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密着・オンライン警察24時!!  作者: 木魚
二章 ノア編
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死のトリック

 三か月前、イベント終了と共に解放された新ステージ《グリード》。欲望の名を持つこの街の特徴は何と言っても巨大カジノだ。ルーレット、ポーカーやブラックジャックと言ったテーブルゲーム。クラップスや丁半などのダイスゲーム。ありとあらゆるギャンブルを揃えたこのカジノに入館するプレイヤーの数はかなり多い。プレイヤーたちの目的はただ一つ。

 莫大な金。

 上手くいけば、三年間タイムリミットまで生きていけるだけの金が手に入るのだ。少しでも長く生きたいが、闘う度胸がない。温室でぬくぬくと生きていたい。そんなプレイヤーからすれば、その金は喉から手が出るほどほしいのだ。

 そんな《ギャンブラー》が集うこの街を、俺達は選んだ。そして、弥生君が稼いだ金でアジトを購入――念のため言っておくが、決してヒモではない。ちゃんと仕事はしている――したのがつい最近の事だ。 

 

 

 さて、そんな今日この頃を過ごす俺の目の前に聳えるは、高く荘厳な山。だが、この何処までも果ての見えぬ、険しい道のりを俺は行かなければならない。いや、絶対に行かなくてはいけない、ということもないか。放棄しようと思えば、出来るのだから。

 だが、遥か昔、かのエベレストで、志半ばで散った登山家――ジョージ・マロリーはこう言ったそうだ。


 ――何故山に登るのか?そこに山があるからさ。

 

 今俺は、この言葉を少し借りようと思う。


「何故今時書類仕事なんてしてるのか?そこに書類があるからだあぁぁ!!」

「五月蠅いです。静かにしてください」


 おっと。怒られてしまった。少し興奮しすぎたようだ。だが、今の言葉は割と切実だ。ほとんど全ての事柄をデータとして扱い、コンピューターで素早く処理することができる今日に、わざわざ書類を使って仕事する業者なんて絶滅危惧種みたいなもんだ。


「ったく。なにがデータだと拙い情報がジャックされる心配がある、だよ。そもそもこの世界自体データの塊じゃねえか。絶対嫌がらせだろ。趣味悪すぎだ」


 愚痴を漏らしながらも、手の動きは止めない。手を止めた瞬間、弥生君の睨みと鉄拳が飛んでくるのは、ほぼ間違いないからだ。

 それにしても多い。馬鹿みたいに多い。この三ヶ月、毎日同じぐらいの量をこなしてる自分が怖いくらいだ。それに加え、出来る範囲での見回りもしているのだから激務もいいところだ。


「あー。何かサボる口実できねえかな」

「そんなこと考える暇があるなら、仕事を終わらせてください」

「あのなあ。珍しく出稼ぎせずに休んでるんだから、少しくらい手伝ってくれてもいいんじゃないか?そういや聖はどこに行ってんだ」

「何のための休みだと思ってるんですか?体を休めるための休みでしょう。ちなみに聖君は目下武器製造の修行中です」


 言ってなかったが、このアジトには鍛冶工場もある。そこで武器製造の修行をしているという事だろう。まあそれはいいとして、休暇潰されて仕事してる俺はなんなんだ。と思ったが口に出したところで、また何か言われるに決まっている。仕方が無いので大人しく引き下がるとしよう。これ以上やれば、俺が心のダメージを負うことは眼に見えてる。さすがに聖に手伝わせるわけには行かないし、やはり一人でやるしかないか。

 

 いつものようにそう思っていた時だった。突然通信が入ったのだ。出現したパネルを見ると、現実世界からの通信だった。となると相手は一人しかいない。ここぞとばかりに俺は手を休めて、通話の項目をタッチした。

 たちまち画面は切り替わり、シンの顔が映し出された。


「さすが、ナイスタイミングで通信を入れてくるな」

『?よく分からないけど、まあいっか。とりあえず、如月さんいる?』


 如月?……ああそうだ、弥生君の名字だ。俺は手で合図して弥生君を呼んだ。


「なんでしょうか。糸原さん」

『シンでいいよ。まあ、それはともかくとして。今日はさ……一つの疑問を解決しようと思って』

「疑問……ですか?」

『ああ、疑問ていうのは……奴らはどうやってプレイヤーを殺しているのか、なんだ。見落としていたけど、冷静に考えればいろいろとおかしいんだ』

「何がおかしいんだ?普通にダイバーのバッテリーをどうにかすりゃあ……」


 言いかけて、途中でやめた。二人から物凄い視線で見られたからだ。その視線は『馬鹿は喋るな』と無言の圧力を放っている。一つ咳払いをしてから、シンは話し始めた。


『まあ一応言っておくけど、ダイバーはそう言ったところの安全は保障しているから。ダイバーに搭載されているバッテリーじゃあ脳を焼き切る、なんて芸当は不可能だし何より……遺体にそう言った損傷が見られないんだ』

「……損傷が見られない、と言うのは目に見える傷だけではなく」

『ああ、ここがこの件の不可解なところなんだけど。何の異常もないんだ。確かに死んではいるんだが、傷が一つもない。例えるなら、魂を抜かれたような……ってとこかな』


 なんじゃそりゃ。体を傷付けずに殺すってそりゃあまるで。


「呪いじゃねえか」

『そう。まるで呪い。その呪いの種明かしをするため、通信を入れてみたんだ。なにか分かりそうかい?如月さん』


 弥生君はしばらく目を閉じて考えると、やがておもむろに言った。


「……一つだけ、心当たりがあります」

『どんな?』

「そもそもの前提として、人間の記憶と言うのはすべてが電気信号によるものなんです。そして数年前、私が所属していた研究機関が、その記憶の電気信号を紐解き、人の記憶を覗き見る技術を確立させたんです。その技術を悪用すれば、他人に勝手な記憶を植え付けることも可能だということで、公にはされていませんが」

『話が見えて来たね。つまり、プレイヤーがキルされたときに溺死なり感電死なり圧死なり、何らかの死の記憶を植え付ければ、体が自分は死んだと勘違いを起こし……』

「はい、体に損傷のない……無傷の死体が出来上がります」


 弥生君が繋げると、シンは少し黙って「分かった」と呟いた。


『うん。話を聞けて良かったよ。参考になった。それじゃあ』

「待て、シン。リーダーはどうしてる」

『リーダーなら、何かを必死になって調べてるよ。何を調べてるのかは知らないけど……あれは恐らく僕らが関わるべきことじゃない。話はそれだけ?』

「ああ」


 今度こそ通信は終わった。俺はイスに深く腰掛け、溜息を吐いた。そして書類の山を見上げる。今の話で確信したことがある。


「この書類の量……リーダーがサボってる分まで回ってきてるな」


 全く。あの人は昔から、一つの事に集中すると他が疎かになることがある。それがあの人が慕われる所以でもあるがな。


「仕方が無い。やるとしよう……」

 

 書類に向き直った時だった。ピーンポーン、とチャイムが鳴った。珍しいな。こんな場所に来るプレイヤーなんて。どうしようか、と思っていると弥生君が行ったようだった。


 じゃあいいか、と思い書類を手に取る。そして処理しようとした瞬間――ドオオオン、と爆発音が響いた。そう丁度、手榴弾くらいの。

 

「っ!!弥生君!!」


 俺は急いで駆けて行った。今の爆発音で聖も出てきたようだ。


「銭型さん!一体なにが」

「分からん!!とりあえず鍛冶工場に居ろ!」


 そう声をかけて玄関までさらに走る。右手を振りウィンドウを出現させ、手錠とコート、そして銃を装備する。移動速度を上げるスキル《ソニック》を発動し、さらに早く駆ける。

 ものの数秒で玄関までたどり着く。煙に包まれた玄関で俺は声を張り上げる。


「無事か!?何があった!!」


 返事はすぐさま帰ってきた。


「そんなことしてる暇があるなら、早く闘ってください!」


 煙が晴れていく。そこで俺の眼に映ったのは、HPを半分以上削られている弥生君と、フードを目深に被った何者かだった。

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