交戦
一瞬で確信した。油断できる相手ではないと。
弥生君は決して戦闘が出来ないという事はない。寧ろ、トッププレイヤー並とまでは行かないが、その辺のゴロツキ相手なら軽くあしらえるほどに強い。しかし奴は、油断していたとは言え、その弥生君を俺が部屋から玄関までくる僅か十数秒の間に追い詰めたのだ。
実力としては《特異点》級。この世界でトップクラスの力を持っていると見て良い。
「下がってろ。俺が相手をする」
「一人で大丈夫ですか……なんて質問は野暮ですね。分かりました」
弥生君は素早く戻ってくれた。五分としない間に、少年を連れて非常口から何処かへ避難するだろう。最低でも、それだけの時間は稼がなければ。
「一応聞いてみるが……誰の差し金で来た」
そう声をかけてみるが、フードはだんまりを決め込んでいるようで、何も喋らない。その代わり、サブマシンガンを構えることで答えをくれた。
即ち、引く気はない、と言う答えを。
上等だ。俺は駆けだし、一気に距離を詰めた。まずは、広い場所へ出る。走った勢いのまま、常時発動スキル《格闘術》の恩恵を受けタックルをかます。
フードは二、三メートル吹き飛ばされ、外で受け身を取った。それだけでは終わらず、すぐさま前を向いたフードへと追撃を仕掛けるべく、銃口を向ける。
「《バースト・ショット》!!」
音声認識が作動し、俺の視界に十字の照準――スコープとパラメータが浮かび上がる。出力を表すパラメータは右へ向かってどんどん増えていき、すぐに端へとたどり着いた。パラメータがMAXの文字に代わると同時に、俺は引鉄を引いた。
次の瞬間、よくあるファンタジーの魔法顔負けの、ファイアービームが飛び出した。半径五十センチほどの灼熱の光線は寸でのところで飛びのいた、フードのいた場所を削り取った。
《バースト・ショット》ハンドガンから放てるアタックスキルの内、最大の攻撃力と攻撃範囲を持った最上級スキルだ。この三ヶ月、ようやく見つけた『穴』で狂ったようにレベルを上げ続け、しつこくハンドガンばかりを使い続け、レベル六十まで上げた結果、取得することのできたものだ。スタミナを大量に消費するため、使いどころに悩むスキルではあるが、ここぞという時では最も頼りになる。
「アジトからも大分離れたし、幸いにも人もあまりいないようだ。これで思う存分やれるな」
十数メートルは離れているので、呟いた程度の声は聞こえないだろうが、そう言い再び距離を詰めるべく駆ける。それを見て、フードも反撃の為サブマシンガンから弾丸をぶちまけた。一見、乱雑に撃っただけのように見えるがそうではない。何発かは必ず被弾するように、絶妙に配置されている。
仕方がないので、五発の弾を受ける。HPバーが僅かに減少するが、気にするほどではない。そのまま走りながら、フードの脳天へ向けて銃弾を一発。勿論簡単に避けられるが、それも計算の内。
俺は、後ろへの跳躍距離が上がる《バックステップ》縦の跳躍距離が上がる《ジャンプ》横、前方への跳躍距離を上げる《ステップ》走る速度のみが上昇する《ダッシュ》の計四つの上位互換スキル、《立体機動》を使い、横へステップ、さらにジャンプで飛び、適当な建物を壁キックしてフードの真上に移動した。
「終わらせるぜ」
手錠を素早く持てるだけ装備し、投げつける。その瞬間、俺の思考操作により全ての手錠は巨大化した。そのまま巨大手錠は、フードを覆い隠すように、綺麗に重なった。仕上げに又もや巨大化した手錠を三つ、今度は縦にして入口を塞ぐ。これで、俺特製お手軽手錠牢の完成だ。
「名付けて達磨落とし。さあ、観念しろ。これでいつでもトリカゴに転移可能だからな」
意気揚々と話しかけた時だった。突然耳を塞ぐほどの轟音が響き、手錠牢の蓋――三つの手錠が消え去っていた。そう、『消え去っていた』のだ。その辺に落ちている訳でもなく、文字通り消されている。
だが一体どうやって?
その答えは、すぐに分かった。フードが出てきたからだ。二メートルは在ろうかと言う超巨大スナイパーライフルを携えて。全体的に白のフォルム。しかし一箇所、銃口の部分だけは黒く、歪な形をしている。
第六巻が警告する。あれは人を殺すためにつくられたのではない。何か、別の化け物を刈るためにつくられたモノだ。
「三ヶ月であれほどとはね。確かに……あなたは危険だ。ここで消しておこう。……バイバイ」
フードから除く口を僅かに綻ばせると、フードはその兵器を構え、そして――何のためらいもなく、引鉄を引いた。
瞬間。
俺の視界は真っ白な閃光に包まれた。