表彰式
ほぼ一か月ぶりの更新になってしまった……。お詫びにいつもより多めの時数です。
ヒュ~、と気の抜けた音。直後に響く爆発音。それに続くように、さらに数発同じような音が光と共に夜空を照らした。俺はアキンドたちが稼ぎ時とばかりに乱立させた、数々の出店から適当に買ったつまみを食いながら、打ち上げられた花火を見上げる。
ただ今の時刻、午後十一時。いつもなら真っ暗なはずだが、辺りは出店の明かりや花火のおかげで昼間のように明るい。願わくば、いつまでもこんな時間が続いてくれることを祈るがそうもいかないだろう。
そんな感傷に浸りながら、俺は数時間前の表彰式の光景を思い出していた。
~五時間ほど前~
日が落ち始め、空が赤く染まってきたころ、俺を含めこの場のプレイヤーの視線は一つの場所へ集中していた。並べられた五つの煌びやかな椅子。そこに座しているのは無論、今回のイベントを勝ち抜いた五人のプレイヤーだ。
真ん中の席に座るのは、開始直後に馬鹿げたスピードで入賞を獲得した謎のプレイヤー、シモン。その容姿はフードに隠されており見えない。そしてそれを挟むように、二位通過のハーツが余裕そうな笑みを浮かべ、反対に三位通過の紅がしきりに辺りをきょろきょろしながら、鎮座している。
そして端っこに座るのが、四位通過のダンに、五位通過のカザミ。どちらも自然な表情をしている。
そこまで見たところで、黒い人影を映した巨大なホログラムが突如現れた。BWOをデスゲームへ変えた首謀者の一人、今現在BWOシステムの全権を握るゲームマスターだ。
『さて、あまり待たせても仕方が無いな。そろそろ、表彰式を始めようか。まず、一位通過のシモン君には賞金五十万メタ、そして特殊武器を与える。では次に、二位通過ハーツ君と三位通過紅君だ。君たちには三十万メタを与える。最後に、四位通過のダン君と五位通過のカザミ君には二十万メタを与える』
そっけない言葉を事務的に、そして一息に言い終わった首謀者は暫し沈黙すると、再び語りだした。
『表彰式はこれにて終わりだ。しかし、最後に一つだけ伝えるべきことがある。重要なことだ。それは……』
たっぷりの間を持って、首謀者は宣言した。
『これより新ステージ《ジェノサイド》及び《グリード》を解放する。どちらもこの《始まりの町》の三倍以上の広さを有する。それと同時に、死の可能性も跳ねあがっているがな。どうするかは君たち次第だ。それでは諸君らの健闘を祈る』
その言葉を最後に、ホログラムは掻き消えた。一瞬の静寂、直後気が高ぶったプレイヤーたちの怒声、歓声、叫び声が木霊した。画言う俺だって、何故か無性に、声を大にして叫びたい衝動に襲われた。自制心を以てそれを抑えるが、武者震いと湧き上がってくる笑みまでは抑えきれない。
今この瞬間。ここに居る、俺を含めた全プレイヤーの奥底に眠る気持ちは完全に合致していたのだろう。すなわち、『この仮想の世界で、命を掛けて闘いたい』という戦闘欲。
何だかんだで、こんなゲームをプレイしようとするのは、少なからず殺人願望のような物を心に抱く人間だ。モンスターを派手な魔法で蹴散らすことに満足できず、人を、自分と同じ種族を殺してみたいという気持ちが無ければ、こんなゲームをプレイしようとは思わないだろう。事実、BWOベータテスターはその八割が他タイトルのVRMMOでPKを生業にしてきた者である、という研究結果も報告されている。
そして今。そんな彼らの、ほんの少しの殺人衝動が爆発した。それはまるでウイルスの様に周辺のプレイヤーをも巻き込み、広がって行く。
本格的なデスゲームが、始まりを告げようとしていた――。
ゴクリ、と最後のつまみを飲み込んで俺は立ち上がった。新たなステージ、《虐殺》と《欲望》へ足を踏み入れた者は既に少なくないだろう。
「俺も……行くとするかな」
「何処へですか?」
「ん?そりゃあ勿論、新ステージに……って、え?」
俺は目を見開いた。それはもう、これ以上ないほどに。
「弥生……君?」
何とか発したその言葉に、弥生君はジトっとした目――これが所謂ジト目と言う奴か!?――でぶっきらぼうに、「そうですが」と返してくれた。
「えーっと……とりあえず、何でここへ?」
「祭りだから、と答えておきます。それより、まず先に言う事があるのでは?」
「……いや、その、えっと」
まずい、どうにかしなければ。何か他の話題を。……そうだ!
「聖は、少年はどうして……」
「何か言いましたか?ああそう言えば、聖君は部屋で眠ってますよ。聞けばまだ八歳だそうですから。夜更かしはいけませんしね。……それで、何か?」
弥生君は張り付けたような笑顔、人当たりの良い所謂、営業スマイルで聞き返してくれた。やっぱりこの完璧エリート様は絶対性格悪い。間違いない。こいつはどうしても俺に言わせたいのだろう。「負けてしまってすみません」の謝礼の言葉を。
「そう言えば聞き忘れていましたが、戦果はどうだったんですか?まあ勿論、負けた、なんてことはないと思うのですが……」
知ってて言ってるだろ。これ絶対に知ってて言ってるよね?どうする?覚悟決めるか?素直に謝るか?ごくりと生唾を飲み込む。……えーい儘よ!言ってやるよ、言えばいいんだろ!!
「……負けてしまって……すみません」
「別に謝ることなかったのですが。まあ、惨めに無様に格好悪く見てられない程にボッコボコにされた銭型さんが言うのですし受け取っておきましょう」
弥生君の言葉の暴力が、俺のメンタルにグサリと突き刺さった。確かに負けたが、何もそこまで言うことはないだろうに。しかも、営業スマイルではなく心からの笑顔で言うのだから、余計性質が悪い。
「まあ、金銭面に関しては私に任してくだされば問題はないですよ。仕事は全て任せますけど」
「アハハハ……俺の休暇はどこへ行ったのやら……」
兎にも角にも、第一回イベントはこれにて終了した。そして俺は再度心に決めた。
首謀者絶対ぶっ飛ばす!!
時間は僅かにさかのぼり、表彰式直後。逸早く新ステージ《ジェノサイド》へ入っていたプレイヤーの内、数人ほどが一人のプレイヤーを取り囲んでいた。囲まれているプレイヤーの身長は目測百五十センチあるかどうか、と言うほどに小さい。
それに加え、BWOでは珍しい女性プレイヤーのため、下衆な思考に思い立ったプレイヤーたちに囲まれているのだ。
「ヒヒヒヒ、怯えなくていいぜ?お嬢ちゃん」
「そうそう、ちょっと遊ぼうってだけなんだから」
血走った目で近寄ってくる男たち、普通に見れば少女の命は風前の灯と言ったところだろう。
普通ならば、だが。
「……そんな雑魚キャラ特有の言葉使ってさ、恥ずかしくないの?おじさんたち」
「は?」
男たちは歩みを止めた。少女が言い放った言葉もあるが、突然ウィンドウを開き操作し始めたからだ。が、すぐに気を戻して再び歩みを始めた。
「あんまし生意気なことは言わない方がいいぜ?俺達もそう優しくは出来なくなっちゃうからさぁ~」
「……つまんない奴ら」
少女は言うと同時にウィンドウ操作を終了した。直後、男一人の悲鳴と血飛沫が暗い夜闇にぶちまけられた。体中を穴だらけにした死体が転がる。続いて二人三人。数はどんどん増えていく。
「な……なんだこいつ……」
「バイバイ」
とうとう最後の一人が殺された。少女はそれを見届けると、再度ウィンドウを操作しステータス欄を表示した。
「……一つ上がってレベル『42』、か。まあ、十五日目にしては上出来かな?」
ステータス欄に表示されているプレイヤー名は――ハート。少女は微笑むとウィンドウを消し、足早に去って行った。
一章はこれにて終了です。二章はかなり時間を飛ばして数か月後の話になります。その前にプロローグ的なものを一話挟むかもしれませんが。それではちょっとばかし次回(章?)予告を……。
遂に始まった大戦争。《特異点》率いる軍勢を相手に、他プレイヤーは生き抜くことが出来るのか!?そして闘いの最中に明かされる、銭型の過去とは?ラブロマンスもある……かも知れない第二章、近日開幕!!