特異点集結
今回、新キャラが結構出てきます。
新たなステージが解放され、三ヶ月。この三ヶ月の間で、BWOの世界は大きな変化を遂げていた。第一回イベント後、自らの身を守る術がないアキンドプレイヤーは、特異点の一角、《ゲバ》をトップとした組織、その名も《商人ギルド》を作り自衛の力を強めた。
さらに、商人ギルドの発足により、莫大な資金を勝ち取った特異点はそれを元手に一つのファミリーを結成。特異点他数十名の精鋭により成る《ノアファミリー》は、それ以前より勢力を誇っていた大手のファミリーを圧倒的武力で傘下に収め、ノアファミリーをトップとした完全縦社会に造り替えることで、結果としてBWOに一時の平和を与えていた……。
そんな経緯でBWOプレイヤー残存数、約四万人から敬意と畏怖の眼で見られる特異点は今、『首都』ジェノサイドにそびえる城、ノアファミリーアジトの一室に集結していた。
部屋の中央にある長机を囲むように、七人が座している。
暫しの間続いていた沈黙を破り、一人が声を掛けた。
「えと……そろそろ、何であたしたちを呼んだのか……話してほしいなー、とか思うんですが……」
終止暗いテンションでぼそぼそと話した、三つ編みの女性は嫉妬の紅。体全体が『地味』といった雰囲気を醸し出している。それに賛同するように、今度は若い男の声が響いた。
「それには同感だな。僕も暇という訳ではないんだ。わざわざ強制収集を掛けるぐらいなんだ。よほど重要な事なんだろう?《姫》」
きちっと背筋を伸ばした、いかにも好青年という感じの男――傲慢のハーツの声だ。紅とは真逆の、よく響く声に、《姫》と呼ばれた特異点リーダー、つまりBWO世界最強のプレイヤーは答えた。
「……そうね。あんまり勿体ぶっても仕方が無いし、そろそろ始めましょうか」
凛とした声の持ち主は色欲のハート。少女にしか見えないハートだが、その実力は折り紙つきだが、彼女の得物を知る者はごくごく僅か。ほとんどの情報が謎に包まれた正体不明のプレイヤー、というのが一般プレイヤーの見解である。
「……今日の話題は、近々勃発するであろう大戦争。《ノア》への参加表明」
「要するにだ。お前らはどちらの味方に付くのか……自分の味方に付き百人を除くすべてのプレイヤーを殺すか、それともそれに抗うか。それを聞きたいわけだな」
不敵な笑みを浮かべ、眼鏡の奥の眼光を光らせた二十代後半ほどの男、《商会ギルド》リーダー強欲のゲバは要約した。無言で頷いたハートは全員を見渡し、答えを促した。
第一に答えたのは、レイジだった。
「俺は勿論、姫の味方だ。紅、お前もそうだろ?」
急に呼ばれた紅は、「ふぇ!?」と変な声を出し、辺りをきょろきょろ見回すと頷いた。これで三対四。
「じゃあ、オイラも姫様の味方に付くよ。そっちの方が、ご飯が美味しそうだしね」
巨大なキャンディを一舐めし、暴食のサイレンはのっそりとした口調で答えた。身長二メートル、幅は一メートル三十はあろうかと言う大巨漢であり、威圧感は七人の中でも飛びぬけている。
「姫、レイジ、紅、サイレンが味方に付くのか。そうだな。君たちと闘うのも、これはまた一興かな」
「……ハーツ。その言葉は、敵に回ると受け取っていいのかしら?」
「ああ、そうだよ。姫」
瞬間、二人の間に剣呑な空気が漂った。一触即発と言った感じだが、突然一つの弾丸がハーツの頬を掠めた。
「ハーツ……姫に手ぇだすなら、今ここでぶち抜いてやったって良いんだぜ?」
「やれるとでも?レイジよ」
今度はレイジとハーツの間に剣呑な空気が出来た。さっきを駄々漏らして睨み合う二人を見て、はあーとため息を吐くとゲバは言葉を挟んだ。
「やめたまえ、御両人。ここは話し合いの場だ。断じて、殺し合いの場ではないはずだ」
「ゲバか。一応聞くが、お前はどっちに付く」
「さて、どっちだろうね」
「それはどういうことだい?ゲバ」
ハーツとレイジの問いに、ゲバは眼鏡を押し上げると話し始めた。
「俺が味方に付くのはいつだって、より多くの見返りをくれる方だ。つまりは金だ。それ次第で俺は味方にもなるし敵にもなる」
それだけ言うと、ゲバは部屋を後にした。誰も制止の声は掛けなかった。下手に気を損ねてもらっては困ることを、この場の皆が一瞬で理解したからだ。
何故なら、ノアファミリーの収入源はそのほとんどが、ゲバの率いる商会ギルドによるものであるからだ。もしもゲバが敵に回ってしまえばその供給がストップしてしまい、さらに商会ギルドの所持する、豊富なありとあらゆる武器までもが敵勢力に回ってしまうからだ。
何にしても、彼の存在がこの戦争を左右することは間違いない。
レイジは舌打ちを一つ打ち、イラついた声で問うた。
「クソが。おい、ずっと黙ってるがお前はどうするんだ。カザミ」
「ああ、俺か。そうだな……散々考えたけど、俺は反対だ。悪いけど、あんたらのやろうとしてることには協力できない」
「本気か?お前、俺達との実力差が分かって言ってんだろうな?」
「当たり前だ。まあ、弱いやつは弱いなりに頑張るさ。頼れるやつもいるしな」
「……《暴君》のことか?確かに奴は強いが、この面子に敵うと思うか?」
カザミは笑顔で言った。
「別に根拠がある訳じゃあない。でもな、あいつなら……銭型なら、どんなことでも何かよく分からんうちにやってしまいそうな気がするんだ。直感だけどな。だけど俺は、その直感に賭けてみたい。それだけだ」
その言葉を最後に、室内はまた沈黙に包まれた。やがて、これ以上は必要ないだろうと思ったのか、ハートが会議の終了を告げた。一人、また一人と部屋を出ていき残りはハートだけになってしまった。
残ったハートはぽつりと呟いた。
「……シモン」
「ここに」
名を呼ばれたシモンはどこからともなく現れた。イベントの時と同じく、顔はフードに包まれており見えない。
「……この戦争。勝敗のカギを握るのはゲバではない。鍵を握るのは恐らく」
「《暴君》ですか?」
「……ええ。じゃあ、言いたいことは分かるわね?」
ハートは部屋を出ようと歩き始めた。そしてシモンとすれ違いざま言い放った。
「《暴君》銭型を、始末して」