーダーらしき男は一つ咳払いをすると、腕にあるブレスレットを弄った。
ホログラムが現れる。何重にもかけられたパスワードを入力していくと、ホログラムにYESとNOの文字が出た。迷わずYESを選ぶ。
「始まったぞ。例え《蜘蛛の巣》でも止められない、地獄のデスゲームが。我々『フェンリル』は《姫》の信念のため、『ブレインガーディアン』に宣戦布告をする!!」
男たちの歓声が響き渡った。まるで《姫》のために何かをするという事が、自分の全てだと言わんばかりに。