カウントダウン
現れたポリス二体に向かって、俺とカザミは走り出した。最短の動きで背後に周り、スキルの準備を整える。単純に強いのは恐らくポリスたち、長引けば長引くほど、勝てる可能性は低くなる。ならば肝心なのは初めの一手。強力な一撃――《ヘッドショット》をぶち込む。
「ボムバレット!!」
着弾直後に爆破を起こす《ボムバレット》。至近距離で使ったために、自分自身もダメージを受けてしまった。しかしほぼ零距離からの、さらにヘッドショットならば、そんなことどうでも良くなるほどのダメージを与えたはず。目を細め、煙であまり見えないポリスに目を凝らす。やがて煙が晴れていき、ポリスのHPが確認できた。減少したHPは……僅か十。
「……は?」
自分で確認しておきながら、そんな間抜けな声しか出なかった。確かにさっきの攻撃は綺麗に当たったはずだ。弱点の頭へ、直撃したはずだ。まさか、ポリスにはヘッドショットが通用しないのか?……いや、そんなはずはない。ポリスにだってヘッドショットはプレイやーと同じように効く、それはベータテストで明らかになっていたはず。それならば、考えられる可能性、それは一つ。
レベルの差。
単純で、これ以上ないほどシンプルな、どうしようもない差だ。少し前、シンが言っていたように、この世界は大前提としてゲーム。ちょっと考えれば分かる。ここではレベルで全ての優劣が決まるということが。
横目でカザミの方を見てみる。苦戦はしているものの、何とか持ちこたえている。あれを見る限り、ポリスのレベルは三十前後ってとこだろう。まともにやりあえば、どちらが勝つかなど小学生でも分かる。
「カザミ、逃げるぞ!!勝ち目がない!!」
「おいおい、正気か!?こいつらに背後を見せるなんて……」
「ここで闘ってもやられるだけだ。惨めに自分の無力を体感するより、無様に必死で逃げた方がまだ増しだ」
言いながら《ボムバレット》を地面に向けて放つ。爆発が起こり、それによって生じた煙を目くらましに、爆風を推進力に使い後ろに逃走する。少し前にはカザミもいる。何やらいろいろ言ってるが、無視しとこう。今は逃げる。とにかく遠くへ。残りプレイヤーは三ケタを切った。こいつ等から逃げ切れば俺たちの勝ちだ。
「いつの間にか、普通のけいどろになっている気がするが、まあいいか」
「これを普通なんて呼べるお前の脳内を、一度見てみたいね!!」
言った傍から銃弾が頬を掠った。ちくっとした痛みが襲ってくる。そんな可愛げな痛みでも、HPは三割方減っているのだから恐ろしい。残りプレイヤーは五十人を切っており、既にカウントダウン状態だ。ほんの短い間に一人、また一人と減っていく。
まだか、まだなのか。焦りばかり募っていく。ほんの後十数人のカウントダウンが限りなく遅い。
銃弾が今度は足を貫いた。強めの痛みが伴い、HPバーが一気に危険区まで減っていく。後一撃、どこかに掠りでもすればその時点で終わりだ。走り続けスタミナが限界を切ったのか、足が重くなった。けど……それがどうかしたか?
「五人を切った!!もう少し、あと少しだぞ銭形!!」
終了まで、あと十秒といらないだろう。今この瞬間でさえ減っているのだから。一人二人三人と、どんどん減っていく。残り一人。
カウントダウンを見守る俺たちを尻目に、ポリスが追撃を仕掛けてくる。その銃弾の行き着く先は俺の頭。そして弾が俺に届くのとほぼ時を同じくして、カウントダウンは三十へと変わった。そのやられた一人は俺か、それとも名も知らぬ誰かか。
とにかく、俺は聞いた。あるシステム音を。
『戦闘けいどろ終了。戦闘けいどろ終了。勝ち残った三十名のHPを回復後、本線会場へと転送します。三十分後、イベント本線『バトルーレット』を開始いたします』