ルール説明
「泣くなよお前ら。十人全員が揃いも揃って。悪いのは俺なんだから。最後ぐらい、笑って送ってくれよ。」
豪快に笑いながら、体を縛られている親父はそう言った。そんなこと言ったって、未だに現実感がない。いきなり死ぬとか言われたって、理解できるわけがない。
ほんと意味分からねえ、勝手で最低なクソ親父だ。なのになんで。
「なんで……涙が出てくるんだよ……」
ギリ、と歯軋りをして涙を止めようと頑張る。けどそんなことしたって、涙は出てくる。きっと今俺は間抜けな顔をしているんだろう。悔しい。あいつはなんで笑ってられるんだ。少しぐらい悲しそうな顔をしろよ。俺たちだけ泣いて、馬鹿みたいじゃないか。少しは近づいたと思っていた。それなのに……俺はあいつと同じ土俵にすら立てていないって言うのか。
「ふざけんなよクソ親父!!俺はまだあんたに追いついてないってのに……勝ち逃げする気か!!」
荒い息を吐きながら涙をこらえる俺がおかしいのか、親父はいきなり吹き出した。そして大爆笑。何なんだ一体。こんなふざけた男に俺は負けているのか。思わず睨みつけた。思えばこれは怒りじゃなく嫉妬なのかもしれない。醜いにも程がある。
「はぁ~ぁ。ったく、おい八郎。お前は俺の息子たちの中でも特に優秀なやつだ。だからこそ、俺の後継ぎとしてお前を選んだんだ。だからよ、もしお前が自分のやっていることに悩んだ時のため、最後に一言言わせてもらう。犯罪者は許すな!!法は理屈じゃ罷り通らない!!それと、お前はもう俺に追いついてるよ。俺が認めてやる……以上だ。じゃあな」
親父は笑った。死を覚悟して尚笑うという姿は……認めたくなんてないが最高にかっこ良かった。銃が付きつけられ、引鉄に手が掛けられる。そして無情にも簡単に引かれた。銃声が響き、親父がドサリと倒れる。恐ろしくあっさりしていたが、確かに終わったのだ。親父の人生が。
「……最後までふざけやがって。何がお前はもう俺に追いついた、だ……」
俺はまだあんたに少しも追いつけてねえよ……。
「……嫌な夢見ちまったな」
最悪の気分だ。あの時の夢は夢は度々見るが、思い出すだけでも腹が立ってくる。一人で愚痴っていても仕方が無い。取りあえず辺りを見渡す。見た当たりここは控室のような場所だが。それに人が沢山いる。これらから察するに……。
「勝ち残った……てことで良いのか?」
「うん。そうだよ~」
誰に当てたわけじゃない言葉に返事をしたのは、予選で共闘する羽目になったあのカザミだった。人前ではこの喋りで統一するらしいな。とにかく、こいつがいるってことは勝ち残ったと考えていいだろう。ひとまずの課題はクリアだ。
「カザミ、あれから何分経った?最後のシステム音で三十分後に本戦を開始すると聞いたが」
「ん~、もうそろそろ三十分経つんじゃないかな~?大分長い間眠ってたからね~」
カザミが言い終わろうとした時だった。突然ピンポンパンポ-ンというお馴染みの音が響き、部屋の壁に取り付けられているモニターに人影が映った。人影は予選開始の時と同じ、くぐもった声で話し始めた。
『勝ち残った三十人の戦士よ。まずは健闘を称えておこう。だが、今までのはあくまで予選。これから本戦のルール説明を行う。その前に、まず君たちにはこれを付けてもらう』
言うや否や、この場にいる俺たち全員の手首にポリゴンが集まりだした。そのポリゴンは次第に形を作っていき、最終的に三つの画面を持ったブレスレットへと変貌した。三つの画面には絵柄が付いており、例えるならちょうどルーレットだ。まさか、ルーレットが揃ったら勝ちとでも言うのか?
『さて、もう気づいてる者もいるかもしれないが一応言っておく。本戦の競技『バトルーレット』の勝利条件はそのルーレットを揃えることだ。勿論、簡単には行かないがね。君たちのそのルーレットはプレイヤーを一人倒すごとに一つずつ埋まっていく。つまり、三人のプレイヤーを倒せば入賞という訳だ。ただし、入賞者は五人まで。五人目の入賞者が出たところでゲームは終了だ。これでルール説明を終わる。この後、諸君らをフィールドへと転送するが、ゲーム開始は転送完了の瞬間からだ。諸君らの健闘を祈る』
なかなかシンプルなゲームだな。要は三人のプレイヤーを早く倒せ、という事。ルーレットである必要があるのかないのかは分からないが、まぁそれを聞くのは野暮というものだろう。
そんなことを考えているうちに、体が足の方から消えていっている。フィールドへの転送も時間の問題だ。足から腰、胴、胸が消えていき残すところは頭のみ。数秒としない間に視界が切り替わり、景色が緑に包まれた。森だ。本戦のフィールドは木々が生い茂る森。
息を吐き、武器を装備する。
『イベント本戦、『バトルーレット』を開始します』